日本語の面白い語源・由来(ふ-⑧)福寿草・蕗・風呂吹き大根・雲脂・腹心・ファッション・フリーマーケット

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福寿草

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.福寿草(ふくじゅそう)

福寿草

福寿草」とは、「早春、葉に先立ち黄色い花を開くキンポウゲ科の多年草」です。有毒。根は強心薬や利尿薬にされます。

福寿草は和名で、旧暦の元日頃に花を咲かせるため、江戸初期から新年を祝う花として正月の床飾りに用いられたことから、めでたい「福寿」の佳名が付けられました。

ただし、福寿草が正月頃に咲くのは、正月に間に合うよう人工改良された鉢植えや盆栽などで、野生のものは3月頃に花を咲かせます。

「福寿草」は新年の季語で、次のような俳句があります。

・福寿草 一寸物の 始なり(池西言水)

・花よりも 名に近づくや 福寿草(加賀千代女

・朝日さす 弓師が見せや 福寿草(与謝蕪村

・帳箱の 上に咲きけり 福寿草(小林一茶

2.蕗(ふき)

フキ

ふき」とは、「山野に自生するキク科の多年草」です。また、栽培もします。早春、葉より先に「蕗の薹(ふきのとう)」(下の写真)と呼ばれる花茎を出します。葉柄やふきのとうは食用とします。

フキノトウ

ふきの語源は、以下のとおり諸説あります。
①冬に黄色い花が咲くことから、「フユキ(冬黄)」の中略で「フキ」になったとする説。
②用便の後、お尻を拭く紙の代わりに、ふきの葉を使用したことから、「拭き」を語源とする説。
③ふきは葉が大きく、傘などに用いたことから、「葺く」の変化とする説。
④「ハヒログキ(葉広茎)」や「ヒロハグキ(広葉茎)」、「ハオホキ(葉大草)」の意味とする説。
⑤ふきの葉は大きく、少しの風でも揺れることから、「ハフキ(葉吹き)」「フフキ(風吹き)」の意味とする説。

ふきの古名は「フフキ」なので、「フフキ」が転じて「フキ」になったことは間違いありません。そのため、語源は④か⑤の説と考えられます。

「蕗の薹」は春の季語、「蕗」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・山陰や いつから長き 蕗の薹(野沢凡兆)

・ほろ苦き 恋の味なり 蕗の薹(杉田久女

・卯の花の こぼるる蕗の 広葉哉(与謝蕪村)

・青蕗や 虫の穴さへ うつくしく(長谷川櫂)

3.風呂吹き大根(ふろふきだいこん)

風呂吹き大根

風呂吹き大根」とは、「厚く輪切りにした大根を柔らかく茹で、熱いうちに練り味噌をつけて食べる料理」です。

風呂吹き大根の名は、冷ましながら食べる仕草に由来します。

昔の風呂は蒸し風呂で、熱くなった体に息を吹きかけると垢を掻きやすいため、息を吹きかけ垢をこすり取る者がいました。

このように、蒸し風呂で息を吹きかけて垢を取ることや、その者を「風呂吹き」と呼んでいました。

この料理を食べる時に冷ます姿が、湯気の出る体に息を吹きかける様子と似ていることから、料理も「風呂吹き」と呼ぶようになりました。

その他、風呂吹き大根の語源には、大根は体にも良く安くて経済的なため、「不老富貴(ふろうふき)」の意味からという説。
ある僧から「大根の茹で汁を漆貯蔵室の風呂に吹き込むと、うるしの乾きが早くなる」と聞いた漆職人が、その通りにしてみたところ大変効果があったので、大根の茹で汁を大量に作ったが、茹でた大根が残るため近所の人に配ったことから、「風呂吹き大根」と呼ばれるようになったとする説があります。

しかし、この料理は元々カブで作られており、単に「風呂吹き」と呼ばれていた。
その材料を大根に変えたものが「風呂吹き大根」であるから、不老富貴や漆職人の説は考えられません。

大根を使った風呂吹きが作られるようになったのは、江戸初期頃と考えられています。

「風呂吹き大根」は冬の季語で、次のような俳句があります。

・風呂吹や つれづれ読んだ あくる朝(土卵)

・風呂吹の 一きれづつや 四十人(正岡子規

・風呂吹や 飯粒沈む 椀の底(会津八一)

・禿椀に 風呂吹ばかり うづ高き(寺田寅彦)

4.雲脂/頭垢(ふけ)

