2020年4月7日の国による「緊急事態宣言」で、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県、大阪府・兵庫県、福岡県の7都府県が「緊急事態宣言地域」に指定されました。これに対して、指定されなかった 愛知県と京都府が追加指定を要望しています。
この「緊急事態宣言」発出後に、にわかにクローズアップされたのが休業要請を受けた企業に対する「休業補償」の問題です。
フランスはかなり大盤振舞いの「休業補償」を実施する方針のようです。ただし莫大な財政負担を背負い込むことになるかもしれません。
わが国では、「休業要請」とセットにした「休業補償」に前向きな東京都に対し、国や東京都の近隣県などは否定的です。
今回はこれについて考えてみたいと思います。
1.国の基本的考え方
(1)休業要請
国としてはまず「外出自粛要請」を行い、その上で「施設の使用制限の要請」を行うとしています。「人との接触機会の8割削減要請」で効果を見極めたい意向です。
(2)休業補償
「休業補償」については、休業要請した業種以外でも、それに関連した業種・企業は休業の悪影響を受けるので、休業要請した業種だけに補償するのは公平感を欠き、補償対象を広げると際限がなくなるので、国として休業補償はしない方針です。「公平性」と「財源」の問題があると認識です。
2.東京都の基本的考え方
東京都としては「爆発的感染拡大(オーバーシュート)」を抑えるためには、「接触8割削減」や「外出自粛要請」だけでは十分でなく、幅広い業種に対して「休業要請」を出す代わりに、東京都独自の「休業補償」(感染拡大防止協力金)を実施する考えです。
(1)休業要請
東京都は4月10日に休業要請対象業種を発表しました。対象は次の通りです。
①遊興施設等
キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホール、カフェー、バー、個室付き浴場業に係る公衆浴場、個室ビデオ店、ネットカフェ、漫画喫茶、カラオケボックス、勝馬投票券発売所、ライブハウスなど
②大学・学習塾等
大規模な(床面積合計が1000㎡超の)大学・専修学校・各種学校などの教育施設、自動車教習所、学習塾など
③運動・遊技施設
体育館・水泳場・スポーツクラブなどの運動施設、またはマージャン店・パチンコ屋・ゲームセンターなどの遊技施設
④劇場等
劇場・観覧場・映画館・演芸場など
⑤集会・展示施設
大規模な(床面積合計が1000㎡超の)集会場・公会堂・展示場・博物館・美術館または図書館、ホテルまたは旅館(集会の用に供する部分に限定)
⑥大規模(床面積合計が1000㎡超の)商業施設
「生活必需物資の小売り関係以外」の店舗、「生活必需サービス以外のサービス業」を営む店舗
(2)休業補償
休業要請に応じた事業者に対して、1店舗のみを経営する事業者には50万円、2店舗以上を経営する事業者には100万円を支給することになっています。
3.その他6府県の基本的考え方
(1)休業要請
その他の県については、「休業要請と休業補償はセットとすべき」との考え方ですが、東京都のような豊かな財政ではないので、国による休業補償を要請する方針です。
「全国知事会」は、新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言を受けた対策本部会議を4月8日に開きました。
国と一体で感染拡大防止に取り組む方針を明記するとともに、緊急事態宣言の実効性を高める具体策として、イベントや事業活動の中止・休止に伴う「損失補償」を国に求めています。
神奈川県と埼玉県は、「東京都と同様の基準で休業要請をする」と表明しました。しかし、千葉県の森田知事は4月10日に「休業要請はしない」と表明しました。ただし、4月11日になって「千葉県も東京と同様の基準で休業要請をする」と方針を変更しました。
大阪府は4月10日に休業要請対象業種を発表しました。面積要件なしで、「遊興施設、劇場・映画館、集会・展示施設、運動施設、学校など」です。東京都の対象業種にほぼ準じたものです。休業要請するかどうかは4月13日に判断する予定です。
なおパチンコ店については業界団体の大阪府遊技業協同組合が傘下のパチンコホール組合員に対して4月9日からの営業自粛を要請済みです。
(2)休業補償
休業要請対象業種を発表した大阪府の吉村知事は、休業補償については「東京都のような独自の支援金の支出は困難」と述べています。
その他府県の知事も、財政面で東京都のように豊かではないため、休業補償には否定的です。ただし、神奈川県の黒岩知事などは「東京都に準じた形で交付金などを活用した対応が可能かどうか検討する」と含みを持たせています。
東京都以外の府県については、日本政策金融公庫や商工中金などの政府系金融機関による緊急融資か、各府県の信用保証協会の保証付きの緊急融資を民間金融機関が行うことに落ち着くのではないでしょうか?
その場合、返済方法は期限一括か毎月の返済額を少額に抑えるバルーン方式で、金利も低く抑える必要があると思います。
4.東京都による休業要請と休業補償の問題点
(1)東京都とその他府県との不公平感
東京都にある企業・店舗は「感染拡大防止協力金」という名目で休業補償がもらえるのに、その他県の企業・店舗は休業しても金銭的補償が受けられず、不公平感が生まれます。
(2)営業休止業種の客が東京都から近隣他県に流れ込み感染拡大させる懸念
東京都で営業休止となっている業種でも、千葉県のように他県で必ずしも自粛要請がないこともありえます。(注:千葉県も4月11日に、自粛要請する方針に変更する旨表明しました)
また、近隣他県でも東京都に追随して休業要請があったとしても金銭的補償が受けられないため営業を継続する企業・店舗も出て来るはずです。
その場合、客が東京都から休業していない他県へ流れ込むことにより他県での感染拡大・飛び火を招く恐れがあります。
東京都と隣接3県が営業自粛しても、さらに周縁の県に客が流れ込む恐れはあります。私の住む大阪府の人で、あべの近鉄百貨店が休業しているからと奈良の近鉄百貨店に行く人があると聞いたことがあります。
(3)営業休止業種の企業・店舗から暴力団や北朝鮮へ資金が流れる懸念
ナイトクラブ・バー、風俗営業などに支給された休業補償の一部が暴力団に流れたり、パチンコ店に支給された休業補償の一部が北朝鮮などに流れる恐れがあります。
(4)休業要請の継続や再度の要請が行われた場合、東京都の財政をさらに圧迫する懸念
5月6日までに爆発的感染拡大(オーバーシュート)が収束しない場合、休業要請が継続される可能性があります。また一旦収束しても、再度感染爆発が起きる可能性もあり、その場合は2度目・3度目の休業要請が必要になります。
そうすると、東京都の財政をさらに圧迫し、疲弊させる恐れが大きくなります。