一昔前か二昔前になりますが、よく「日本語が乱れている」ということが言われました。私は「若者言葉」や「ら抜き言葉」「新語・流行語」も含めて、「日本語の変遷」として受け止めるべきだと思っています。
しかし、その一方でやはり「本来の正しい日本語の使い方」を知っておくことは大切だとも思っています。
他人の言い間違いをいちいち指摘することは、良好な人間関係を台無しにしたり、上司や目上の人であれば恥をかかせることになるのでお勧めできませんが、恥をかかないように教養として知っておいて損はありません。
そこで今回は、文化庁が毎年実施している「国語に関する世論調査」の中から、間違いやすい「言葉の意味」の具体例をご紹介したいと思います。
なお、最近は「東大王」などのクイズ番組が大はやりなので、番組を通して正しい意味を覚える人も増えているようです。
1.雨模様
これは「雨の降りそうな空の様子。あまもよう」のことですが、最近は「雨が降っているらしい様子」を指す場合にも使われるようです。
井上陽水が作詞・作曲した「心もよう」という歌があります。この「心模様」や、「紅葉(もみじ)」の歌詞にある「山のふもとの裾模様」などからの連想でしょうか?
平成22年度の調査では、「雨の降りそうな様子」の意味で使う人が43.3%で、「小雨が降ったりやんだりしている様子」の意味で使う人が47.5%でした。
2.穿(うが)つ
もともとは「穴を開ける。掘る、または突き通す」という意味ですが、「人情の機微に巧みに触れる。物事の本質をうまく的確に言い表す」という意味で「穿った見方」などと使います。
しかし平成23年度の調査では、本来の意味の「物事の本質を捉えた見方をする」の意味で使う人が26.4%で、「疑って掛かるような見方をする」の意味で使う人が48.2%でした。
3.触り(さわり)
もともとは「触れた感じ。感触」のことですが、転じて「義太夫節の一曲の中で、一番の聞きどころとされる箇所」を指すようになり、さらに転じて「広く芸能で、中心となる見どころ・聞きどころ。また話や文章などで最も感動的、印象的な部分」を指す言葉となりました。
しかし平成28年度の調査では、本来の意味の「話などの要点」の意味で使う人が36.1%で、「話などの最初の部分」の意味で使う人が53.3%でした。
4.敷居(しきい)が高い
これは、「不義理や面目のないことがあって、その人の家へ行きにくいこと」です。
しかし令和元年度の調査では、本来の意味の「相手に不義理などをして行きにくい」の意味で使う人が29.0%で、「高級すぎたり、上品すぎたりして入りにくい」の意味で使う人が56.4%でした。
5.ぞっとしない
本来は「面白くない。あまり感心しない」という意味ですが、恐ろしくないという意味で使う人が増えています。
しかし平成28年度の調査では、本来の意味の「面白くない」の意味で使う人が22.8%で、「恐ろしくない」の意味で使う人が56.1%でした。
6.煮え湯を飲ます
本来の意味は「信用している人を裏切って、ひどい目にあわせること」です。
しかし平成23年度の調査では、「煮え湯を飲まされる」を本来の意味の「信頼していた者から裏切られる」の意味で使う人が64.3%で、「敵からひどい目にあわされる」の意味で使う人が23.9%でした。
7.やおら
これは「ゆっくりと動作を起こす様子。おもむろに」という意味です。
しかし平成29年度の調査では、本来の意味の「ゆっくりと」の意味で使う人が39.8%で、「急に、いきなり」の意味で使う人が30.9%でした。
8.玉に瑕(たまにきず)
これは、「ほとんど完全に近いものなのに、わずかな欠点があること」「すばらしい人物や事物に、ほんのわずかな欠点があること」のたとえです。
「瑕」とは宝玉の表面にできたきずのことで、過失や欠陥という意味もあります。
それさえなければ完全なのに、惜しいことにほんの少しの欠点がある場合に使います。
「玉の瑕」とも言います。
「たまに」を「偶に」と書いたり、まれにという意味で使うのは誤りです。
また「玉に傷」と書くのも誤りです。
9.殊の外(ことのほか)
これは次のような意味ですが、「事の他」と書くのは誤りです。
①予想と、かなり違っているさま。思いのほか。案外。意外。
②程度が際立っているさま。格別。とりわけ。
10.土地鑑(とちかん)
これは、「その土地の地理・地形・事情などについての知識」という意味です。
今では「土地勘」の方が多く使われており、辞書にも「土地勘」との記載がありますが、元の意味からいえば「土地鑑」が正解です。
これは元は警察用語で、「土地鑑のある犯人の仕業」などと言いますが、その土地の事情に通じていることを指します。
「鑑識」「鑑定」と同様に、「鑑」には「見分け」「判断」という意味があります。「山勘(やまかん)」とは違うのです。
11.御の字(おんのじ)
これは江戸初期の遊里語から出た言葉で、「御」の字を付けて呼ぶべきほどのものということから、本来は次のような意味になります。
①非常に結構なこと。望んだことがかなって十分満足できること。
②最上のもの。
なお、文化庁が発表した「国語に関する世論調査」(平成30年度)によると、「70点取れれば御の字だ」を、「大いにありがたい」と「一応、納得できる」の、どちらの意味だと思うかを尋ねたところ、「大いにありがたい」が36.6%、「一応、納得できる」が49.9%となっています。
なお「恩の字」と書くのは誤りです。
12.危機一髪(ききいっぱつ)
これは「髪の毛一本ほどの違いで安危が分かれるような、きわめて危険な状態。ひとつ間違えば危険に陥りそうなこと。危ない瀬戸際」という意味です。
髪の毛一本ほどの近くまで、危機が迫っているということから。
また、たった一本の髪の毛で、非常に重い物を釣り上げるという意味から。
多くは、最悪の事態を逃れ、踏みとどまった場合に使います。
なお、「危機一発」と書くのは誤りです。「ファイト一発!リポビタンD」のCMの影響かもしれませんね。
13.拘る(こだわる)
本来の意味は「強く執着して離れられなくなること。些細なことに拘泥すること」ですが、最近は「深い思い入れをもって追求すること」の意味で「こだわりの逸品」などと使うことが多くなっています。
もともと「こだわる」には、「差し障る」「妨げとなる」という意味があり、本来は「些細なことをいつまでも気にすること」「必要以上に気にすること」を指します。
14.存亡の機(そんぼうのき)
これは「引き続き存在するかここで滅びてしまうかという非常に重大な時。存亡の秋 (とき)」という意味です。
「存亡の危機」と言われる場合が多いですが、本来は誤りです。「危機」を使って表現するのであれば「存続の危機」が正しい使い方です。
文化庁が発表した平成28年度「国語に関する世論調査」では、本来の言い方とされる「存亡の機」を使う人が6.6パーセント、本来の言い方ではない「存亡の危機」を使う人が83.0パーセントという逆転した結果が出ています。