落語の「ネタ」の記憶法は「三遍稽古」

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桂枝雀

1.落語のネタの覚え方

私は落語が好きでよく聞くのですが、落語家の皆さんはどのようにして「ネタ」を覚えているのか、以前から気になっていました。

今回は、落語をあまり知らない方にも参考になる面白い情報も織り交ぜながら、考えて見たいと思います。

2.三遍稽古

ネタの覚え方は、最初は、前に「落語と講談の違いとは何か?」という記事に書きましたように、師匠から「口伝」の「三遍稽古」で稽古を付けてもらって、一通りは覚えたことになります。

後は、自分で何回も「練習」して、持ちネタに仕上げることになる訳です。実際にはどのようなやり方をするのでしょうか?

3.人さまざまの練習方法

「上方落語の爆笑王」と呼ばれた二代目桂枝雀は、神戸大学文学部を1年で中退して三代目桂米朝(人間国宝)に入門し、内弟子となります。彼は師匠の長男(後の五代目桂米團治)の子守りをしながら、ぶつぶつと「ネタ繰り」をしていたそうです。ある時、「怪しい人物が叫んでいる」と警察に通報され、尾行されたこともあったそうです。

桂枝雀のほかにも、「歩きながら覚える」「声に出してぶつぶつ言いながら覚える」「声に出さずに頭の中で何度もリフレインして覚える」という人がいました。

立川談春さんは、「最もチケットが取れない落語家」とも呼ばれますが、ネタは一度聞いたら覚えられるそうです。よほど記憶力がよいのか、集中力が桁外れなのでしょうか?

六代目三遊亭圓生や七代目立川談志も同じように「一度聞いたら記憶して、再現できる」と話していたそうです。

私の推測ですが、上にあげたような落語家の方は、「三遍稽古」で一日目に大体の全体像・概要・ストーリーの流れをつかみ、二日目に細部も注意して聞いて覚え、三日目によくわからなかった点をチェックして「出来上がり」となるのではないかと思います。

何という落語家だったか忘れましたが、自分の部屋に閉じこもって、「ネタ繰り」(おさらい、練習)を何度もやった後、家族の前で演じて反応を確認してから高座で演じるという人もいました。

現代のようにテープレコーダーやDVDがある時代は、それを駆使して覚えるというやり方をしている落語家もいると思います。「桂枝雀落語大全」というCDには、桂枝雀の語り口そのままを口述筆記した「台本」のような付録が付いていますので、そういうものを参考にする落語家もいることでしょう。

しかしそのような便利な機械のない時代は、師匠からの「口伝」を、自分でメモに記録して残した上で、暗記するという人もいたでしょうが、多くの人はメモもせずに話の流れを追って覚えたようです。

ある名人が亡くなった時、遺品の中に「ネタ帳」らしきものは全く残っていなかったという話を聞いたことがあります。

細かい所は多少間違っていても、ストーリーの流れがきちんと頭に入っていて、それを演じていれば問題ない訳です。有名なピアニストのフジコヘミングも、時々間違うと言っています。