漢字発祥の国だけあって、中国の「四字熟語」は、人生訓にもなるような含蓄に富んでおり、数千年の悠久の歴史を背景とした故事に由来するものも多く、人類の叡智の結晶とも言えます。
そこで今回は、「励ましたり褒めたり」を表す四字熟語のうち、「努力する」を表す四字熟語をご紹介したいと思います。
1.努力する
(1)意匠惨憺(いしょうさんたん)
詩文・絵などを創作するときに思いわずらいながらする工夫。転じて、物事に工夫を凝らすために、あれこれと苦心すること。
「意匠」は、工夫を凝らすこと。また、その装飾的な表現。
(2)一意攻苦(いちいこうく)
いちずに心身を苦しめて努力すること。
「一意」はいちずに、一心にの意。「意」は心の意。「攻苦」は苦難と戦う、苦しい境遇と戦う意。
(3)一意専心/一意摶心(いちいせんしん)
他に心を動かされず、ひたすら一つのことに心を集中すること。
「一意」はいちずに、一つのことに心を注ぐこと。「専心」は心を一つのことに集中すること。
「意(い)を一(いつ)にし心(こころ)を専(もっぱ)らにす」と訓読します。
また、「専心一意」(せんしんいちい)ともいう。
(4)一往直前(いちおうちょくぜん)
何があっても恐怖せずに、ひたすらまっすぐ進むこと。
「一往」はひたむきという意味。「直前」は前だけを見てまっすぐ進むこと。
(5)一簣之功(いっきのこう)
仕事をやり遂げるための最後のひとふんばり。また、仕事を遂行するために積み重ねる一つ一つの努力。
「簣」は、土などを運ぶ竹かご(もっこ)の類で、「一簣」は、もっこいっぱいの土。出典(『書経』「旅獒(りょごう)」)の「九仞(きゅうじん)の功を一簣に虧(か)く(九仞の山をつくるにも、あともっこ一盛りのところで止めてしまえば山は完成しない)」による。
(6)一球入魂(いっきゅうにゅうこん)
一球一球の球(たま)に全力を傾けること。精神を集中して、一球を投ずること。
野球が生んだ造語で、多く野球にいう。
「入魂」は物事に魂を込めること。全神経を傾けること。
(7)一生懸命(いっしょうけんめい)
命をかけて物事に当たるさま。本気で物事に打ち込むさま。
「懸命」は命がけでの意。転じて、真剣に物事に当たるさま。
「一所懸命」(いっしょけんめい)から出た語。
(8)一所懸命(いっしょけんめい)
命がけで事にあたるさま。真剣に打ち込むさま。
もともと日本で、中世の時代に主君から賜った一か所の領地を命がけで守ることをいった言葉。そこから「一生懸命」という語が派生し、いまでは同義語。
(9)一心一意(いっしんいちい)
心を一つにして一途に思うこと。また、集中して一心に励むこと。
「一心」と「一意」はともに一つのことをたひたすらに思うこと。
(10)一心一向(いっしんいっこう)
他のことに気を散らさず、一つのことに集中すること。
「一心」は一つのことに集中すること。「一向」は一つの方向を目指すこと。
(11)一心不乱(いっしんふらん)
何か一つのことに心を集中して、他のことに心を奪われないさま。一つのことに熱中して、他のものに注意をそらさないさま。
(12)韋編三絶(いへんさんぜつ)
何度も繰り返し、熱心に本を読むことのたとえ。また、学問に熱心なことのたとえ。
「韋編」は文字を書いた木札(木簡という)や竹の札(竹簡という)を皮のひもで綴った古代中国の書物。
「三絶」は三度断ち切れる意。また、何度も断ち切れる意。「三」は三度の意と数の多いことを表す場合とがある。
「韋編(いへん)三(み)たび絶(た)つ」と訓読します。
孔子は晩年に易(えき)を愛読し、それを何度も繰り返し読んだので、その書を綴ったなめし皮のひもが何度も切れたという故事から。
(13)引錐刺股(いんすいしこ)
眠気を覚ますために、先の尖った錐で自分の太股を刺すこと。
または、眠くても頑張って勉強すること。
「引錐」はそばにある錐を引いて手元に寄せること。
中国の戦国時代の遊説家の蘇秦は、太股を錐で刺して眠気を覚まし書物を読んでいたという故事から。
