著名なグラフィックデザイナー原研哉の『白』と『白百』という本をご紹介します

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原研哉

我々団塊世代が高校生の頃の「現代国語」では、小林秀雄亀井勝一郎の評論が主流でしたが、今の高校の「現代国語」には、著名なグラフィックデザイナーである原研哉氏の『白』が掲載されており、2009年の東大入試問題にも登場しました。

1.原研哉の評論『白(しろ)』

原研哉の評論「白」

(1)原研哉の評論『白』(2008年、中央公論新社刊)

著者は白は意識の中にはっきりと屹立すると言います。

本書は「白」に対しての様々な見方を提示し覆してくれます。「白とは感受性である」と冒頭に書かれている言葉がこの書の全てを表しています。

第1章:白の発見

「白」から連想されるものは、紙・光・骨・牛乳・卵・純粋・清潔・新鮮など当たり前のように我々の身近にある「白」ですが、ちょっと考えると特殊な色です。

「光の三原色」を全て重ねると「白」になります。

「白い」という言葉は、古代の日本で「いとしろし=いちじるし」という「顕在性」を表した言葉に由来しています。

第2章:紙

なぜ本のページは白いのか?もし紙が白くなければ、文字や印刷の文化は今ほど発展しなかったかもしれないと、筆者は言います。

真っ白な紙に黒色で文字や図を置きます。その対比が人類の創造意欲をかき立てたのではないかと述べています。

筆者の言葉を借りれば、白くて四角い紙に、どのように「言葉を畳み」「文字を座らせる」かです。

長い試行錯誤の末に生まれたのが、今我々が目にしている本の形であり、文字なのです。

第3章:空白(エンプティネス)

筆者は「白」を単なる色ではなく、「空白」という概念に広げて考えています。

「空白」とは、エンプティネス、何もないということです。「無」とか「不在」のようなマイナスイメージが浮かぶかもしれませんが、筆者は「空白」を何かが入る「予兆」「可能性」という意味で捉えています。

たとえば、長谷川等伯の「松林図屏風」を見ると、描かれた松と松の間は空白ですが、不思議なことに我々は、その白い空間に無数の松の木があると感じることができます。

長谷川等伯の「松林図屏風」

(2)本書の要点

要点1 白はエントロピーの対極にある

要点2 白は感覚の中に湧き起こる現象である

要点3 思考や発想は「空白の器」が媒介している

要点1

まず、エントロピーとは何か。エントロピーとは熱力学の中で語られている、混沌の度合いを示しています。

筆者はエントロピーの引力圏を振り切って飛翔することが生命であり、その原像が白であると述べており、「白はあらゆる混沌から潔癖に逃れようとする志向」そのものです。
ここでは混沌とした現実社会と白の対比が忠実に書かれており読者にも分かりやすく示されています。

要点2

白には様々な白があると言います。半紙の白や雪のような白など際限なくありますが、「白色度」だけでは白さは印象付けれないと言いいます。「白色度」とは白の白さの程度のことです。

筆者は「白色度」が強いコピー用紙の上に花を置いてみると、紙の白さほどではないことに気づくが私たちの心に届けてくれる花の白は鮮烈に白いと述べています。
だからこそ筆者は「白は感覚の中に起きる現象」であると述べているのです。

要点3

ここでは「空白」について扱っています。白は「空白」に似ていると述べており、「空白」がそこに存在することでそれを補完しようと頭脳が連動します。これを椀子そばにたとえて筆者は語ります。

椀子そばとは、熱いそばつゆをくぐらせた一口大のそばを客のお椀に入れ、それを食べ終わるたびに、給仕がそのお椀に次々とそばを入れ続け、それを客が満腹になりふたを閉めるまで続けるものです。

その食べ終わったうずたく積まれた空っぽの碗を思考の成果物のように捉え、それを媒介することを筆者は「脳は、差し出された小さな空の器に、反射的に『答』を入れると言う傾向を持っている」と述べ、そこから思想や発想は「空白の器」が媒介していると言っています。

独創性とはエンプティネスの覚醒力、すなわち問いの質のことである。独創的な問いこそが「表現」と呼ぶにふさわしく、そこに限定された答は必要ない。それは既に無数の答を蔵しているのであるから。

