「愛」と言えば私などは「愛の告白」とか「愛のキューピッド」という言葉を思い出します。
そして商魂たくましい「バレンタインデー」というのも流行し、私も「愛のない義理チョコ」をもらった経験があります。「ホワイトデー」のお返しの方が高くつきましたが・・・
最近では「愛の不時着」という韓国ドラマが大変話題になりましたね。
ところで、「愛」という漢字にはどのような由来があるのでしょうか?
1.「愛」という漢字の成り立ち
「愛」は「会意兼形声文字」です。
「頭を一生懸命巡らせる人」の象形と「心臓」の象形と「足」の象形から、「大事・大切にする、好きな気持ちが相手に及ぶ」ことを意味する「愛」という漢字が成り立ちました。
好きな人ができると、相手のことをたくさん知ろうとする想いは、今も昔も変わらないということです。
「愛」の古い字形は、今と少し形が違っていて、「旡」と「攵」と「心」の組み合わせからできていました。
最初の「旡」は、単独ではほとんど使われることがありませんが、人間が後ろを振り返っているさまをかたどった文字です。次の「攵」は、人の足跡をかたどった文字で、そこから「ゆっくりと歩く」という意味を示します。最後の「心」は、言うまでもなく「人間のこころ」を表しています。
つまり、「愛」という漢字は、「人がゆっくりと歩きながら、後ろを振り返ろうとする心情」を表しているのです。
過ぎ去った事柄をすっかり忘れてしまうのではなく、慈しみと懐かしさをもって振り返り、それを大切に育(はぐく)む感情が「愛」の本来の意味です。
2.直江兼続が兜の前立てに付けた「愛」
2009年の大河ドラマ「天地人」が放映された時、妻夫木聡演じる主人公の直江兼続(なおえかねつぐ)が、兜の「前立て」に「愛」という字を掲げていたことが話題になりました。
戦国時代の武将と「愛」というのが、しかも兜の飾りに付けているのが、いかにもミスマッチに思われたのでしょう。
兜の前立てには、「龍」「百足」など勇ましいものや前にしか進まない「勝ち虫」と呼ばれる「蜻蛉」などがありますが、「愛の一字」というのは珍しく、「愛の武将」と言われていることから、「愛民」や「仁愛」のイメージが強くあります。
しかし、戦国時代における「愛」の意味は、現代の恋愛や人類愛、慈愛のような「愛」の意味ではなく、「愛欲」「愛撫」「愛着」のような人間の欲情を意味する言葉でした。本能的な欲望で、貪り執着する根本的な煩悩です。
兼続が「愛」の文字に込めた思いの由来は、彼が信仰していた「愛染明王(あいぜんみょうおう)」か、あるいは「愛宕権現(あたごごんげん)」と言われています。
3.「愛」を含む言葉
(1)愛育(あいいく)
思いやりの心を持って育てること。
(2)愛縁(あいえん)
慈しむことで生まれる人とのつながり。
(3)愛悪(あいお)
愛することと憎むこと。
(4)愛河(あいが)
愛欲。性的な欲望を河にたとえた言葉。
(5)愛楽(あいぎょう)
仏道を信じて願い求めること。
(6)愛玉(あいぎょく)
他人の娘を言い表す尊称。令嬢。
4.「愛」を含む四字熟語
(1)愛屋及烏(あいおくきゅうう)
溺愛、盲愛のたとえ。
その人を愛するあまり、その人に関わるもの全て、その人の家の屋根にとまっている烏(からす)さえも愛おしくなるということから。「屋を愛して烏に及ぶ」とも読みます。
「愛及屋烏(あいきゅうおくう)」「屋烏之愛(おくうのあい)」とも言います。
(2)愛月撤灯(あいげつてっとう)
ものを大切にして可愛がる程度が、極めて激しいこと。
「愛月」は月を愛すること。「撤灯」は光源となる灯りを撤去すること。