「錐(きり)を引(ひ)きて股(また)を刺(さ)す」と訓読します。
(14)円木警枕(えんぼくけいちん/えんぼくのけいちん)
苦労しながらも力を尽くして勉学に励むこと。
「円木」は丸太。「警枕」は深く寝入ることを防ぐための枕。
枕を転がりやすい丸太にすることで、深く眠り込むと目が覚めるようにして、寝る間を惜しんで勉学に励むという意味から。
中国の宋の司馬光が丸太を枕にして勉学に励んだという故事から。
(15)嘔心瀝血(おうしんれきけつ)
全力で物事に取り組むこと。
「嘔心」は口から心臓を吐き出すこと。または、そのくらい苦しいこと。
「瀝血」は血が滴り落ちること。
口から心臓を吐き出して、血が滴り落ちるほどに注力するという意味から。
「心(しん)を嘔(は)き血(ち)を瀝(そそ)ぐ」と訓読します。
(16)我武者羅(がむしゃら)
一つの目的に向かい、血気にはやって向こう見ずになること。また、他のことはまったく無視して、ひたすらあることをすること。
「我貪(がむさぼり)」が転化したもので、「武者羅」は、当て字。
(17)勤倹力行(きんけんりっこう/きんけんりょっこう)
仕事に励みつつましやかにし、精一杯努力すること。
「勤倹」はよく働き、つつましやかにすること。勤勉に働き倹約すること。「力行」は努力して仕事などに励むこと。
(18)愚公移山(ぐこういざん)
何事も根気よく努力を続ければ、最後には成功することのたとえ。
「愚公、山を移す」と訓読します。
昔、中国に愚公という老人がいて、二つの山の北側に住んでいたが、家の出入りに不便なので山を移そうとした。そんなことは無理だと嘲笑する者もいたが、孫やその子の代までかかってもやり遂げると言い、山を崩しては土を運び続けた。天帝は愚公のひたむきな心に感じ、その山を他の場所に移したという説話から。
(19)稽古之力(けいこのちから)
過去の出来事を考える努力のこと。または、学問や芸術の成果で、財産や地位を得ること。
「稽古」は過去の出来事を考えること。
(20)懸頭刺股(けんとうしこ)/刺股懸頭(しこけんとう)
苦労して勉学に励むことのたとえ。また、眠気をこらえて勉強することのたとえ。
「懸」は、ひっかける、つり下げること。「懸頭」は、頭を何かにひっかけること、つり下げること。「刺股」は股(もも)を何かで突き刺すこと。どちらも眠気をこらえるための工夫で、それほどの苦労をしてまで勉学にはげんだという意から。
「頭(こうべ)を懸(か)け股(もも)を刺(さ)す」と訓読します。
「懸頭」は、中国漢の時代、孫敬(そんけい)が眠気をこらえるために、天井の梁(はり)からつり下げた縄に首をひっかけ、頭を垂れると自然に首が締まり、目が覚めるように工夫して勉学にはげんだということから。
「刺股」は、中国戦国時代、蘇秦(そしん)が眠気をこらえるために、眠くなると股に錐を刺して読書に励んだということから。
(21)孤軍奮闘(こぐんふんとう)
支援する者がない中、一人で懸命に戦うこと。また、一人で難事業に向かって鋭意努力すること。孤立した少数の軍勢が、敵と懸命に戦う意から。
「孤軍」は味方から孤立した少人数の軍隊のこと。
(22)山溜穿石/山霤穿石(さんりゅうせんせき)
小さな努力を重ねていけば、どんなことも成し遂げることができることのたとえ。
「山溜」は山から滴り出る水。
山から滴り出る水が、長い時間をかけて岩石に穴をあけるという意味から。
「山溜(さんりゅう)、石(いし)を穿(うが)つ」と訓読します。
(23)孜孜忽忽/孜々忽々(ししこつこつ)
他のことを考えず、目的を果たすためだけに注力すること。
「孜孜」は熱心に努力すること。「忽忽」は他を顧みないこと。
(24)獅子搏兎(ししはくと)
簡単なことでも全力で取り組むこと。
「獅子」はライオン、「搏兎」は兎を捕まえることで、ライオンは兎のような弱い動物を捕まえる時も、全力で捕まえるということから。
(25)孜孜不倦(ししふけん)
途中でやめることなく、ずっと努力し続けること。
