漢字発祥の国だけあって、中国の「四字熟語」は、人生訓にもなるような含蓄に富んでおり、数千年の悠久の歴史を背景とした故事に由来するものも多く、人類の叡智の結晶とも言えます。
そこで今回は、「暮らしぶり」を表す四字熟語のうち、「貧しさ・質素」を表す四字熟語をご紹介したいと思います。
1.貧しさ・質素
(1)悪衣悪食(あくいあくしょく)
質素で粗末な着物や食べ物。
「悪衣」は粗末な着物。「悪食」は「あくじき」とも読むが、この場合は、粗末な食事という意味のほかに、人がふつう口にしないものを食べる、いわゆるいかもの食いの意味がある。
『論語』里仁(りじん)の「士、道に志して悪衣悪食を恥ずる者は未だ与(とも)に議するに足らず」(道徳の修養に志す人で、自分の外面的な粗末な衣食を恥ずかしいと思うようでは、まだ一緒に道を論ずる資格はない)に由来する。
(2)一汁一菜(いちじゅういっさい)
非常に粗末な食事のたとえ。汁物もおかずも一品の食事の意から。
「菜」はおかずの意。
(3)一裘一葛(いっきゅういっかつ)
この上なく貧しい暮らしのたとえ。
「裘」は冬に着る毛皮の服。「葛」は夏に着る薄い布の服。
それぞれを一枚ずつしか持たず、ほかの着替えを持たないということから。
(4)一瓢一簞(いっぴょういったん)
粗末な飲食物。貧しい生活。または、贅沢がなく、無駄の少ない生活。
「瓢」は飲み物などを入れるひさご。
「簞」は竹を編んで作った飯を入れるための器。わりご。
一つのひさごに入れた汁物と一つのわりごに盛った飯の意味から。
(5)一簞の食(いったんのし)/一瓢の飲(いっぴょうのいん)
わずかばかりの飲食物。清貧に甘んじる生活のたとえ。
『論語』「雍也 (ようや) 」に由来する言葉
(6)衣弊履穿(いへいりせん)
ひどく粗末な服装のこと。貧しいことのたとえ。
「衣弊」は使い古して敗れた衣服。「履穿」は履物が破れ穴があくこと。
「衣(い)弊(やぶ)れ履(くつ)穿(うが)つ」と訓読します。
衣履弊穿(いりへいせん)とも言う。「衣履」は服と靴のこと。「弊穿」は破れたり、穴があくこと。
(7)甕牖縄枢(おうゆうじょうすう)
貧しく質の悪い家のたとえ。
甕(かめ)の口のような小さな窓と、扉の軸となる枢(とぼそ)の代わりとして縄を用いている家ということから。
「甕」はかめ、「牖」は窓のこと。また、「甕牖」は割れたかめの口の部分を壁にはめ込んで窓にしたものをいうこともある。「枢」は扉の軸の部分のこと。
(8)褞袍粗糲(おんぽうそれい)
粗末な服装で、粗末な食事をすること。または、貧しい暮らしをすること。
「褞袍」はどてらのことで、粗末な服装のたとえ。
「粗糲」は玄米のことで、粗末な食事のたとえ。
(9)葛屨履霜(かっくりそう)
貧しいことのたとえ。または、ひどい扱いをされることのたとえ。また、度を越した倹約をすることのたとえ。
「葛屨」は葛の蔓を編んで作った靴で、主に夏に履くためのもの。
夏に履くための涼しい靴で、冬の霜を踏むことから。
「葛屨(かっく)霜(しも)を履(ふ)む」と訓読します。
(10)家徒四壁(かとしへき)
きわめて貧しいことのたとえ。もとは家の中に家財がなく、ただ四方の壁だけが立っている意。
「徒」は「ただ」「…だけ」の意。「家、徒(ただ)四壁のみ」と訓読します。
(11)環堵蕭然(かんとしょうぜん)
