ロシアによる国家・組織ぐるみのドーピングとスポーツ仲裁裁判所の不可解な裁定

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カミラ・ワリエワ

2022年の北京冬季五輪は、「高梨沙羅などの女子スキージャンプ選手のスーツ規定違反での不可解な失格」や「中国に有利な判定の続出」などもありましたが、何と言ってもマイナスイメージの最大の話題は、「ロシアの女子フィギュアスケート選手のカミラ・ワリエワ(15歳)のドーピング違反」と「ドーピング陽性で暫定的資格停止処分になったにもかかわらず、スポーツ仲裁裁判所の裁定でショート・フリーともに出場した」ことでした。

以前から「陸上競技でのドーピング違反」や「水泳でのドーピング違反」は、カナダのベン・ジョンソンやアメリカのフローレンス・ジョイナーのように個人レベルのものもありましたが、ソ連や東欧諸国、中国などによる国家ぐるみ・組織ぐるみのドーピング違反もたびたびありました。

しかし今回のように「冬季五輪でのドーピング違反」はソチ五輪でのロシアによる国家ぐるみの大量のドーピング違反が明らかになって以来ではないかと思います。

アイスホッケーや、スピードスケート、ボブスレー、カーリングなどでは、平昌五輪でもドーピング違反があったようですが、フィギュアスケートでのドーピング違反の発覚は珍しいのではないでしょうか?

1.カミラ・ワリエワのドーピング違反

ワリエワとコーチ

ワリエワは昨年12月25日のドーピング検査で、狭心症を防ぐ薬物トリメタジジンが検出され陽性となりました。

ワリエワ選手の検体から検出されたトリメタジジンは、サンプル汚染と判明した他のスポーツ選手のサンプルと比較し、約200倍多い量だったと報道されています。「誤って摂取した」とは到底考えられない量です。

今月8日にこの結果が通知され、暫定的な資格停止とされましたが、異議を申し立てました。その結果、翌日にロシア反ドーピング機関(RUSADA)が資格停止を解除しました。

ドーピング検査の結果が出るのが、1ヵ月以上もかかったというのは、素人目にもおかしいと感じます。そこには、「北京五輪に出場後に結果を出す」ようにという政治的な圧力があったのではないかと推測できます。

なお当然のことながら、この解除を不服として、国際オリンピック委員会(IOC)、世界反ドーピング機関(WADA)、国際スケート連盟(ISU)がスポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴しました。

しかし不可解なことに、CASは14日、ワリエワの年齢や検査結果の通知のタイミングなどの「例外的な状況」を理由に、「暫定的な資格停止にすべきではない」と決定し、ワリエワの出場が可能になっていました。

ただIOCは、ドーピング問題の結論が出ていないとし、ワリエワが3位以内に入った場合、メダル授与式は開かないとしました。結果的にワリエワは4位に終わり、メダル授与式は行われました。

調査は現在も続いており、今後、ワリエワの今大会の成績が取り消される可能性もあります。

米紙ニューヨーク・タイムズは15日、ワリエワのドーピング検査ではトリメタジジン・ハイポクセン・Lーカルニチンの計3種類の薬物が検出されていたと報じました。

このうち、ハイポクセンとLーカルニチンは禁止薬物ではありませんが、この3種類の薬物の組み合わせ持久力の向上、疲労の軽減、酸素を効率的に活用することを目的としているようです。

なお、トリメタジジン狭心症や心筋梗塞の治療に使われる薬で、血管を広げ、心筋のエネルギー代謝を改善する作用があります。

アスリートが使用すると、血流が増加し、持久力が上がって運動後の回復も早くなる可能性があるそうです。

ハイポクセン心疾患の治療に使われる薬です。

ハイポクセンは米反ドーピング機関が2017年に、競技能力を向上させる効果があるとして禁止を主張した経緯がありますが、実際には禁止リストに入っていません。

L-カルニチン脂肪をエネルギーに変える働きを持ちます。

2019年にドーピング違反で4年間の資格停止処分を受けた陸上コーチのアルベルト・サラザール氏も選手たちにこの薬物を与えていたそうです。

L-カルニチンは口から摂取するのであればドーピング違反にならないようですが、点滴や静脈注射で大量に投与するのは禁止になっています。

今後は、薬物投与を主導したコーチの責任追及が当然行われるべきだと思います。

2.ロシアによる「国家・組織ぐるみのドーピング」の問題点

ロシアの国家ぐるみドーピング違反

「薬物疑惑」や「ドーピング違反」に関して気になるのは、2015年に明るみに出た「ロシアによる国家ぐるみのドーピング違反と、巧妙かつ悪質な隠蔽工作」の発覚です。

「薬物疑惑」や「ドーピング違反」は、「個人の記録への渇望」という側面もあるかも知れませんが、「軍事力・経済力・科学技術力」ばかりでなく、「スポーツの世界」においても「国威発揚のために金メダル獲得数増加」を目指し「勝利のためには手段を選ばない」「覇権国家の野望」という恐ろしい側面もあることが事実のようです。

ロシア国内では、内部告発などは困難な状況なのでしょうが、穿った見方をすればロシアの女子フィギュアスケート選手が「使い捨て」のように短期間で次々と姿を消すのは、ドーピングの影響ではないかと思います。

反ドーピング専門家による追加審査にもかかわらず、ロシアは平昌五輪におけるドーピング件数の半分を占めていたそうです。

3.「スポーツ仲裁裁判所(CAS)」の「不可解な裁定」の問題点

「スポーツ仲裁裁判所(CAS)」が、ショート競技後にワリエワのドーピング違反が判明したにもかかわらず、フリー出場を認めたことは、素人目にも「不可解な裁定」でした。

国際オリンピック委員会(IOC)、世界反ドーピング機関(WADA)、国際スケート連盟(ISU)がスポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴したにもかかわらず、このような結果になったことは、ロシアによるスポーツ仲裁裁判所(CAS)への政治的な圧力があったのではないかと私は思います。

「公平性・中立性・公正さ」が求められるスポーツ仲裁裁判所(CAS)が、このような状態になっていることは、由々しき問題だと思います。

ドーピングは禁止薬物や禁止された手法によって競技力を高め、優位に勝利を得ようとする行為です。公正さは失われ、選手の健康を害し、スポーツの価値を犯すものです。

オリンピックをはじめとする国際的なスポーツ競技を持続可能にするためにも、世界反ドーピング機関(WADA)を中心とした連携を強化し、負の遺産の撲滅を図る必要があると思います。

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