間違いやすい日本語(その4)愛嬌を振り撒く、青田買い、足を掬われるなど

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へんな日本語

一昔前か二昔前になりますが、よく「日本語が乱れている」ということが言われました。私は「若者言葉」や「ら抜き言葉」「新語・流行語」も含めて、「日本語の変遷」として受け止めるべきだと思っています。

しかし、その一方でやはり「本来の正しい日本語の使い方」を知っておくことは大切だとも思っています。

他人の言い間違いをいちいち指摘することは、良好な人間関係を台無しにしたり、上司や目上の人であれば恥をかかせることになるのでお勧めできませんが、恥をかかないように教養として知っておいて損はありません。

そこで今回は、文化庁が毎年実施している「国語に関する世論調査」の中から、間違いやすい「言葉の言い方」の具体例をご紹介したいと思います。

1.愛嬌を振り撒く(あいきょうをふりまく)

「誰にでもにこやかな態度を取る。周りの人みんなに愛想よくする」ことです。

本来の言い方は「愛嬌を振り撒く」ですが、最近は「愛想を振り撒く」と言う人が増えています。

平成27年度の調査では、「愛嬌を振り撒く」を使う人が49.1%で、「愛想を振り撒く」を使う人が42.7%でした。

2.青田買い

もともとは「稲の収穫前に、その田の収穫量を見越して先買いすること」で、転じて「企業が人材確保のため、卒業予定の学生の採用を早くから内定すること」の意味で広く使われるようになった言葉です。卒業前の学生を実る前の稲に、能力を収穫量に喩(たと)えたものです。

ところが、「稲刈り」という言葉の連想からか、「青田買い」ではなく「青田刈り」と言う人もいます。

平成26年度の調査では、「青田買い」を使う人が47.4%で、「青田刈り」を使う人が31.9%でした。

3.足を掬(すく)われる

「相手の隙(すき)を衝(つ)いて失敗させること」を「足を掬う」と言います。相撲の決まり手にも「足払い」(「蹴返し(けかえし)」「蹴手繰り(けたぐり)」「裾払い(すそはらい)」など)というのがありますが、これのことです。

本来の言い方は「を掬われる」ですが、最近は「足元(足下)を掬われる」と言う人が増えています。

平成28年度の調査では、「を掬われる」を使う人が26.3%で、「足元(足下)を掬われる」を使う人が64.4%という逆転した結果が出ています。

4.押しも押されもせぬ

「どこへ出ても圧倒されることがない。実力があって堂々としている。」ということです。

ところが「押すに押されぬ」という言葉の連想からか、本来の言い方の「押しも押されもせぬ」ではなく「押しも押されぬ」と言う人も増えています。

平成24年度の調査では、「押しも押されもせぬ」を使う人が41.5%で、「押しも押されぬ」を使う人が48.3%という逆転した結果が出ています。

5.古式ゆかしく

これは「古くからのやり方に則った様子で」という意味です。

しかし「馬上豊かに」との連想からか、「古式豊かに」と誤って使われる場合が時々あります。

平成22年度の調査では、「古式ゆかしく」を使う人が67.3%で、「古式豊かに」を使う人が15.2%でした。

6.上を下への大騒ぎ

「(上のものを下にし、下のものを上にする意から)入り乱れて混乱する様子」を表す言葉です。

しかし最近は「上下への大騒ぎ」と言う人が増えています。

平成27年度の調査では、「上下への大騒ぎ」を使う人が22.5%で、「上下への大騒ぎ」を使う人が60.8%という逆転した結果が出ています。

7.「お疲れ様」と「ご苦労様」

言うまでもなく「相手の労苦をねぎらう意味で用いる言葉」です。職場で、先に帰る人への挨拶にも使います。

ゴルフ中継などで、プレーを終えた選手に対してインタビュアーが「お疲れ様です」と声を掛け、選手の方も鸚鵡返し(おうむがえし)に「お疲れ様です」と答えていることもよくあります。

本来は「ご苦労様」は目上の人から目下の人に使うのに対して、「お疲れ様」は同僚や目上の人に対して使います。

しかし平成17年度の調査では、(1)自分より職階がの人に「お疲れ様(でした)」を使う人が69.2%、「ご苦労様(でした)」を使う人が15.1%、(2)自分より職階がの人に「お疲れ様(でした)」を使う人が53.4%、「ご苦労様(でした)」を使う人が36.1%という結果が出ています。

8.御眼鏡(おめがね)に適(かな)う

これは「目上の人に評価される。気に入られる」ことです。

平成20年度の調査では、本来の言い方である「お眼鏡にかなう」を使う人が45.1%で、「お目にかなう」を使う人が39.5%もいるという結果が出ています。

9.噛(か)んで含める

もともとの意味は「親が、食べ物を噛んで柔らかくして子供の口に含ませてやること」ですが、転じて「よく理解できるように、丁寧に言い聞かせる」という意味で使われるようになりました。

後者の意味では「噛んで含めるように」というのが本来の言い方ですが、最近は「噛んで含むように」と言う人が増えています。

令和元年度の調査では、本来の言い方である「噛んで含めるように」を使う人が50.5%で、「噛んで含むように」を使う人が31.9%もいるという結果が出ています。

10.声を荒(あら)らげる

これは「声や態度などを荒くする。荒々しくする。」という意味ですが、最近は「声をあらげる」と言う人が圧倒的に多くなっています。

文語で「荒らぐ」という言葉があるのですが、「あららげる」では「ら」が重複しているように感じる現代人が増えているようです。

平成22年度の調査では、「声をあららげる」を使う人が11.4%で、「声をあらげる」を使う人が79.9%という逆転した結果が出ています。

11.采配(さいはい)を振る

采配采配画像

「采配」は昔、戦場で大将が手に持ち、士卒を指揮するために振った道具です。大河ドラマなどを見ていると、徳川家康などの大将が、采配をさっと振って攻撃の合図をしていますね。

最近は、本来の言い方の「采配を振る」ではなく、「采配を振るう」と言う人が増えています。これは采配の正しい意味を知っている人が少なくなり、「腕を振るう」「辣腕を振るう」などからの連想で、このような言い方が広まったのではないかと思います。

平成29年度の調査では、「采配を振る」を使う人が32.2%で、「采配を振るう」を使う人が56.9%という逆転した結果が出ています。

12.舌先三寸(したさきさんずん)

これは「口先だけでうまく相手をあしらうこと。また本心でないうわべだけの巧みな言葉のこと」です。「舌三寸」とも言います。

しかし、最近は「先三寸」と言う人が増えています。

平成23年度の調査では、「先三寸」を使う人が23.3%で、「先三寸」を使う人が56.7%という逆転した結果が出ています。

13.新規蒔き直し(しんきまきなおし)

これは「元に戻って、もう一度やりなおすこと」です。

1933年~1939年にアメリカのF・ルーズベルト大統領が大恐慌の経済危機を克服するために実施した「ニューディール政策」も「新規蒔き直し政策」と訳されていましたね。

令和元年度の調査では、本来の言い方である「新規蒔き直し」を使う人が42.7%で、「新規巻き返し」を使う人が44.4%もいるという結果が出ています。

「蒔き直し」という言葉が今ではあまり使われなくなったためでしょう。「巻き直し」との混同もあるかもしれません。

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