漢字発祥の国だけあって、中国の「四字熟語」は、人生訓にもなるような含蓄に富んでおり、数千年の悠久の歴史を背景とした故事に由来するものも多く、人類の叡智の結晶とも言えます。
そこで今回は、「元気・健康」を表す四字熟語のうち、「元気がない」「健康、病気」を表す四字熟語をご紹介したいと思います。
1.元気がない
(1)青息吐息(あおいきといき)
非常に困ったときや、きわめて苦しいときに発する元気のないため息。また、そのようなときの状態をいう。大きな心労・苦労があるとき、心身ともに疲れ果て、苦しそうな息づかいをすることから。
「青息」は苦しいときの息。青ざめて息を吐くからとも、大息(おおいき)の転からともいう。「吐息」はため息。
「―息」の熟語を重ねることで語調を整え、意味を強めたもの。
(2)黯然失色(あんぜんしっしょく)
衝撃を受けて気力を失うこと。
「黯然」は暗い様子。または、顔色を失うこと。
「失色」は元の色が失われること。または、顔色を失うこと。
本来の色が消え失せて、暗く冴えない色になるという意味から。
(3)意気消沈/意気銷沈(いきしょうちん)
元気をなくすこと。しょげかえること。
「消沈」は気力などが衰えること。
(4)意気阻喪/意気沮喪(いきそそう)
意気込みや元気がくじけ弱ること。
「阻喪」は気力がくじけ、勢いがなくなること。
(5)一蹶不振(いっけつふしん)
一度の失敗で挫折してしまい、二度と立ち上がれなくなること。
「蹶」はつまずくこと。「不振」は勢いがなくなること。
「一蹶(いっけつ)して振るわず」と訓読する。
(6)萎靡沈滞/委靡沈滞(いびちんたい)
物事の働きや動きが衰え、活気や勢いがなくなってしまうこと。
「萎靡」は、草木などがなえしぼむこと。「沈滞」は沈みとどこおること。いずれも活気がなくなるたとえ。
(7)萎靡不振(いびふしん)
元気がない様子。
「萎靡」は活気がない様子。
「萎靡(いび)して振るわず」と訓読する。
(8)陰陰滅滅(いんいんめつめつ)
気分が暗く気の滅入(めい)るさま。また、暗く陰気で物さびしいさま。
気分や雰囲気にいう。
「陰陰」は薄暗く物さびしい様子。物さびしく陰気な様子。「滅滅」は生気がなくなり暗いさま。
(9)鬱鬱怏怏(うつうつおうおう)
不安や悲しみなどで気分が晴れず、不満を持っていること。
「鬱鬱」は気分が晴れない様子。「怏怏」は不平や不満がある様子。
(10)尩繊懦弱(おうせんだじゃく)
気弱で体が虚弱で細いこと。
「尩」は体が弱いこと。「繊」は体が細いこと。「懦弱」は心が弱いこと。
(11)灰心喪気(かいしんそうき)
がっかりして元気をなくすこと。
「灰心」は火が消えた冷たい灰のように、元気がなくしょげている心。「喪気」は元気を失うこと。
(12)顔面蒼白(がんめんそうはく)
恐怖やけがなどのために、顔色が青ざめて見えるさま。
(13)気息奄奄(きそくえんえん)
息も絶え絶えで、今にも死にそうなさま。息をする力も弱く、今にも止まりそうな様子。転じて、広く事物などが今にも滅びそうな様子をいう。
「気息」は呼吸、息づかい。「奄奄」は息が絶え絶えなさま。生気のないさま。「奄」は、おおう、ふさがる意。
(14)窮極無聊(きゅうきょくぶりょう)
非常に貧しく希望がないこと。または、貧しく、心苦しいために、何も楽しめないこと。
「窮極」は貧しさが極限に達すること。
「無聊」は頼りになるものがないこと。または、心に憂いがあって何も楽しめないこと。
(15)局促不安(きょくそくふあん)
臆病でちょっとしたことにすぐに怯える様子。または、そわそわしている様子。
「局促」は臆病で落ち着きのない様子。
「局促(きょくそく)として安(やす)からず」と訓読する。
(16)跼天蹐地/局天蹐地(きょくてんせきち)
恐れおののいてびくびくすること。ひどく恐れて身の置き所のないこと。また、世間をはばかって暮らすこと。
天は高いのに身をかがめ、大地は厚いのに抜き足差し足でそっと歩く意から。
「跼」は身をかがめて、せぐくまること。「蹐」は抜き足差し足で歩くこと。
「天(てん)に跼(きょく)し地(ち)に蹐(せき)す」と訓読する。略して「跼蹐」ともいう。
(17)形銷骨立(けいしょうこつりつ)