家が非常に狭く、みすぼらしくさびしいさま。
「環堵」は小さく狭い家のこと。四方それぞれ一堵の家の意。
「環」は四周・周囲。「堵」は一丈(いちじょう)(約2.25m)とも五丈とも四十尺ともいい諸説ある。「蕭然」はみすぼらしくさびしいさま。物さびしく荒れ果てたさま。
(12)窮閻漏屋(きゅうえんろうおく/きゅうえんのろうおく)
大通りの裏にある荒れ果てた家のこと。
「窮閻」は貧しい町の中。「漏屋」は雨が漏れる家、荒れ果てた家。
(13)窮途之哭(きゅうとのこく)
貧しくて、生活に困窮した悲しみのこと。
「窮途」は、行き止まりの道のこと。転じて、苦境や困窮の意。「哭」は、声を上げ、悲しんで泣くこと。
中国晋(しん)の時代、阮籍(げんせき)は、車で外出し、道が行き止まりになっているところまで来て、嘆き悲しんで引き返したという王勃(おうぼつ)の「滕王閣序(とうおうかくのじょ)」の故事から。
(14)曲肱之楽(きょくこうのたのしみ/きょくこうのらく)
清貧に甘んじて学問に励み、正しい道を行う楽しみ。また、貧しさの中にある楽しみ。
「肱」は、ひじのことで、「曲肱」は、ひじを曲げて腕枕(うでまくら)とすること。ひじを枕の代わりにするような貧しい生活という意から。
出典(『論語』述而)の「疏食(そし)を飯(く)らい水を飲み、肱(ひじ)を曲げて之(これ)を枕とす。楽しみ亦(また)其(そ)の中に在(あ)り」から。
(15)荊釵布裙(けいさいふくん)
慎ましく質素な女性の服装のたとえ。
「荊釵」は荊のかんざし、「布裙」は布のもすそのこと。
梁鴻の妻の孟光は、節約のために荊のかんざしと布のもすそをいつも身につけていた故事から。(『太平御覧』「七一八引皇甫謐『列女伝』」)
(16)羹藜含糗(こうれいがんきゅう)
粗末な食べ物のたとえ。または、日々貧しい食事をとって暮らすことのたとえ。
「羹」は吸い物、「藜」は植物のアカザのことで、「羹藜」は粗末な食べ物のたとえ。
「糗」は保存のために干した飯のこと。
アカザの吸い物を食べ、干した飯を口に含むという意味から。
「藜(れい)を羹(あつもの)にし糗(きゅう)を含む」と訓読します。
(17)枯槁之士(ここうのし)
地位や財産などを失い、痩せ衰えた人のこと。または、隠居している人のたとえ。
「枯槁」は植物が枯れるということから、人が痩せ衰えること。
(18)困苦欠乏(こんくけつぼう)
生活に窮して困り苦しむこと。
「欠乏」は食物など生きるのに必要なものが乏しいこと。
(19)采椽不斲(さいてんふたく)
簡素な建物。
「采椽」は建物の棟木から軒桁にかけて斜めに取りつけ、屋根板を支える垂木に切り出して削っていない丸太をそのまま使うこと。「斲」は削ること。
中国の古代の伝説上の天子である尭帝の宮殿が簡素であったことをいう言葉。
「采椽(さいてん)斲(けず)らず」と訓読します。
(20)三旬九食(さんじゅんきゅうしょく)
生活がひどく貧しいことのたとえ。
「三旬」は一ヶ月のこと。一ヶ月の間に九回しか食事ができないという意味から。
中国の春秋時代の子思が衛の国にいた時に、一ヶ月で九回しか食事ができないほど貧しかったという故事から。
(21)四海困窮(しかいこんきゅう)
世の中の人々が貧乏で生活に困ること。
「四海」は四方の海の内側という意味から、世の中や国内、世界のたとえ。
(22)囚首喪面(しゅうしゅそうめん)
