週刊文春の「文春砲」だけがスクープを連発できるのはなぜか?

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文春砲

<2023/5/19追記>週刊文春が報じたジャニー喜多川の性加害を他のメディアが無視した理由

ジャニー喜多川氏の性加害に多くのメディアが沈黙してきたのは、「連日接待・VIP鑑賞・カレンダー販売」のアメとムチによるものだったそうです。

ジャニー喜多川

ジャニー喜多川氏(享年87)による性加害については、1999年に「週刊文春」が14週にわたって報じ、キャンペーン開始直後の1999年11月、ジャニー喜多川氏とジャニーズ事務所は、週刊文春と文藝春秋に対し名誉棄損の損害賠償を求めて提訴しました。

その結果、2003年の東京高裁の判決では性加害が認定され、翌年の最高裁で確定しました。

しかし、多数の元ジャニーズ・ジュニアの証言によれば、この判決以降も性加害は続いていたそうです。

その後も性加害が続いた理由の一つと見られるのが、ジャニーズ事務所とビジネスで深くつながるメディアや広告代理店による「性加害の黙殺」です。

前に「日本の新聞は不偏不党か?新聞に不偏不党はあり得ない!」という記事を書きましたが、新聞だけでなくテレビなどのメディアや広告代理店も、ジャニーズ事務所のような相互依存関係にある会社・組織の不祥事や暗部は伝えてきませんでした。

これでは社会の悪を隠蔽しているようで、社会正義を重んじているとはとても思えず、公正中立とは言い難いことが今回の文春砲によって白日の下にさらされたように私は感じます。

<2021/6/23追記>「知の巨人」と呼ばれた立花隆氏が逝去

立花隆氏は、1964年に東京大学文学部仏文科を卒業後、文藝春秋社に入り、「週刊文春」に配属されましたが、最もやりたくないプロ野球の取材をさせられたため、3年足らずで退社しています。

その後ルポライターの活動を開始し、1974年に月刊「文藝春秋」に「田中角栄研究~その人脈と金脈」を発表して田中角栄首相失脚のきっかけを作るとともに、ジャーナリストとして不動の地位を築きました。

かつての「スクープ」と言えば、「フライデー」や「FOCUS」などの写真週刊誌による芸能人のスキャンダル報道や、1974年に「田中金脈問題」を追及した「文芸春秋」の立花隆氏(1940年~2021年)の記事などが思い出されます。

また、1972年に発生した「沖縄密約事件」(外務省機密漏洩事件、西山事件)は、毎日新聞の西山記者の外務省女性事務官への取材で得た「沖縄密約」に関する機密情報(外務省極秘電文)のコピーを日本社会党の横路孝弘議員と楢崎弥之助議員に渡し、国会で追及して発覚したものでした。

このように昔は、写真週刊誌や総合雑誌、新聞社、野党議員などによって「スクープ」が作られてきたように思うのですが、最近は週刊文春(文春砲)ばかりが目立っています。

1.スクープを連発する週刊文春の「文春砲」

2019年10月31日には、その日発売される週刊文春の「ウグイス嬢違法買収疑惑報道」を受けて河井法務大臣が同日朝辞任しました。

河井氏と妻の河井案里参院議員が7月の参院選で、ウグイス嬢に法定額1万5千円以上の報酬を支払っていたことを示す2枚に分けられた領収書や、「1日3万円」が明記された裏帳簿の存在などを詳報しました。

このほかにも2020年3月には、相澤冬樹大阪日日新聞記者(元NHK記者)の「妻は佐川元理財局長と国を提訴へ 森友自殺<財務省>職員遺書公開『すべて佐川局長の指示です』」、5月には、産経新聞記者のリークによる「現場スクープ撮 黒川弘務検事長は接待賭けマージャン常習犯5月1日産経記者の自宅で”3密”6時間半」などスクープを連発しました。

