1.日本製品の輸出価格は安過ぎる
アメリカのトランプ大統領は、就任当初、外国首脳として最初に日本の安倍首相と会談するなど、日米関係は政治的にも経済的にも好転するのではないかとの期待を抱かせました。
トランプ大統領は、「America First」や「保護主義的主張」「日本や中国との巨額貿易赤字問題」「自動車メーカーの工場空洞化問題(海外移転の現状)」などの気になる発言を繰り返していましたが、日米首脳の信頼関係によって、それらの問題も徐々に解決することが可能と楽観する向きもありました。
しかし、その後「TPP(環太平洋パートナーシップ)」からの離脱表明と、個別撃破しやすい「二国間協議」を推進しようとするなど、風向きが変わってきました。トランプ大統領が中国に対して「高率関税」を課すことを表明したのに対して、中国も「報復関税」で対抗するなど中国との「貿易戦争」を懸念する声も出て来ています。
また日本の自動車輸出に対しても、20%の「高率関税」を課すことを表明するなど、強硬姿勢に出て来ています。
有効な対策は、「自動車の輸出価格」を徐々に値上げして、一時的には多少売上高・販売台数が減少しても、今後長い目で見て安定した利益の出る企業体質に変えて行くことだと思います。
前に「日本の過大なノルマ」についての記事にも書きましたが、ドイツのベンツが「高級車だから、当然価格が高い」という認識が定着しているのと同様、日本の自動車メーカーも「日本車は高性能だから、当然それなりに価格が高い。」というイメージを定着させるべき時期に来ていると思います。
そうしないで、「高性能で低価格」を極限まで追求した結果、アメリカなどから「日本車は安売りして販売を伸ばし、アメリカの対日赤字を増やしている」と目の敵にされるわけです。これは、松下幸之助の「水道哲学」の影響だと思います。水道哲学とは、「水道の水のように、低価格で良質な物を大量供給することにより、物価を安くして消費者の手に容易に行き渡るようにしようという経営哲学」です。
2.価格競争から脱却して品質競争にギアチェンジすべき
このままでは、中国や韓国との「価格競争」に巻き込まれて、「出血競争」となり、どちらかが倒れるまで果てしなく続く「消耗戦」になります。この際、日本としては死に物狂いの「価格競争」から脱却して「品質競争」にギアチェンジし、工場の操業率も引き下げて、生産・販売ともにスピード調整して「巡航速度」に切り替えるべきだと私は思います。
サラリーマン社長の場合は、自分の在任期間中に業績が低下するのを避けたい「急功近利」の気持ちが強いので、今までのやり方を変えにくいと思いますが、トヨタのような創業家社長の場合は、そういった大胆な経営方針の転換もやりやすいのではないかと思います。
幸いなことに、現在日本製品(MADE IN JAPAN)は、海外の人々からも高品質だとの高い評価を受けており、故障も極めて少なく長持ちすると信頼性も絶大です。
以前アメリカに在住した人から聞いた話ですが、アメリカの自動車工場では、組立工程で働く工員が仕事中に缶入りコカ・コーラを飲み、空き缶を車のボンネットに放り込むこともあるそうです。日本の自動車工場(海外工場も含めて)では、こんなことは考えられません。
件(くだん)のボンネットの空き缶は、当然完成車の出荷までには取り除かれるのでしょうが、工場労働者の作業への取組姿勢や、規律管理・品質管理は、日本とは比べものにならないような気がします。私も実際に見た訳ではありませんので、断言はできませんが・・・
トランプ大統領は、デトロイトなどのある錆びついた工業地帯「ラストベルト(Rust Belt)」に自動車工場を復活させ、雇用を創出すると意気込んでいますが、日本も自動車工場の国内回帰を加速させ、高品質で適正価格の自動車を生産する方向に持って行くべきだと思います。この記事では、自動車を例として考えましたが、他の日本製品についても同様です。
皆さんはどう思われますか?
<2019/9/18追記>
輸出品の話ではありませんが、宿泊価格を「国際水準価格」に設定した東京の一流ホテルの話をご紹介します。これはベンツと同様の考え方で、歓迎すべき動きだと私は思います。
老朽化のため、開業から53年の歴史に幕を閉じて2015年に建て替え工事が始まったホテルオークラ東京本館ですが、約1100億円を投じて跡地に完成した「オークラ東京」が2019/9/12に開業しました。
ジャパニーズ・モダンの傑作として「取り壊し反対運動」まで起きた旧館ですが、新しい建物の中に旧本館ロビーを再現するという「不易流行」の取り組みも注目されました。
しかし、私が特に注目したいのは「宿泊料金の設定を国際水準に近づけた」ことです。
最高級ブランド「ヘリテージ」の1泊平均7万円は、日本に進出している外資系の高級ホテルとほぼ同水準です。「国際水準価格」と「今までより上質のサービス」で海外の富裕層の取り込みを狙っているようです。
これまで同ホテルの利用者は6割超が外国人でしたが、客室稼働率を上げるために団体客を積極的に受け入れた結果、宿泊単価は平均2万円に落ち込んでいました。
同ホテルは、「今後は、稼働率を無理に追わず、ホテルの価値を高める方針に転換する」とのことです。
これは、今後東京のホテルの客単価が国際水準に近づく動きのさきがけのように私は思います。