老荘思想にある「無用の用」にどこか通じるものがあるように私は感じます。

2.原研哉の評論『白百(しろひゃく)』

原研哉の評論『白百』(2018年、中央公論新社刊)は、前著『白』から10年のあいだ反芻してきた「白」についての完結編です。ヨミウリ・オンラインで2年にわたって連載されたものが単行本となったものです。

白があるのではない、白いと感じる感受性だけがあるとかつて書いた。白が、色ではなく白いと感じる感受性や心理であるなら、その現象を連ねていくという方法で、白に接近してみるのも自然である。

著書『白』(2008年、中央公論新社刊)では、日本の美意識に潜在する「空」=空っぽで何もないものについて、「白」をキーワードに語りました。それは、著者自身のデザインの根幹にかかわる感覚でもありました。本書『白百』では、概念的だった『白』に対して、より具体的な事象としての「百例の白」(*)を挙げて語る。日常で接する道具や食べ物、記憶の束から引き抜いたもの、日本文化のなかの白、仕事のなかで感じていることなど、様々な白を通して、著者が考えるデザインの思想が浮かび上がります。

(*)「百例の白」とは以下の通りです。

骨・乳・紙・雪・漆喰・壁・ミコノス島の家・泰山木・羊・塩原・障子・箱・白磁・李朝陶磁・醤油差し・飯椀・卵・白桃・大根・真珠・白球・白髪とスキンヘッド・砂・洗濯物・銀・入道雲・波・滝・指・襟足・素人・白湯・白衣・肌色・足袋・はだか・浴衣・アイスランド・綿とオキシドール・数学・数式とチョーク・皺・麻・絹・綿・米・餅・うどん・素麺・豆腐・おにぎり・くずきり・靄と光・さくら・蝋・鍾乳洞・雲・結晶・切れ・足跡・概念・共感覚・花・夏・白金・八海山・甲州・白酒・マッコリ・手のひら・足の裏・目・うつろい・粉・角・タンパク質・烏賊・しらす・白木・伊勢神宮・畳・あかり・団扇・束見本・小数点・方寸・エンボス・スピッツ・月・リズム・空・正方形・庭・建築・白刃・白兵戦・わたし・掃除・推敲・百

3.原研哉とは

原研哉(はら けんや)(1958年~  )は、岡山県岡山市出身のグラフィックデザイナーです。武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科教授、株式会社日本デザインセンター代表取締役。日本グラフィックデザイナー協会副会長を務めています。

ニューズウィーク日本版の企画「世界が尊敬する日本人100」にも選ばれています。

彼は「余白の詩学」とも呼ばれる「白」を基調とした簡素なデザインで評価の高いデザイナーで、代表的な仕事はなんと言っても「無印良品」です。

「無印良品」は、一時低迷期を迎えるものの、2001年に彼と、プロダクトデザイナーの深澤直人をメンバーに招聘し、以来、あの強固なブランドイメージが構築されました。

1998年長野冬季オリンピックの開会式・閉会式プログラムを手がけ、同年山口県の梅田病院などのデザイン計画に関わっています。2000年RE DESIGN展で世界インダストリアルデザインビエンナーレ大賞を受賞。以降、世界各国を巡回しています。

2001年松屋銀座のリニューアル計画、深澤直人と共に「無印良品」のボードメンバーに参加。2004年HAPTIC展、FILING展開催。またこの年より教鞭をとる武蔵野美術大学の卒業年次の学生と共にEx-formationという共同研究を開始しています。2005年の愛知万博のプロモーションを担当。2007年SENSEWARE展開催。ほかに商品のデザイン、世界各地で企画展示・個展などを多数開催しています。

2015年7月、2020年夏季オリンピック東京大会の公式エンブレム入選3作品まで残りました

2020東京オリンピックエンブレム

2015年11月、次点作となった自身の作品と展開例を公開し、ピクトグラムや花火になるエンブレムなどの13のコンセプトを説明しました。

2020東京オリンピックエンブレム原研哉原研哉ピクトグラム2020東京オリンピックエンブレム原研哉花火

広報文化施設ジャパン・ハウス総合プロデューサー。2021年3月、Xiaomiの新しいロゴをデザインしています。

白 [ 原研哉 ]
白百 (単行本) [ 原 研哉 ]



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