「孜孜」は熱心に努力すること。「倦」は何度も続いて嫌な気分になること。
「孜孜(しし)として倦(う)まず」と訓読します。
(26)修己治人(しゅうこちじん)
自分を修養して徳を積み、世を治めていくこと。
自分の修養に励んで徳を積み、その徳で人々を感化して、世を正しく治めることをいい、儒教の根本思想。
「己(おのれ)を修(おさ)めて人(ひと)を治(おさ)む」と訓読します。
(27)十年磨剣(じゅうねんまけん)
長い期間武術の修行をすること。または、武術の修行をして、活躍する機会を待つこと。
十年の期間、一振りの剣を磨き続けるという意味から。
「十年、一剣を磨く」を略した言葉。
(28)夙興夜寝(しゅくこうやしん)
朝から夜遅くまでずっと仕事に精を出すこと。
「夙興」は朝早く起床すること。「夜寝」は夜遅い時間に寝ること。
「夙(つと)に興(お)き夜(よわ)に寝(い)ぬ」と訓読します。
(29)朱墨爛然(しゅぼくらんぜん)
勉学に励み、研究に没頭していること。勉強のために書籍に朱色の墨で入れた書き込みが、あざやかであるという意味。
「朱墨」は、朱色の墨。「爛然」は、あざやかで美しいさま。
(30)砥礪切磋(しれいせっさ)
学問や人格を高めるために努力すること。
「砥」と「礪」と「磋」は磨くという意味。「切」は骨などを切って加工すること。
(31)薪水之労(しんすいのろう)
炊事などの日常の雑事を苦労をいとわずすること。また、骨身を惜しまず、人に尽くすこと。
薪(たきぎ)を採りに行ったり、水を汲(く)んだりして、人のために苦労して働くという意味。
(32)精励恪勤(せいれいかっきん)/恪勤精励(かっきんせいれい)
力の限りを尽くして学業や仕事に励むこと。
「精励」は力を尽くして努めること、「恪」はつつしむ意で、「恪勤」はまじめに一生懸命勤めること。
(33)全身全霊(ぜんしんぜんれい)
その人に備わっている体力と精神力のすべて。
「身」は肉体。「霊」は肉体に対する精神のこと。その人のもっているものすべてを表す。
(34)全力投球(ぜんりょくとうきゅう)
持っている全ての力を出して物事に取り組むこと。
野球の投手が全ての力を出し尽くして投球するという意味から。
(35)鏃礪括羽(ぞくれいかつう)
現状に満足せず、学識に磨きをかけて、さらにすぐれた人材になること。
「鏃礪」は矢の先にやじりをつけて、それを研いで鋭くすること。
「括」は弦を受ける矢の部分、矢筈。「羽」は矢羽。
竹にやじりや矢筈、矢羽をつけて矢を作るという意味から。
(36)梯山航海(ていざんこうかい)
学問や道を志す人が、さまざまな場所を巡り歩いて精進すること。
「梯山」ははしごをかけて険しい山を登ること。「航海」は船に乗って海を越えること。
険しい山を越え、海を渡って困難な旅をしてでも、学問や道を教えてくれる先生を訪ね歩くということから。
(37)駑馬十駕(どばじゅうが)
才能がない人でも、努力をすれば才能のある人に並ぶことができるということのたとえ。
「駑馬」は、足の遅い馬のこと。「駕」は、馬に車をつけて走ること。
足の速い馬は一日で千里もの距離を走るが、足の遅い馬でも十日間休まず走り続ければこれに追いつけるという意味から。
(38)日昃之労(にっしょくのろう)
わき目もふらずに一生懸命働くこと。
「昃」は、傾くこと。また、日が西に傾くこと。転じて、昼過ぎ。今の午後二時ごろのこと。「日昃」も、「昃」と同意。
昼食もとらずに昼過ぎあるいは夕方まで精を出して働くという意から。
(39)廃寝忘食(はいしんぼうしょく)
他のことを考えず、ひとつのことに一心に取り組むこと。
「廃」はやめる。「廃寝」で寝ることをやめる。「忘食」は食事をとることを忘れる。寝食を忘れて熱中する意。
「寝(しん)を廃(はい)し食(しょく)を忘(わす)る」と訓読します。
(40)発憤興起/発奮興起(はっぷんこうき)
心を奮い起こして立ち上がること。気持ちを奮い立たせて、つとめ励むこと。