疲労で痩せ衰え、弱りきっている様子。
「形銷」は痩せ衰えること。「骨立」は痩せて骨だけになること。
体が痩せ衰えて骨だけになるという意味から。
(18)形容枯槁(けいようここう)
顔だちがやせ衰えて生気がないさま。やつれること。
「形容」は、顔だち・容貌のこと。「枯」も「槁」も、枯れる。「枯槁」は、草木が枯れること。転じて、やせ衰えること。また、生気がないさま。
(19)槁項黄馘/槀項黄馘(こうこうこうかく)
ひどくやつれて、やせ細っている様子。
「槁項」はやつれて細くなった首筋、「黄馘」は疲労で黄色くなった顔で、非常にやつれた顔という意味から。
(20)槁木死灰(こうぼくしかい)
身も心も生気がまったくなく、何の働きもしないたとえ。無欲で無心なさま。
「槁木」は枯れ木。からだが枯れ木のように静止して不動なことの形容。「死灰」は燃え尽きて、火の気のない灰。心が火の気のない灰のように無心なことの形容。いずれも生気や活気のないさま。
(21)鵠面鳩形(こくめんきゅうけい)/鳩形鵠面(きゅうけいこくめん)
飢えて痩せ細っている人の様子。
「鵠面」は鳥のくぐいのようにやせほそった顔のこと。
「鳩形」は鳩のように腹がへこんでいて、胸が突き出た体型のこと。
(22)孤城落日(こじょうらくじつ)
勢いが衰えて助けもなく心細いさま。孤立して援軍のない城が、沈もうとする夕日に照らされている光景。
「孤城」は孤立して援軍の来ない城のこと。「落日」は西に沈む夕日。
(23)虎頭蛇尾(ことうだび)
最初は勢いがいいが、最後はふるわないことのたとえ。
「虎頭」は、虎の頭。「蛇尾」は、蛇のしっぽ。虎の頭は大きくて威圧感があるが、蛇のしっぽは細くてぱっとしないことから。「頭でっかち尻つぼみ」と同意。
(24)枯木死灰(こぼくしかい)
煩悩や妄念などがなく無心のたとえ。また、心の熱い活動がなく死んでいるようなさま。情熱や活気のないたとえ。
死んで枯れた木と火の気がなく冷たくなった灰の意から。
(25)再起不能(さいきふのう)
病気が治る可能性がないこと。転じて、失敗や挫折から立ち直ることができない状態のこと。
(26)士気阻喪/士気沮喪(しきそそう)
集団全員の熱意ややる気がそがれて、勢いがなくなること。意気込みがなく、気落ちしているさま。
「士気」は、戦う前の兵士たちの気力。「阻喪」は、くじけること、気持ちが萎(な)えること。
(27)秋風蕭条(しゅうふうしょうじょう)
物寂しい様子。
「蕭条」は植物が枯れるということから、物寂しい様子のたとえ。没落して物寂しい様子を夏が過ぎた後に吹く、寂しげな秋風の様子にたとえたもの。
(28)縮手縮脚(しゅくしゅしゅくきゃく)
極めて寒く、手足が縮こまっていて伸びない様子。
または、周りを気にし過ぎて、物事を敢行できないこと。
手足が縮こまるという意味から。
(29)銷鑠縮栗(しょうしゃくしゅくりつ)
がっかりしたり、恐れたりして逃げ去ること。気分が沈み込んだり、恐怖でおびえたりするさま。
「銷鑠」は、溶けてなくなる、とろけるさま。「縮栗」は、おびえて縮み上がるさま。
(30)垂頭喪気(すいとうそうき)
元気をなくしてしょげかえり、がっかりすること。
「垂頭」は頭を低くたれること。「喪気」は元気がなくなること。
「頭(かしら)を垂(た)れ気(き)を喪(うしな)う」と訓読する。
(31)精神鬱怏(せいしんうつおう)
気分が晴れず、落ち込んでいる様子。
「鬱怏」は気持ちが落ち込んでいて、すっきりしない様子。
(32)精疲力尽(せいひりきじん)
酷く疲れて弱ること。
「精(せい)疲れ力(ちから)尽く」と訓読する。
(33)喪家之狗(そうかのいぬ/そうかのく)/喪家之犬(そうかのいぬ)
やつれてしまって元気のない人、落胆して志を得ない人のたとえ。また、身を落ち着かせるところがなく放浪している者のたとえ。
「喪家」は葬式を出して喪に服している家のこと。「狗」は犬。喪中の家では悲しみのあまり犬に餌をやることも忘れてしまい、犬がやせ衰えてしまうという意。また、「喪」を失うという意味にとって、宿なしの犬と解釈する説もある。
(34)痩骨窮骸(そうこつきゅうがい)
老いて衰えた体のこと。
「痩骨」と「窮骸」はどちらも細くなって衰弱した体のこと。