中国の唐の蘇テイは、酒を飲みながら詩を作る宴席で、月明かりがとても美しかったので、灯りを撤去させたという故事から。
「月を愛して灯を撤す」とも読みます。
(3)愛財如命(あいざいじょめい)
財産を命と同等に扱って大切にすること。または、命よりも財産を大切にすること。
「愛財、命の如し」とも、「財を愛すること命の如し」とも読みます。
(4)愛多憎至(あいたぞうし)
愛や恩を多くもらいすぎると、憎しみやねたみを生むということ。
「愛多憎生(あいたぞうせい)」とも言います。
(5)愛別離苦(あいべつりく)
仏教の八苦の一つで、親子や兄弟、夫婦などの愛する人との生別または死別することの悲しみや苦しみのこと。
(6)愛楊葉児(あいようように)
やなぎの葉を愛する幼児という意味。
幼児が黄色く色づいたやなぎの葉を見て黄金と思い込み大切にするということから、浅い知識のままで、真理を追究しようとしないこと。
浅い知識のままで満足することを戒めた仏教語。
(7)甘棠之愛(かんとうのあい)
すぐれた為政者を人々が慕う気持ちが深いこと。
「甘棠」はからなし、りんごの木のこと。
中国の周の召公は、善政を行った立派な為政者として人々に慕われ、召公が木蔭で休んだりんごの木を大切にして、いつまでも召公を忘れなかったという故事から。
(8)彊食自愛(きょうしょくじあい)
しっかりと食事をとって健康に気遣うこと。「彊食」は無理にでも食事をすること。
「強食自愛」とも書きます。
(9)敬天愛人(けいてんあいじん)
天を尊いものとして崇めて、人を愛すること。
「敬天」は天を敬うこと。「愛人」は人を愛すること。
西郷隆盛が自身の学問の目的としていた言葉。
(10)兼愛交利(けんあいこうり)
全ての人を愛して、互いに利益を与え合うこと。「兼愛」は全ての人を愛するという意味。
墨子が儒教の「仁愛」を差別愛と批判して唱えた思想。
「交利」はお互いに利益を与え合うこと。
(11)兼愛無私(けんあいむし)
全ての人を愛すること。「兼愛」は全ての人を愛するという意味。
墨子が儒教の「仁愛」を差別愛と批判して唱えた思想。
「無私」は個人的な感情がないこと。
「兼愛私心無し」とも読みます。
(12)三千寵愛(さんぜんちょうあい)
たくさんの侍女にかける寵愛。
元は、たくさんの女性にかけるべき愛情を一人だけに向けてしまうこと。
宮中に仕える女性三千人にかける寵愛という意味から。
中国の唐の玄宗皇帝は、三千人ほどの美女がいたが、楊貴妃はその美女たち全員の寵愛を独り占めしたという故事から。「寵愛一身(ちょうあいいっしん)とも言います。
(13)舐犢之愛(しとくのあい)
親が自身の子を溺愛すること。
「舐」は舐める、「犢」は牛の子のことで、牛が子牛を舐める様子にたとえた言葉。
(14)氷炭相愛(ひょうたんそうあい)
この世にあるはずがないもののたとえ。または、性質が逆のもの同士が助け合うことのたとえ。
炭の火で氷はとけて、氷のとけた水で炭の火が消えるという意味から、氷と炭が愛し合うことはできないということ。
また、氷のとけた水で炭の火を消して燃え尽きるのを防ぎ、炭の火は氷を本来の姿である水に戻すという意味から、性質が反していても互いに助け合って本質を保つことができるということ。
「氷炭相愛す」とも読みます。「冰炭相愛」とも書きます。
(15)和顔愛語(わがんあいご)
仏教経典で菩薩の態度を表現する言葉で、和やかで親しみやすい態度のこと。
「和顔」はなごやかで柔らかい表情、「愛語」は親愛の気持ちのこもった言葉のこと。