漢字発祥の国だけあって、中国の「四字熟語」は、人生訓にもなるような含蓄に富んでおり、数千年の悠久の歴史を背景とした故事に由来するものも多く、人類の叡智の結晶とも言えます。
そこで今回は、「さまざまな状態」を表す四字熟語のうち、「有事に備える」「実行が伴わない」「保守的」を表す四字熟語をご紹介したいと思います。
1.有事に備える
(1)居安思危(きょあんしき)
平和な世の中でも災難があった時のことを考えておき、いつも用心しておくべきであるという戒め。
「安(やす)きに居(お)りて危(あや)うきを思(おも)う」と訓読します。
(2)曲突徙薪(きょくとつししん)/徙薪曲突(ししんきょくとつ)
災難を未然に防ぐことのたとえ。煙突を曲げ、かまどの周りにある薪を他に移して、火事になるのを防ぐ意から。
「突」は煙突の意。「徙」は移す、物を移動させること。
「突(とつ)を曲(ま)げ薪(たきぎ)を徙(うつ)す」と訓読します。
ある家で、かまどの煙突が突き出していて、そのそばに薪が積んであった。これを見たある人が煙突を曲げて、薪は別な所に移したほうがよい、そうしないと火事になるだろうと忠告した。しかし、その家の主人は言うことを聞かず、火事になってしまったというたとえ話から。
(3)毫毛斧柯(ごうもうふか)
災いは大きくならないうちに取り除くべきだという教え。
「毫毛」は極めて細い毛。「斧柯」は斧の柄。
木が毛のように細いうちに取り除かなければ、いずれ斧を使わなければいけないほどに大きくなるということから。
(4)常備不懈(じょうびふかい)
普段の生活の中でも、何かあった時のための準備を怠らないこと。
「不懈」は怠らない、油断しないということ。
「常(つね)に備(そな)えて懈(おこた)らず」と訓読します。
(5)桑土綢繆(そうどちゅうびゅう)
災害を防ぐために、事前に準備しておくこと。
「桑土」は桑の根、「綢繆」は囲ってふさぐこと。
嵐が来る前に桑の根を使って、鳥が巣の穴をふさぐということから。
(6)綢繆未雨(ちゅうびゅうみう)/未雨綢繆(みうちゅうびゅう)
しっかりと準備をして、災害が起こる前に防ぐこと。
「綢繆」は穴をふさぐこと。
鳥は雨が降る前に巣の穴をふさぎ雨に備えることから。
(7)枕戈寝甲(ちんかしんこう)
いつでも戦いができるように準備を怠らないこと。
「戈」はほこ、武器のこと。「甲」はよろい、防具のこと。
武器を枕にして、防具をつけたまま寝るという意味から。
「戈(ほこ)を枕(まくら)にし甲(よろい)に寝(い)ぬ」と訓読します。
(8)枕戈待旦(ちんかたいたん)
ほこを枕にして寝て、あしたを待つ意から、戦いの準備をいつも怠らないたとえ。
「戈」はほこのこと。「旦」はあしたの意。
「戈(ほこ)を枕(まくら)にして旦(あした)を待(ま)つ」と訓読します。
(9)有備無患(ゆうびむかん)
日常から十分に準備しておけば、万一の際でもあわてる必要はないということ。
「備(そな)え有(あ)れば患(うれい)無(な)し」と訓読します。
「転ばぬ先の杖(つえ)」と同意。
(10)履霜之戒(りそうのかい/りそうのいましめ)
大きな災難に遭わないように、少しでも災いの予兆があれば準備する、もしくは避けるべきという戒め。
「履霜」は霜を踏むこと。
霜を踏むようになると寒さが今まで以上に厳しくなるので準備をするべきであるという意味。
2.実行が伴わない
(1)按図索驥(あんずさくき)
実際には役に立たない意見ややり方のたとえ。
名馬を絵や書物の知識だけで見つけようとする意から。
「図(ず)を按(あん)じて驥(き)を索(もと)む」と訓読します。
(2)眼高手低(がんこうしゅてい)
目は肥えているが、実際の技能や能力は低いこと。知識はあり、あれこれ批評するが、実際にはそれをこなす能力がないこと。また、理想は高いものの実力が伴わないこと。
「眼高(めたか)く手低(てひく)し」と訓読します。
(3)机上空論(きじょうのくうろん)
頭で考えただけで、理屈は通っているが実際にはまったく役に立たない議論や計画のこと。
「机上」は、机の上。「空論」は、根拠のない理論や理屈。机の上で理屈をこねまわす意から。
(4)記問之学(きもんのがく)
知識があるだけで、何の役にも立たない学問のこと。
「記問」は、先人の書いた書物を読んで、ただ暗記しているだけで身についていないこと。
(5)空理空論(くうりくうろん)
実際からかけ離れている役に立たない考えや理論。
「空理」「空論」はともに、実状や現実を考えない役に立たない理論や議論。ほぼ同意の熟語を重ねて意味を強めた語。
(6)口耳講説(こうじこうせつ)
人の話を聞いて、十分に理解しないままにすぐ人に話すこと。受け売りのこと。
「口耳」は口と耳の間の距離のこと。「講説」は説き明かすこと。
(7)口耳之学(こうじのがく)
他人から聞いた学問の内容を、自分でよく理解せずにそのまま人に伝える学問のたとえ。他人の受け売りで底の浅い学問や知識のたとえ。