「発憤」は心を奮い立たせること。「興起」は奮い起こす、立ち上がること。
(41)発憤忘食/発奮忘食(はっぷんぼうしょく)
心を奮い起こして、食事をとるのも忘れるほどに励むこと。
「発憤」は心を奮い立たせること。
「発憤(はっぷん)して食(しょく)を忘(わす)る」と訓読します。
(42)跛鼈千里(はべつせんり/はべつもせんり)
努力を続ければ、能力が劣っていても成功するということのたとえ。
「鼈」はすっぽんのこと。
足の悪いすっぽんでも、歩き続ければ千里の距離を移動することもできるということから。
(43)披星戴月(ひせいたいげつ)
早朝から深夜まで、懸命に働くことのたとえ。
「披星」は星をかぶることから早朝の意、「戴月」は月を戴くことから夜遅くの意。
(44)不解衣帯(ふかいいたい)/衣帯不解(いたいふかい)
あることに非常に専念すること。衣服を着替えることもせず、不眠不休で仕事に熱中すること。「衣帯」は着物と帯。
「衣帯(いたい)解(と)かず」と訓読します。
(45)不眠不休(ふみんふきゅう)
眠ったり休んだりしないこと。休まず事に当たることをいう。
(46)粉骨砕身(ふんこつさいしん)/砕身粉骨(さいしんふんこつ)
力の限り努力すること。また、骨身を惜しまず一生懸命に働くこと。
骨を粉にし、身を砕くほど努力する意から。
(47)奮闘努力(ふんとうどりょく)
勇み立って、全力で行うこと。
「奮闘」は全力で戦うこと。「努力」は全力で取り組むこと。
(48)奮励努力(ふんれいどりょく)
気力を奮い起こして励むこと。
「奮励」は気力を奮い起こして努めること。努める意の「努力」に「奮励」の語を添えて意味を強めた言葉。
(49)鞭辟近裏(べんぺききんり)
人からの励ましを受け、努力して学問や道理の奥深くを理解していくこと。または、身に切実なことだけを考えること。または、文章などがしっかりと考えられていて、深い意味が込められていること。
「鞭辟」は馬車の御者が鞭を打ち鳴らして、その音で人込みを切り開くこと。
「近裏」は内側という意味。
鞭を打ち鳴らして、人込みを掻き分けて、人込みの内側に馬車が入っていくということから。
「鞭辟(べんぺき)して裏(うら)に近(ちか)づく」と訓読します。
(50)磨杵作針(ましょさくしん)
惜しまずに努力し続ければ、必ず成就することのたとえ。
「杵(きね)を磨(みが)いて針(はり)と作(な)す」と訓読します。
(51)摩頂放踵(まちょうほうしょう)
頭の先から足のかかとまですり減らすほど、自分を顧みず、他人のために努力すること。
孟子が墨子を評した語。
「摩」はすり減らす意。「頂」は頭のこと。「放」はいたる、とどく意。
「頂(いただき)を摩(ま)して踵(くびす)に放(いた)る」と訓読します。
(52)無二無三(むにむさん/むにむざん)
ただ一つしかなく、それに代わるものがないこと。転じて、一つの物事に心を傾けてそれに打ち込むさま。
もと仏教語。仏になる道は一乗だけで、ほかに道はないという意から。
(53)冥冥之志(めいめいのこころざし)
人に知られないように努力すること。または、人に知られないように心の底で決意すること。
「冥冥」は暗い様子という意味から、人に知られない様子のこと。
(54)面壁九年(めんぺきくねん)/九年面壁(くねんめんぺき)
一つのことに忍耐強く専念して、やり遂げることのたとえ。長い間わき目もふらずに努力を続けることのたとえ。
「面壁」は壁に向かって座禅を組むこと。
中国南北朝時代、達磨大師が中国の嵩山(すうざん)の少林寺(しょうりんじ)に籠もり、九年もの長い間壁に向かって座禅を組み続け、ついに悟りを開いたという故事から。
(55)臨池学書(りんちがくしょ)
懸命に文字を書く練習をすること。
「臨池」は池の近くのこと。または、書道のこと。
中国の後漢の書家の張芝は、池のほとりで文字を書く練習に励み、池が墨で黒くなったという故事から。
「池(いけ)に臨(のぞ)みて書(しょ)を学(まな)ぶ」と訓読します。