現在使用されている「新型コロナ治療薬」や新薬開発状況はどうなっているのか?

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新型コロナ治療薬

東京・大阪・沖縄・神奈川・埼玉・千葉に「緊急事態宣言」が出される中、トラブルや供給の遅れもありましたが、「新型コロナワクチン接種」は中高年から若い世代に向けてまずまず順調に進んでいます。

しかし、ワクチンは「感染予防」や「重症化リスクを抑える」効果は期待できますが、感染した場合の治療や症状の改善に使用する「新型コロナ治療薬」が不可欠になってきます。

現在使用されている「新型コロナ治療薬」や、新薬開発状況はどうなっているのでしょうか?

1.現在日本国内で使用されている「新型コロナ治療薬」

コロナ治療薬

(1)レムデシビル

レムデシビルはもともとエボラ出血熱の治療薬として開発されていた抗ウイルス薬。コロナウイルスを含む一本鎖RNAウイルスに抗ウイルス活性を示します。

日本では昨年5月、重症患者を対象に厚生労働省が特例承認。今年1月には添付文書が改訂され、中等症の患者にも投与できるようになりました。

レムデシビルは、プラセボ(偽薬)との比較で入院患者の回復を5日間早めた米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)主導の臨床試験結果をもとに、世界約50カ国で承認または使用許可を取得しています。

(2)デキサメタゾン

デキサメタゾンは重症感染症や間質性肺炎などの治療薬として承認されているステロイド薬。先発医薬品「デカドロン」(日医工)のほか、複数の後発医薬品が販売されています。英国で行われた大規模臨床研究で重症患者の死亡を減少させたと報告されており、標準的な治療法の1つとなっています。

英国の臨床研究では、人工呼吸器を装着した患者と酸素投与が必要な患者で死亡率を有意に低下させた一方、酸素投与の必要ない患者では効果が見られませんでした。米NIHのガイドラインでも、人工呼吸器や酸素投与を必要とする患者に対する治療薬として推奨されています。

(3)バリシチニブ

JAK阻害薬バリシチニブは、サイトカインによる刺激を伝えるJAK(ヤヌスキナーゼ)を阻害する薬剤。COVID-19は重症化すると、サイトカインストームと呼ばれる過剰な免疫反応に重篤な臓器障害を起こすことが知られています。バリシチニブは免疫異常による炎症を抑える作用を持ち、日本では今年4月、中等症から重症の患者を対象に特例承認されました。

日本を含む国際共同治験では、レムデシビルと併用することで、回復までの期間をレムデシビル単剤に比べて1日短縮しました。日本で同薬の対象をなるのは、酸素吸入、人工呼吸管理、体外式膜型人工肺(ECMO)の導入が必要な患者で、入院下で、レムデシビルと併用して最長14日間投与します。

(4)カシリビマブ・イムデビマブ

中外製薬の「ロナプリーブ」は、カシリビマブとイムデビマブの2つの中和抗体からなる抗体カクテル療法。新型コロナウイルス表面のスパイクタンパク質に結合し、ウイルスが細胞内に侵入するのを防ぎます。米リジェネロンが創製し、中外は日本での開発・販売権を保有。7月に特例承認を取得しました。

同薬の投与対象となるのは、重症化リスク因子を持つ軽症・中等症の患者。海外で行われた臨床試験では、1回の投与で入院や死亡のリスクを70%減少させ、症状消失までの期間を短縮しました。中外は日本政府との合意に基づき、2021年に国内で使用される分について確保しています。

(5)トシリズマブ

抗IL-6受容体抗体トシリズマブは、サイトカインの一種であるIL-6(インターロイキン-6)の作用を阻害することで炎症を抑える薬剤。バリシチニブと同様に、免疫異常による炎症を抑制し、重症患者の症状を改善する薬剤として有効性の検証が進められ、米国では今年6月に緊急使用許可を取得しました。

米国での緊急使用許可は、世界で計5600人を対象に行われた4つの臨床試験の結果に基づきます。このうち2つの試験では死亡率を低下させるなどの有効性を示した一方、残る2つの試験では主要評価項目が未達でした。国内では年内の承認申請を目指しています。

(6)ファビピラビル

ファビピラビルは2014年に日本で承認された抗インフルエンザウイルス薬。新型インフルエンザが発生した場合にしか使用できないため、市場には流通していませんが、新型インフルエンザに備えて国が備蓄しています。

富士フイルム富山化学は昨年10月、非重篤な肺炎を有する患者を対象に行ったP3の結果に基づき、新型コロナウイルス感染症への適応拡大を申請しましたが、厚生労働省の専門家部会は同12月21日、「現時点で得られたデータから有効性を明確に判断するのは困難」として承認を見送りました。同試験が単盲検(*)で行われたことの影響や、結果の臨床的な意義が議論になっており、現在実施中の臨床試験結果が提出され次第、あらためて審議することとしました。

(*)「単盲検」とは、新薬の治療効果・有効性を確かめるための比較試験の一種で、一般には、医師の側は知っていて被験者側のみ治験薬の中身を知らされずに行われる試験手法のこと

富士フイルム富山化学が申請の根拠としたP3試験は、患者156人を対象に行い、主要評価項目の「症状の軽快かつウイルスの陰性化までの時間」はアビガン群11.9日、プラセボ群14.7日で、アビガンは症状を統計学的に有意に早く改善。安全性上の新たな懸念も認められなかったといいます。

富士フイルム富山化学は今年4月、重症化リスク因子を持つ発症早期の患者を対象とした新たなP3試験を開始。重症化した患者の割合を主要評価項目とし、有効性を検証します。

