「梅」の日本への渡来は、一説では弥生時代(紀元前3世紀 ~紀元3世紀)に朝鮮半島を経て入ったものと考えられています。また他説では、遣唐使が日本に持ち込んだと考えられています。奈良時代頃に中国から日本に渡来した説では、薬木として紹介されたと考えられています。
いずれにしても日本で古くから親しまれている身近な花木で、学問の神様である「天神さん」は梅をシンボルとしていますし、今ではとんと見かけない「日の丸弁当」もそもそも梅がなければ作れません。庭木や盆栽としてもよく用いられますし、「盆梅展」も盛んに行われています。
ところで、「ウメ」という漢字には、「梅」のほかに「楳」という漢字があります。漫画家の「楳図かずおさん」のあの字です。
1.「某」という漢字の成り立ち
夏目漱石の小説「吾輩は猫である」の猫の主人である苦沙弥(くしゃみ)先生は、胃弱でしばしば医者の診察を受けたり、薬をもらっていました。そのかかりつけの医師は「甘木先生」でした。
この「甘木」という名前は、漱石のユーモアで、「某」という漢字を上下に分けて命名されたものです。なお甘木先生のモデルは、千駄木の漱石宅の隣家で開業医であった尼子四郎(1865年~1930年)で、実際に夏目家のかかりつけ医だったそうです。
「某」は「会意文字」(甘+木)です。「口中に一線を引いた」象形(食物を口にはさむ様を表し、「うまい」の意味ですが、ここでは「祈りの言葉」の意味)と、「大地を覆う木」の象形(「木」の意味)から、子供が授かるように祈るのに用いる木「梅」の意味を表し。借りて同じ読みの部分を当て字として使って)、「それがし」を意味する「某」という漢字が成り立ちました。
やがてこの漢字は「なにがし」「だれそれ」という意味で使われるのが普通になり、本来の「ウメ」という意味が忘れられてきたので、改めて「某」に木偏を加えた「楳」という字で本来の「ウメ」という意味を表すことにしたのです。
そのため、「偏」と「旁の下部」の二カ所に「木」がある妙な漢字となったのです。
2.「梅」という漢字の成り立ち
「梅」は「会意兼形声文字」(木+毎)です。「大地を覆う木」の象形と、「髪飾りをつけて結髪する婦人」の象形(「草木が盛んに茂る」の意味)から、美しく茂る木「ウメ」を意味する「梅」という漢字が成り立ちました。
「楳」の「異字体」として使われたのが、我々になじみ深いこの「梅」という漢字です。
3.「梅」を含む言葉
(1)塩梅(あんばい)
「按排」「按配」とも書きます。
味の基本である塩と梅酢の意の「えんばい」と、物をぐあいよく並べる意の「按排」とが混同した語です。
① 料理の味加減
②物事の具合・様子
③身体の具合・様子
④(按排・按配)物事の具合・様子・程合いを考えて、程よく並べととのえたり処理したりすること
なお、②~④の意味では「案配」とも書きます。
(2)青梅(あおうめ)(地名では「おうめ」と読みます)
①まだよく熟さない、青くて硬い梅の実。実梅(みうめ)。
「夏」の季語。青梅に 眉あつめたる 美人かな(与謝蕪村)
②香木の名で、分類は伽羅(きゃら)。酸っぱく苦い感じの香りで、青梅の風味があるところからいう。六十一種名香の一つ。
(3)梅酒(うめしゅ)
梅の実に焼酎(しょうちゅう)を加えて、その香味成分を浸出した日本古来の酒で、一種のリキュール。
(4)梅酢(うめず)
塩漬けした梅の実から出てきた汁で、酸味料の一種。梅の実を塩漬けにし、重石(おもし)をかけ、約2週間程度置くと出てくる、やや黄色を帯びた汁です。梅の中に多く含まれるクエン酸が主体の、非常に酸味の強い酢。
(5)松竹梅(しょうちくばい)
4.「梅」を含む四字熟語
(1)梅妻鶴子(ばいさいかくし)
俗世を離れた清らかで風流な隠遁生活のこと。
妻の代わりに梅の木を、子の代わりに鶴を愛でて、一人で清らかに風雅に暮らしたという故事から。
出典:詩話総亀
(2)梅林止渇(ばいりんしかつ)
別のものを使って、その場をしのぐこと。
魏の曹操の軍が道に迷って、兵士たちが喉の渇きを訴え始めると、曹操が先の梅の林に多くの甘酸っぱい実がなっていると言うと、口の中に唾液がでて、渇きをしのいだという故事から。
出典:「世説新語」仮譎
(3)和羹塩梅(わこうあんばい/わこうえんばい)
主君を補佐してうまく国を治める有能な大臣や宰相のこと。
「和羹」は様々な材料や調味料を合わせて作る吸い物のこと。
「塩梅」は塩と梅酢のこと。
国政の執行を塩と梅酢を程よく加えて美味しく仕上げる吸い物にたとえたもの。
出典:「書経」説命・下