つい最近では、アンジャッシュの渡部建さんの不倫騒動など芸能人のスキャンダルのスクープ報道もあります。

2.週刊文春の歴史

週刊文春は、(株)文藝春秋が1959年に創刊した週刊誌で、1956年創刊の週刊新潮と並ぶ老舗です。

週刊文春は、国民雑誌と言われていた文藝春秋の弟分で、当初は小説やコラムなどが充実した「品のよいサロン雑誌」でした。

歴代編集長には、ロッキード事件の取材で陣頭指揮を執った半藤一利(はんどうかずとし)氏(1930年~2021年)もいます。ちなみに半藤氏は文芸春秋社出身の戦史研究家・作家で、夏目漱石の孫の末利子(漱石の長女・筆子と松岡譲の四女)の夫です。

3.なぜ週刊文春(文春砲)だけがスクープを連発できるのか?

週刊文春や週刊新潮は、当初フリーの記者を抱えず(フリーの記者も社員化していた)、編集部員が取材からまとめまでやっていました。

一方、週刊現代(講談社)や週刊ポスト(小学館)は、編集部員のほかに多くの専属記者を抱えていました。その多くは学生運動や安保闘争にのめり込み、大学を退学・中退した人たちでした。

つまり週刊文春や週刊新潮は、「少数精鋭方式」なのに対し、週刊現代や週刊ポストは「人海戦術方式」でした。

「フライデー」や「FOCUS」などの写真週刊誌も、いくつもの張り込み班を組織して、大量のカネとヒトをつぎ込み、隠し撮り写真を毎週掲載して部数を伸ばしました。しかし、ビートたけし軍団による「フライデー襲撃事件」をきっかけに、写真週刊誌の取材に対する批判が巻き起こり、写真週刊誌は凋落して行き、他の週刊誌も売上低迷が続きました。

そこで2012年4月に週刊文春編集長に就いた新谷学氏は「うちはスクープに絞る」と宣言しました。

これによって、1984年の「ロス疑惑報道」以降スクープがなかった週刊文春が「スクープ・スキャンダル路線」に舵を切ったのです。

最初の成果は2016年の「育休宣言した宮崎謙介議員の不倫報道」でした。その結果、スクープ情報が週刊文春に数多く寄せられる「好循環」が生まれ、「文春砲」と呼ばれるようになったのです。

ベッキーと川谷絵音との「ゲス不倫」、甘利明TPP担当大臣(当時)の賄賂疑惑、ショーンKの学歴詐称、舛添要一東京都知事(当時)の公用車私物化など枚挙にいとまがありません。

ただし、スクープ対象から法的措置を含めて反撃されることも多く、敗訴して賠償を支払った例もあります。

(1)週刊文春の取材体制

週刊文春では、持ち込まれたスクープやスキャンダルのネタの真偽を編集者が見分け、そのネタをもとに取材力のある記者が裏を取り、ファクトを積み重ねて記事にしているそうです。

(2)情報提供者への謝礼金

週刊文春のもう一つの強みは、書き手を大切にしていることだそうです。文春よりも多額の謝礼金を情報提供者に提示する雑誌もあるようですが、フォロー体制の充実とスクープ週刊誌としての評価が定着したことが週刊文春の強みです。

ただし、2009年に起きた週刊新潮の「赤報隊大誤報」のような間違いを犯すと一気に信用が失墜しますので注意してほしいものです。

(3)新聞社の社員のサラリーマン化

かつてはスクープを競った「事件記者」のような意欲的な新聞記者がいたようですが、今はそんな苦労やリスクを冒さず、文春や他紙の報道した内容の後追い記事でお茶を濁しているように見えます。

(4)野党議員の文春頼みのお粗末さ

野党議員は「国政調査権」を使って、自ら意欲的かつ積極的に不正を発見する姿勢が期待されるところですが、現実には文春などの雑誌のスクープを取り上げて、首相や閣僚、議員などに対して「週刊誌でこのような報道がある。これについて国民に対して丁寧な説明を求める」という姿勢に堕落しています。

これでは高額の議員報酬をもらって国会議員をやっている値打ちがないと思うのは私だけでしょうか?