耳で聞いたことをそのまま口に出すような学問という意から。
(8)紙上談兵(しじょうだんぺい)
理屈ばかりの議論で、実行が不可能であったり、実際の役に立たなかったりすること。紙の上で兵略を議論する意から。
「紙上(しじょう)に兵(へい)を談(だん)ず」と訓読します。
(9)志大才疎/志大才疏(しだいさいそ)
志は雄大だが、それに見合った才能に欠けること。
「疎」はあらい、まばらの意。
(10)道聴塗説(どうちょうとせつ)
知識などの理解がいい加減で、しっかり自分のものになっていないこと。また、根拠のない伝聞、受け売りの意。
「塗」は「道」と同じで道路のこと。道でたまたま聞き知ったことを、また道で得意そうに、人に話し伝えること。
「道(みち)に聴(き)きて塗(みち)に説(と)く」と訓読します。
3.保守的
(1)因循苟且(いんじゅんこうしょ)
昔からある習慣や方法に必要以上にこだわって改めることをせずに、その場その場でやり過ごすこと。または、なかなか決断することができない曖昧な態度のこと。
「因循」は昔から続くやり方を変えずにこだわり続けること。
「苟且」は原因を解決せずに、その場だけ取り繕うこと。
(2)因循姑息(いんじゅんこそく)
古い習慣ややり方にとらわれて改めようとせず、その場しのぎに終始するさま。
「因循」は因(よ)り循(したが)う意から、しきたりにとらわれて改めようとしないこと。「姑息」は姑(しばら)く息をつく意から、一時の間に合わせのこと。
(3)頑迷固陋/頑冥固陋(がんめいころう)
頑固で視野が狭く、道理をわきまえないさま。また、自分の考えに固執して柔軟でなく、正しい判断ができないさま。頭が古くかたくななさま。
「頑迷」はかたくなで道理に暗いこと。「固陋」はかたくなで見識が狭いこと。また、頑固で古いものに固執すること。
(4)旧態依然(きゅうたいいぜん)
昔のままで少しも進歩や発展がないさま。
「旧態」は昔からの状態、ありさま。「依然」は前と変わらないさま。もとのとおりのさま。
(5)旧調重弾(きゅうちょうちょうだん)
昔の考えや話を何度も繰り返すことのたとえ。
「旧調」は昔に流行った調子や律動のこと。「重」は繰り返すこと。「弾」は弾くこと。
「旧調(きゅうちょう)重(かさ)ねて弾(だん)ず」と訓読します。
(6)旧套墨守(きゅうとうぼくしゅ)
古いしきたりや方法などを固く守ること。また、古いしきたりなどにとらわれて融通のきかないこと。
「旧套」は古いしきたりや形式・方法。また、ありきたりのやりかた。「墨守」は固く守ること。
(7)狷介孤高(けんかいここう)
自分の意志をかたくなに守って、他と協調しないさま。
「狷介」は自分を固く守って妥協しないさま。「孤高」は世俗から離れて超然としているさま。
(8)狷介固陋(けんかいころう)
かたくなに自分の意志を守って、人のことを受け入れないさま。また、かたくなで頑固なさま。
「狷介」は自分を固く守って妥協しないさま。「固陋」は自分の狭い視野にとらわれてかたくななさま。
(9)刻舟求剣(こくしゅうきゅうけん)
時代の変化を知らずに、古い考えや昔からの習慣にこだわって、融通がきかないことのたとえ。
「舟(ふね)に刻(きざ)みて剣(けん)を求(もと)む」と訓読します。
中国の春秋時代、楚の人が舟で川を渡っているときに川に剣を落としてしまったので、慌てて剣を落とした位置を舟に記した。
向こう岸に着いた後に、舟に記した位置をたよりに水中を探したという故事から。
(10)十年一日(じゅうねんいちじつ)
長い年月の間、何の変化もなく同じ状態であること。
(11)守株待兎(しゅしゅたいと)
いたずらに古い習慣やしきたりにとらわれて、融通がきかないたとえ。また、偶然の幸運をあてにする愚かさのたとえ。木の切り株を見守って兎を待つ意から。
一般に「株(かぶ)を守(まも)りて兎(うさぎ)を待(ま)つ」と訓読を用います。
(12)蹈常襲故(とうじょうしゅうこ)
従来のしきたりや方法を受け継いで、そのとおりに物事を執り行うこと。
「蹈」は踏む。踏み行う。「襲」は受け継ぐ意。
「常(つね)を蹈(ふ)んで故(こ)を襲(おそ)う」と訓読します。
略して「蹈襲」という。現代表記では「踏襲」。
(13)墨守成規(ぼくしゅせいき)
従来の旧弊なしきたり・習慣などを改めようとせずに、かたくなに守ろうとすること。
「墨守」は、中国戦国時代の思想家墨子(ぼくし)が、城をかたく守ったこと。「成規」は、従来からある規則・きまり。
「成規(せいき)を墨守(ぼくしゅ)す」と訓読します。
(14)保守退嬰(ほしゅたいえい)
今までの考えや習慣、制度に執着して、新しいものを受け入れないこと。
「保守」は今までの考えや習慣、制度のこと。「退嬰」はためらうこと。
(15)冥頑不霊(めいがんふれい)
道理がわからず、頑固で思考が鈍い人のこと。
「冥頑」は頑固で道理がわからないこと、「不霊」は頭の働きが鈍いという意味。