(7)その他

腸管糞線虫症と疥癬の治療薬として承認されている駆虫薬イベルメクチン(MSDの「ストロメクトール」)もウイルスの増殖を阻害する可能性があるとされており、北里大がCOVID-19の適応追加を目指した医師主導治験を進めているほか、興和が企業治験を始めると発表。HIV感染症治療薬として承認されているネルフィナビル(日本たばこ産業の「ビラセプト」、製造販売は終了)は、長崎大を中心に医師主導治験が行われています。

一方、早い時期から治療薬候補として注目されていた吸入ステロイド薬シクレソニド(帝人ファーマの「オルベスコ」)は、国立国際医療研究センターが行った特定臨床研究で、対症療法群に比べて有意に肺炎の増悪が多かったとの結果が出ました。同センターは「海外で行われている検証的な臨床試験の結果も踏まえて判断する必要があるが、今回の結果からは、無症状・軽症の患者に対するシクレソニドの投与は推奨できない」としています。

ウイルスの細胞内への侵入を阻止する可能性があると期待されていたタンパク分解酵素阻害薬ナファモスタットと同カモスタットは、いずれも開発を中止。ナファモスタットは第一三共が吸入製剤の臨床試験を進めていましたが、安全性に対する懸念から開発をやめました。カモスタットも、先発医薬品「フオイパン」を製造販売する小野薬品工業が行った臨床試験で有効性を示すことができませんでした。

2.現在開発中の主な薬剤

開発中のコロナ治療薬1開発中のコロナ治療薬2

(1)中和抗体

ウイルスの細胞への感染を阻害する中和抗体は、すでに米国で実用化されています。米FDA(アメリカ食品医薬品局)は昨年11月、イーライリリーとアブセラ(カナダ)が開発したバムラニビマブと、米リジェネロンがスイス・ロシュと共同開発したカクテル抗体カシリビマブ/イムデビマブに緊急使用許可を出しました。今年2月には、バムラニビマブにエテセビマブを併用する新たな治療法の使用も認められ、FDAは変異株により高い効果を示す併用療法を普及させるため、バムラニビマブ単剤療法への緊急使用許可を取り消しました。

5月には、英グラクソ・スミスクラインと米ビル・バイオテクノロジーが共同開発したソトロビマブも米国で緊急使用許可を取得しています。

カシリビマブ・イムデビマブは、欧米などで緊急的な使用が認められており、7月には世界で初めて日本で正式に薬事承認されました。

アストラゼネカは昨年10月から、COVID-19患者に由来する2つの抗体を組み合わせたカクテル抗体「AZD7442」のP3試験を行っています。今年3月には、日本でもP1試験を開始するとともに、国際共同治験に参加する形でP3試験も始まりました。独ベーリンガーインゲルハイムは、吸入によって肺に直接送達できる中和抗体の開発を進めていて、昨年末からP1/2試験を行っています。

武田薬品工業が海外の複数の製薬企業と共同開発していた高度免疫グロブリン製剤は、NIAID主導のP3試験で有効性の評価項目を達成することができませんでした。この結果を受け、武田などは免疫グロブリン製剤の開発を断念しました。

(2)抗ウイルス薬ほか

低分子の抗ウイルス薬の開発も進められています。

米メルクは米リッジバック・バイオセラピューティクスと提携し、抗ウイルス薬モルヌピラビル(開発コード・MK-4482)を開発中。外来患者を対象としたP3試験は患者登録が始まっており、順調に進めば今年9~10月にデータが得られる見込みです。6月には日本でもP3試験が始まりました。

米ファイザーは、経口のプロテアーゼ阻害薬「PF-07321332」と静脈内投与の同「PF-07304814」のP1試験を行っています。ロシュは米アテアと、ウイルスRNAポリメーラーゼを阻害する作用を持つ経口の抗ウイルス薬を開発しており、軽症から中等症の患者を対象にP2試験を実施中。中外はロシュから日本での開発・販売権を取得し、日本での開発を進めます。

塩野義製薬は、自社創製の3CLプロテアーゼ阻害薬「S-217622」を経口の抗ウイルス薬として開発中で、7月に日本でP1試験を開始。オンコリスバイオファーマは鹿児島大が見出した抗ウイルス薬を開発しており、22年上半期までに前臨床試験を終え、その後、臨床試験に入ることを目指しています。ペプチドリームは抗ウイルス作用を持つ特殊ペプチドの開発を進めていて、昨年10月に富士通などと開発のための合弁会社を設立。富士通の量子コンピューティング技術などを活用し、開発を加速させるといいます。

ビルは米アルナイラム・ファーマシューティカルズと共同でSARS-CoV-2を標的とするsiRNA核酸医薬も開発しており、開発候補として吸入型のsiRNA「VIR-2703(ALN-COV)」を特定。近く臨床試験に入る見込みです。

(3)重症患者に対する治療薬

エーザイは、かつて重症敗血症を対象に開発していたものの、P3試験で主要評価項目を達成できずに開発を中止したTLR4拮抗薬エリトランの臨床試験を開始。試験は、Global Coalition for Adaptive Researchによる国際共同治験「REMAP-COVID」として行われ、米国で開始したあと、日本を含むグローバルへと拡大する予定です。エリトランは、サイトカイン産生の最上流に位置するTLR4(Toll様受容体4)の活性化を阻害する薬剤で、サイトカインストームの抑制を狙います。

塩野義製薬は、アレルギー性鼻炎を対象に開発していたDP1受容体拮抗薬「S-555739」について、COVID-19の重症化を抑制する薬剤として、米バイオエイジに導出する契約を締結。同社は今年上半期中にP2試験を開始する計画です。

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