今回は「炬燵猫」「虎落笛」「去年今年」「討入りの日」「探梅」などの面白い「冬」の季語をいくつかご紹介したいと思います。
1.炬燵猫(こたつねこ)
プレバト俳句で梅沢冨美男さん(1950年~ )が2020年11月に「こたつ猫」を使った俳句を詠んで、「永世名人梅沢冨美男句集」への掲載が決定しました。
猫は寒がりで、冬は炬燵の上など暖かい場所を探してうずくまり、惰眠を貪っていることがよくあります。戦後ならホーム炬燵でしょうが、各家庭に竈があった戦前には火を落とした後の生暖かい「竈(かまど)」(へっつい)の中へ入って、灰にまみれて寝ていたりしました。なかなかユーモラスな季語です。
類似の季語には、「竈猫(かまどねこ)」「へっつい猫」「かじけ猫」「灰猫」などがあります。
例句としては、次のようなものがあります。
・何度目の オセロ薄目の こたつ猫(梅沢富美男)
・薄目あけ 人嫌ひなり 炬燵猫(松本たかし)
・何もかも 知ってをるなり かまど猫(富安風生)
・新嫁の 来るとも知らず 竈猫(赤星水竹居)
2.虎落笛(もがりぶえ)
「虎落笛」とは、「烈風が虎落に突き当たって発する鋭い笛のような風音のこと」で、「厳寒の夜空を風がヒューヒューと音を立てて吹き渡ること」です。
「虎落」とは、「竹を筋違いに組み合わせ、縄で結び固めて作った柵や垣根のこと」です。
「子季語」は、ありません。
例句としては、次のようなものがあります。
・日輪の 月より白し 虎落笛(川端茅舎)
・燈火の 揺れとどまらず 虎落笛(松本たかし)
・虎落笛 こぼるるばかり 星乾き(高橋行雄)
・虎落笛 仔犬の耳の 一つ立つ(栗栖浩譽)
3.去年今年(こぞことし)
「去年今年」とは、「大晦日の一夜にして、去年と今年が入れ替わること」です。
年末の紅白歌合戦が終わると、各地の除夜の鐘を聴かせる「行く年来る年」と同じような意味で、俳諧・俳句独特の言葉です。
「子季語」は、ありません。
例句としては、次のようなものがあります。
・去年今年 貫く棒の 如きもの(高浜虚子)
・若水や 流るるうちに 去年ことし(加賀千代女)
・いそがしき 妻も眠りぬ 去年今年(日野草城)
・かすかにも 胸いたみつつ 去年今年(石田波郷)
4.討入りの日(うちいりのひ)
「討入りの日」とは、「十二月十四日のこと」です。「義士討入りの日」とも言います。
「討ち入り」とは、1702年(元禄15年)12月14日夜半に、旧赤穂藩士の大石内蔵助以下46名が江戸本所松坂町の吉良上野介義央の邸内に乱入し、義央の首級を挙げて、旧藩主浅野内匠頭長矩の仇を晴らした事件のことです。
「忠臣蔵」として芝居や映画、NHKの大河ドラマ「赤穂浪士」などであまりにも有名ですが、最近は昔ほど人気がなくなって来たようです。
「子季語」には、「討入り」「義士会」「吉良忌」などがあります。
ちなみに「義士祭(ぎしさい)」という「春」の季語がありますが、これは「江戸高輪の泉岳寺で、4月1日から4月7日まで行われる行事」で、大石良雄の念持仏の摩利支天の開帳などがあって賑わいます。
また、「大石忌(おおいしき)」というのは「大石内蔵助の命日である陰暦二月四日のこと」です。当日、高輪泉岳寺でも法会が営まれます。
なお「大石がよく通った京都の花街祇園の料亭一力(いちりき)で法要が営まれる陰暦三月二十日のこと」も「大石忌」と言います。ともに「春」の季語です。
例句としては、次のようなものがあります。
・松に月 義士討入りの 日なりけり(安住敦)
・義士会や 献灯一二 祇園より(大島民郎)
・討入りの 日や下町に 小火(ぼや)騒ぎ(鷹羽狩行)
・義士会や 音なくそそぐ 柄杓(ひしゃく)の湯(大野好子)
5.探梅(たんばい)
「探梅」とは、「春を待ちかねて、まだ冬のうちに早咲きの梅を求めて山野に入ること」です。枯れ尽くした大地の中に春の兆しを探す心映えを尊ぶものです。
寒気の残る山野を、一輪の梅を探し求める姿は、人生の真を追い続ける心の旅にも似ています。
「子季語」には、「梅探る」「探梅行」「春の便り」「春信」などがあります。
例句としては、次のようなものがあります。
・香を探る 梅に蔵見る 軒端哉(松尾芭蕉)
・打ち寄りて 花入探れ 梅椿(松尾芭蕉)
・大仏の うしろの山の 梅探る(長谷川櫂)
・探梅の 人が覗きて 井は古りぬ(前田普羅)