1.生老病死(しょうろうびょうし)
「生老病死」という言葉があるように、人間は生れ落ちると、誰しも「死」から逃れることは絶対にできません。
古代中国の皇帝である秦の始皇帝は、「不老不死」の妙薬を探し求めるように部下に指示し、「水銀」によってかえって命を縮めたということです。
始皇帝は徐福に「蓬莱の国」へ行き仙人を連れて来るように(あるいは仙薬を持って来るように)命じたことが「史記」に記録されています。むろん徐福はそれを探し出せず、日本に亡命したとの伝説が残っています。あとに残された部下たちは、困った挙句「辰砂」という水銀を原料にした丸薬を作り、それを飲んだ始皇帝は猛毒によって死亡したそうです。
「生老病死」とは、「生まれること、老いること、病むこと、死ぬことの四つの苦」のことです。「人生における免れない四つの苦悩」のことです。
もとは「仏教語」で、「四苦」ともいい、また、「四天使」ともいわれます。
この「四苦」に、「愛別離苦あいべつりく(親愛な者との別れの苦しみ)」、「怨憎会苦おんぞうえく(恨み憎む者に会う苦しみ)」、「求不得苦ぐふとくく(求めているものが得られない苦しみ)」、「五蘊盛苦ごうんじょうく(心身を形成する五つの要素から生じる苦しみ)」を加えたものを「八苦」と言います。
2.「葬式饅頭」と「紅白饅頭」
(1)「葬式饅頭」とは
「葬式饅頭」とは、弔事に粗供養として配られる饅頭のことで、故人からの返礼品の意味を込めて、葬式の参列者に配られます。最近では葬式饅頭を目にする機会が少なくなってきており、葬式饅頭という存在を知ってはいても、なぜ葬式に饅頭を配るのか、疑問に思う人も多いと思います。
「饅頭」の起源は中国で、三国志時代に諸葛孔明の軍が戦いから凱旋する際、川の氾濫を鎮めるために饅頭を供えたのが始まりとされています。日本には室町時代に伝わり、伝来当時は仏教徒の軽食として食べられていました。
諸葛孔明が饅頭で川の氾濫を鎮めたという逸話以降、饅頭は神聖なものと特別視されるようになり、神へのお供え物として扱われるようになりました。
日本に饅頭が伝来した際もその概念は引き継がれ、儀式での献上品や、式典の時に配る菓子として饅頭が用いられるようになりました。
饅頭は慶事や弔事などでも配られるようになり、結果として「葬式饅頭」が誕生しました。
(2)「紅白饅頭」とは
「紅白饅頭」はお祝いの際に登場する定番の和菓子です。
紅白の色は、めでたい、お祝い、縁起がよい、といった意味で祝いの席では紅白の幕が張られます。由来諸説ありますが、赤色が赤ちゃんの出生を意味し、白色が死装束の色のように死や別れを意味するところから、その2つの色を組み合わせることによって人生そのものを表しているという説が有力のようです。
ところで、80歳以上とか90歳代の高齢で亡くなった場合、事故などの不慮の死でなければ、「天寿を全うした」ことのお祝いの意味で、「紅白饅頭」や「紅白餅」を配る風習がある地域もあります。
長寿を得たのち寿命が尽きて世を去るのは、中国でも慶事とされます。今の中国語で「70歳以上の人が病気で亡くなった時の葬式」を「白喜事」と言います。これは結婚式を「紅喜事」と言うのと対になっているのです。「白」は中国の「喪色」です。
中国流に言えば、私のように72歳を超えた団塊世代の葬式は、「白喜事」というおめでたいことになるのでしょう。
「死」は恐ろしいことなので、世界中どこでも「人が死ぬ」ことをなるべく婉曲(遠回し)に表現します。日本語では「永眠」「逝去」「物故」「他界」や「身罷る(みまかる)」(「身が現世から罷る」意)「露と消える」などです。英語でも「die」は強烈な語感を伴うので、日常会話では「leave」とか「pass away」と言うそうです。
日本語の「死」を避けた表現の一つに「めでたくなる」というのがあります。これはいささか逆説的に使われるものですが、十返舎一九の「東海道中膝栗毛」に「親方は年寄りの癖に、美しゐ若いかみさまをもって、腎虚して、もふ、けふかあすかといふくらゐ、これも今にめでたくなるは必定。」という例があります。
3.「死」という漢字の成り立ち
「死」は「会意文字」(歹+ヒ)です。「白骨」の象形と「ひざまずく人」の象形から、「ひざまずく人の前に横たわる死体」「人間がひざまずいて遺体に拝礼していること」を意味し、そこから「しぬ」を意味する「死」という漢字が成り立ちました。
古代中国では、亡くなった人をしばらくは地中に埋めず、骨が損傷し始めてから、故人に別れを告げたようです。
遺体は草むらに埋葬されました。そのことを示すのが「葬」という漢字で、これは「死」を上下の「草」ではさんだ形です。