(35)頽堕委靡(たいだいび)
体力や気力などがだんだんにくずれ衰えていくこと。
「頽堕」はくずれ落ちる、だらしがなくなること。「委靡」は衰える、弱る意。
(36)沈鬱悲壮(ちんうつひそう)
落ち込んでいる中でも、勇ましく力強いところがあること。
「沈鬱」は気分が暗く落ち込むこと。「悲壮」は悲しい中にも勇ましさがあること。
(37)日陵月替(にちりょうげったい)
日に日に衰退していくこと。
「陵」は丘、また衰える、廃れる意。「替」は廃れることで、丘がだんだん低くなるように衰えること。「日~月~」は日に日にそうなっていくこと。
「日(ひ)に陵(りょう)し月(つき)に替(たい)す」と訓読する。
2.健康・病気
(1)可惜身命(あたらしんみょう)
身体や命を大切にすること。
「可惜」は、「このまま終わってしまうのは惜しい、惜しむべきだ」という意。また、すぐれたものがそれ相応に扱われていないのを惜しむ意。「身命」は、身体と命。
(2)医食同源(いしょくどうげん)
病気を治す薬と食べ物とは、本来根源を同じくするものであるということ。食事に注意することが病気を予防する最善の策である、また、日ごろの食生活も医療に通じるということ。
「医食」は医薬と食事、「同源」は根源が同じ意。
(3)一病息災(いちびょうそくさい)
病気もなく健康な人よりも、一つぐらい持病があるほうが健康に気を配り、かえって長生きするということ。
「息災」は健康であること、身にさわりのないこと。
(4)彊食自愛/強食自愛(きょうしょくじあい)
つとめて食事を取って、からだを大事にすること。
「彊」は、「強」と同じ意。「彊食」は、食欲がなくても、強いて食べること。「自愛」は、自分のからだに気をつけること。
(5)膏肓之疾(こうこうのしつ/こうこうのやまい)
不治の病、難病のこと。
「膏」は、心臓の下の部分。「肓」は、心臓の下、横隔膜の上の部分。どちらも昔の医者が薬も鍼(はり)も届かないため、治療できないと考えたところ。「疾」は、病気のこと。
(6)才子多病(さいしたびょう)
才知にすぐれた人は、とかくからだが弱く病気がちであるということ。
「才子」は才知のあるすぐれた人。
(7)採薪之憂/采薪之憂(さいしんのうれい)
自分の病気をへりくだっていうことば。病に伏して、薪(たきぎ)を採ることさえ、ままならないという意味。
(8)四百四病(しひゃくしびょう)
仏教語で、人のかかる病気のすべて。
人体は「四大(しだい)」と呼ばれる地・水・火・風の四つの元素から構成されていて、これが不調なとき、それぞれ百一の病気を生ずるとされる。
(9)十全健康(じゅうぜんけんこう)
病気の部分がなく、完全に健康なこと。
「十全」は完全なこと。「健康」は体や心に悪いところがないこと。
(10)心腹之疾(しんぷくのしつ/しんぷくのやまい)
心臓や内臓に起こる治りにくい病気のこと。転じて、とり除くことや、打ち破ることが難しい敵や障害のこと。
「疾」は、やまい・病気のこと。
(11)頭寒足熱(ずかんそくねつ)
頭部を冷たく冷やし、足部を暖かくすること。また、その状態。
「頭寒」は頭部を冷やすこと。「足熱」は足を暖める意。このようにすると健康によいとされる。
(12)無事息災(ぶじそくさい)/息災無事(そくさいぶじ)
病気や災いなど、心配事がなく、平穏に暮らしていること。また、そのさま。
「息災」は災いを防ぎ止めること。「息」はやめる、しずめる意。
(13)負薪之憂(ふしんのうれい)
自分の病気を謙遜していう言葉。
「負薪」は薪を背負うこと。「憂」は病気。
薪を背負ったせいで疲れてしまって病気になるということから。または、病気になってしまい、薪を背負う余力も無くなるということから。
(14)蒲柳之質(ほりゅうのしつ)
生まれつきからだが弱く、病気にかかりやすい体質。
「蒲柳」は、カワヤナギ。秋に入るとすぐに落葉してしまうことから、体質の弱いことにたとえられる。
(15)無病息災(むびょうそくさい)
病気せず、健康であること。元気なこと。
「無病」は病気にかかっていないこと。「息」はやめる、防ぐ意。「息災」はもとは仏の力によって災害・病気など災いを除く意。転じて、健康で元気なさまをいう。