顔かたちを飾らないことのたとえ。
囚人のように、梳とかし整えられていない髪と、喪中の人が顔を洗わないように、汚れた顔の意から。
「首」は頭。「面」は顔。
(23)縮衣節食(しゅくいせっしょく)
衣食を節約すること。倹約すること。
「節」ははぶくこと。倹約すること。
「衣(ころも)を縮(ちぢ)め食(しょく)を節(せっ)す」と訓読します。
(24)上漏下湿(じょうろうかしゅう)
貧しい家、あばら家を言い表す言葉。
屋根からは雨が漏れてきて、床から湿気が上がってくるという意味から。
「上(かみ)は漏(も)れ下(しも)は湿(しめ)る」と訓読します。
(25)赤貧如洗(せきひんじょせん)
ひどく貧しいこと。
「赤」は何もないこと。水で洗い流した後のように何もないということから。
「赤貧洗うが如し」という形で使うことが多い言葉。
(26)節衣縮食(せついしゅくしょく)
節約すること。
衣服や食事の無駄をはぶくということから。
「衣(い)を節し食を縮(ちぢ)む」と訓読します。
(27)節倹力行(せっけんりっこう/せっけんりょっこう)
むだ遣いをやめて費用を減らすことに努め励むこと。また、倹約に努め励み行うこと。
「節倹」は節約と倹約で、むだな費用を減らすこと。「力行」は努力して行うこと。
(28)千里無煙/千里無烟(せんりむえん)
国中の民衆が貧困のきわみにあるということ。
広い地域にわたって、料理のための竈(かまど)からの煙が見えないという意味。
「千里」は、「千里四方」のことで、遠方までの広大な地域全体。
(29)粗衣粗食/麁衣粗食(そいそしょく)
質素な暮らし、貧しい生活の形容。
「粗」は粗末、質のよくないこと。「衣」「食」は生活の基本。
(30)簇酒斂衣(そうしゅれんい)
貧しい生活のたとえ。
「簇」と「斂」はどちらも集めるという意味で、「簇酒」は酒を少しずつ集めること、「斂衣」は布の端切れを集めること。
酒好きで貧しい辛洞は、杯に一杯ずつ酒をもらって酒樽にためて飲み、同じく貧しかった伊処士は、布の端切れを集めて縫い合わせて、服を作ったという故事から。
(31)甑塵釜魚(そうじんふぎょ)/釜魚甑塵(ふぎょそうじん)
とても貧しいことのたとえ。
「甑」は蒸すための調理器具で、こしきやせいろのこと。
「魚」は蚊の幼虫のボウフラのこと。
こしきには塵がつもり、鍋にはボウフラがわいて炊事をすることができないほど貧しいことから。
(32)短褐穿結(たんかつせんけつ)
貧しい人や卑しい人の着る衣服。貧者の粗末な姿の形容。
「短褐」は短い荒布でできた着物。「穿結」は破れていたり、結び合わせてあったりすること。
陶潜(とうえんめい)『五柳先生伝(ごりゅうせんせいでん)』にある「短褐穿結して箪瓢(たんぴょう)屡(しばしば)空(むな)しけれど晏如(あんじょ)たり」(「箪瓢」は飯を盛る器と飲料を入れるひさご。「晏如」は心安らかなさま)から。
(33)箪食瓢飲(たんしひょういん)
わずかな食料で、貧苦に甘んじて学問に励むこと。また、粗末な食事のたとえ。
「箪食」はわりご一杯の飯。「瓢飲」はひさご一杯の汁。もと孔子が顔淵(がんえん)の貧しい生活に甘んじて、学問に励むのを褒めた言葉。
(34)断薺画粥/断韲画粥(だんせいかくしゅく)
貧しい暮らしをしながらも勉学に励むこと。
「薺」は植物のなずなのことで、質素な食べ物のたとえ。「画」は四つに切り分けること。
