江戸時代の笑い話と怖い話(その4)。怪談の「百物語」が大ブームとなる

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百物語・喜多川歌麿

最近はあまりテレビでも見ませんが、私が子供の頃は夏になると「四谷怪談」や「牡丹灯籠」「番町皿屋敷」「耳なし芳一」などの怪談話がよくありました。「肝試し(きもだめし)」もありました。「お化け屋敷」も人気がありました。

ところで江戸時代にも「百物語」という怪談ブームがありました。

1.「百物語」とは

「百物語(ひゃくものがたり)」とは、日本の伝統的な「怪談会」のスタイルのひとつです。怪談を100話語り終えると、本物の物の怪が現れるとされています

起源は不明ですが、主君に近侍して話し相手を務めた中世の御伽衆(おとぎしゅう)に由来するとも、武家の肝試しに始まったとも言われています

こうした怪談を集めた本も多く刊行されており、延宝5年(1677年)の『諸国百物語』、宝永3年(1706年)の『御伽百物語』、享保17年(1732年)の『太平百物語』などが知られています。「怪談文学」と称され、室町時代に始まり、江戸時代に一種のブームになったということです。

最期に現れる怪異は必ずしも邪悪なものとは限らず、天井から餅が降ってくる、小判が降ってくる、最期まで残った一人が立身出世したなど、百物語の結果がハッピーエンドとなる昔話がいくつも存在しています

なお「百物語」という言葉は、多数のエピソードを集めたとの意味で、「○○百物語」などとしてよく使われる成句となっています。

2.「百物語」の形式

寛文6年(1666年)の浅井了意(あさいりょうい)(?~1691年)による仮名草子『伽婢子(おとぎぼうこ)』などによると、伝統的な形式は以下のようなものです。

  • 新月の夜に数人以上のグループで行う。場所はそのグループの誰かの家、3間の部屋を用いる(2間でもよい)。3部屋の配置はL字型になっていると望ましい。
  • 参加者が集まる部屋は無灯。その隣の部屋も無灯。いちばん奥まった部屋に100本の灯心を備えた行灯と、文机の上に鏡を置く。行灯には青い紙を張る。
  • 参加者は青い衣をまとい、帯刀せず入室する。その他の危険物も部屋からは除去する(魔よけのために刀を飾るという流儀もあったという)。
  • 怪談を1話かたり終えたら、手探りで隣の部屋を通って行灯のある部屋に行く。そこで灯心を1本引き抜いて消し、自分の顔を鏡で見、元の部屋にもどる。その間もグループは話を続けてよい。
  • ここで語られる怪談は、現在でいう幽霊や妖怪が登場する怪談ではなく、いわゆる不思議話・因縁話などでよい。

これを続け、100話目を語り終え、灯心がすべて引き抜かれて真の闇が訪れたときに、なんらかの本物の怪が現れるとされます。

実行する際には、99話でやめ、朝を待つということです。これは「怖いもの見たさ」ならぬ「怖い話聞きたさ」ゆえのひとつのレクリエーションでもあるため、本当に怪がおこっては困るからだと推測されます。今でいう肝試し・度胸試しのひとつともいえ、武家において行われたともいわれます。

江戸時代末期からは、行灯(灯心)の代わりに蝋燭を用い、それを怪談会の行われる部屋の真ん中に設置し、実際に百話を語る会などが催されるようになったということです。また、本物の怪の具体例として青行燈が現れるとするものなどもあります。100話を語り終えた際、または会の途中に実際に怪が現れたとの記録も書物には残されていますが、真偽の程は定かでありません。

余談ですが、仮名草子作者の浅井了意は、私のふるさとである高槻市出身です。摂津国三島江にあった浄土真宗本照寺(現碧流寺)の住職の子として生まれました。

3.「百物語」の起源

江戸時代後期の国学者・喜多村信節(きたむらのぶよ)(1783年~1856年)は、随筆『嬉遊笑覧』のなかで、不寝番(ふしんばん)である夜伽(よとぎ)を務める人々が、その時間を利用して物語を語り合う「巡(めぐ)り物語」が、形式上の起源ではないかと考察しています。 また、民俗学者で歌人の折口信夫(おりぐちしのぶ)(1887年~1953年)は、戸内で怖い話を語ることで外部から近寄る魔物に「ここにはもっと怖いものがいるぞ」と思わせた『古屋のもり』という話型が、怪談を語る場の原点にあり、それが百物語という方式へと発展したと述べています。

余談ですが、折口信夫は、「釈迢空(しゃくちょうくう)」という号の歌人として有名です。

4.「百物語」の後世への影響

現代では、文豪森鷗外(1862年~1922年)の作品に同名の小説があるほか、手塚治虫(1928年~1989年)、杉浦日向子(すぎうらひなこ)(1958年~2005年)の作品にも同名の漫画があります。

京極夏彦(1963年~ )の「巷説百物語シリーズ」や宮部みゆき(1960年~ )の「三島屋変調百物語」シリーズという小説もあります。

『妖怪百物語』(1968年公開)という映画も製作されました。

なお「百物語」は、俳句で夏の季語です。例句としては次のようなものがあります。

百物語 はててともせば 不思議な空席 (内藤吐天)

髪濡れて 百物語に くははりぬ (島紅子)

5.日本の怪異・妖怪文化について

猛暑とコロナ禍の2020年夏、疫病退散の妖怪「アマビエ」グッズを買い求め、お化け屋敷で背筋の凍るような「冷たい」体験を楽しんだ人もいたことでしょう。

アマビエ伝説

幽霊、化け物などの怪異を怖がって楽しみ、妖怪キャラクターをマスコットとして身近に置いて親しむ。「怖い」「カワイイ」を楽しむ感性が併存するのが日本の怪異・妖怪文化です。

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