雲脂

ふけ」とは、「頭皮の角質細胞に分泌物がまじって乾燥してはがれる、うろこ状のいもの」です。

ふけの語源には、「ふけ(陳化)」や「ふるあかむけ(古垢剥)」の意味、「ふけ(浮垢)」の意味や「こけ(苔)」の転など諸説あります。

垢に似たもので剥がれて浮き上がってくることから、この中では「浮垢」の意味が有力と思われます。

ただし、「垢」は「あ」の音が強いため、ふけの「け」は「垢剥」の意味で「古垢剥」か「浮垢剥」が良いかもしれません。

また、体から出るものではありませんが、印象的に「苔」も近いものがあり、「浮苔」で「ふけ」になったとも考えられます。

漢字の「雲脂」は、白く雲のようであるところからの当て字です。「頭垢」は、意味からの当て字です。

5.腹心(ふくしん)

腹心

腹心」とは、「どんなことでも打ち明けて相談できること。深く信頼できること。また、そのような人」です。

腹心の元々の意味は「腹と胸」で「体の中心」を言い、転じて「心の奥底」を意味するようになりました。

「腹」と「心(胸)」は自身の頼みどころでもあり、心の奥底も意味することから、心から信頼できることや、深く信頼できる人を「腹心」とたとえるようになりました。

「信頼できる人」の意味で「腹心」が使われた例は古く、中国最古の詩篇『詩経』や、779年の『続日本紀』の記事の中でも見られます。

6.ファッション/fashion

ファッション

ファッション」とは、「流行。はやり」のことです。特に、服装や髪型・化粧・アクセサリーについていいます。単に服装の意味でも用いられます。

ファッションは、「仕方」「流儀」「流行」を意味する英語「fashion」からの外来語です。
英語の「fashion」は、「作ること」「なすこと」を意味するラテン語「factio」に由来し、古期フランス語の「faceon」を経由して「fashion」となりました。

英語の意味からすれば、「流行のファッション」や「定番のファッション」といった言い回しは、「流行の流行」「定番の流行」という意味になります。

しかし、日本ではファッションが「お洒落なもの」といったニュアンスで受け止められ、多くは「服装」を指す言葉として用いられるため、これらの言い回しも誤りとされていません。

7.フリーマーケット/flea market

フリーマーケット

フリーマーケット」とは、「参加者が自分の使っていた古物などを持ち寄って開催される市場。ガラクタ市。ボロ市」のことです。フリマ。

フリーマーケットの「フリー」は「自由」ではなく、昆虫の「ノミ(蚤)」のことで、「free」ではなく「flea」です。

フリーマーケットは、「蚤の市」を意味する英語「flea market」からの外来語です。
「flea market」は、フランスパリ郊外のラ・ポルト・ド-サン・クリニャンクールで開かれる中古品の露店市の蚤の市「marche aux puces」の訳です。

英語の「flea」は、他の語に付いて「みすぼらしい」「汚れた」の意味になる語で、古物を持ち寄ることに由来します。

日本では「フリー」を「自由」と誤解し「free market」と書かれることも多いですが、「自由に参加できる市場」の意味を持たせ、和製英語として意図的に「free market」と表記している場合もあります。

ただし、経済用語で「free market」は、「自由市場(じゆうしじょう)」という別の意味で用いられているため、混乱を避けるためにも「flea market」と表記する方が適切です。

フリーマーケットのルーツとなるパリの蚤の市は、いわゆる露店市ですが、個人が販売するフリーマーケットの形は、自宅の車庫で中古品を売る「ガレージセール」を発展させたもので、1970年代からアメリカ西海岸を中心に広まりました。

日本初のフリーマーケットは、1979年10月に『日本フリーマーケット協会』が大阪で開催したものといわれます。

8.笛(ふえ)

笛

」とは、「管楽器の総称。特に、木管楽器の一般的呼称」です。

笛の語源には、「ふきえ(吹柄)」や「ふきえ(吹枝)」の意味、吹くと良い音が出ることから「ふえ(吹吉)」や、音色からなど諸説あります。

弦楽器の総称「琴」を「弾き物」、管楽器の総称「笛」を「吹き物」と対比して呼ぶように、吹いて鳴らすものなので、ふえの「ふ」は「吹」の意味と考えられます。

ふえの「え」は「枝」か「柄」のいずれかと思われますが、「枝」と「柄」は同源と考えられているため特定は困難です。

日本最古の笛は縄文時代の「岩笛(石笛)」なので、「枝」や「柄」が語源でないようにも思えますが、「笛」の呼称が初めて見られるのは『日本書紀』なので、「笛」と呼ばれ始めた時代には細長いものになっていたとも考えられます。

漢字の「笛」の「由」の部分は、「抽」のことで細い穴から抜き出す様子を表しており、「笛」には竹の管から息を抜き出して鳴らすものの意味があります。