中国の北宋の范中淹は、冷めて固まった粥を四つに切り分けて、朝と夜に二つずつ食べ、おかずには刻んだなずなを食べるという、貧しい暮らしをしながらも勉学に励んだという故事から。
「薺(なずな)を断(た)ち粥(かゆ)を画(かく)す」と訓読します。
(35)朝齏暮塩(ちょうせいぼえん)
ひどく貧しいことのたとえ。「齏」は野菜の和え物のこと。
朝食に塩漬けの野菜の和え物をおかずにして、夕食は塩をおかずにするということから。
(36)鳥面鵠形(ちょうめんこくけい)
飢えのせいで、非常に痩せている様子。「鵠」は鳥の白鳥のこと。
顔が鳥のように痩せていて、体は白鳥のように痩せているという意味から。
(37)冬月赤足(とうげつせきそく)
欲を持たず、清く正しい行いをしているために、貧しい暮らしをしていることのたとえ。
「冬月」は季節の冬のこと。「赤足」は足に何も履かない、裸足のこと。
(38)土階三等(どかいさんとう)
入り口にある土の階段が三段しかない、質素な宮殿のたとえ。転じて、住居や生活の質素なことのたとえ。
「等」は階段の段のこと。
(39)半饑半渇/半飢半渇(はんきはんかつ)
食べ物や飲み物が足りないこと。
半分ほど飢えていて、半分ほど乾いているという意味から。
(40)麋鹿之姿(びろくのすがた)
品がなく、質素な姿のたとえ。「麋鹿」は大きな鹿のことで、品がないことのたとえ。
山に住んでる鹿のように品のない姿という意味から。自身の姿を謙遜して言う言葉。
(41)茅屋采椽(ぼうおくさいてん)
飾り気のない素朴な家のこと。
「茅屋」はかやぶきの屋根。「采椽」は手を加えていない切り出しただけの材木のこと。
(42)茅茨不翦(ぼうしふせん)
粗末な家のこと。または、質素な生活のたとえ。
「茅茨」は屋根の材料のちがやといばらのことから、茅葺きの屋根のこと。
「不翦」は切りそろえていないために端が不揃いなこと。
「茅茨(ぼうし)翦(き)らず」と訓読します。
古代中国の伝説の聖天子の尭が、王になっても粗末な家に住み、質素な生活を重んじたという故事から。
(43)茅堵蕭然(ぼうとしょうぜん)
かやぶきの垣根のある家の物寂しい様子。
「茅堵」はかやぶきの垣根がある粗末な家のことで、田舎の家をいう。
「蕭然」はひっそりとしていて物寂しい様子。
(44)羅雀掘鼠(らじゃくくっそ)
食べ物がなく、極めて辛い状況のこと。
網で雀を捕まえて食べ、地面にある巣を掘って鼠を捕まえて食べるという意味から。
中国の唐の時代、安禄山の乱のときに、張巡という人は食料が無くなり、雀や鼠だけでなく、鎧や弩も食べたという故事から。
「雀(すずめ)を羅(あみ)し鼠(ねずみ)を掘(ほ)る」と訓読します。
(45)零丁孤苦(れいていこく)/孤苦零丁(こくれいてい)
落ちぶれ貧窮して、周囲に助ける者もなく、孤独なこと。苦しい生活を送ること。
「零丁」は落ちぶれて孤独なこと。「孤苦」は身寄りがなく、たいへん貧しいこと。
中国晋(しん)の李密(りみつ)が武帝から召されたとき、任官を辞退したい旨を上表した文の中の語。
李密は病に臥(ふ)せる祖母を、日夜帯も解かずに看病していて、「私は不幸な運命に生まれ、幼くして孤児になり祖母の手によって育ちましたが、幼いころから病弱で、九歳になっても出歩くことができず、零丁孤苦して成人しました」と言ったという故事から。