「好き」という言葉は、「好き嫌い」とか「好きになる」などと日常的によく使う言葉ですが、「好」という漢字を見ると「女」と「子」でできています。
なぜ「女」と「子」で「好き」を意味する漢字になったのでしょうか?
1.「好」という漢字の成り立ち
「好」は「会意文字」(女+子)です。
「両手をしなやかに重ねひざまずく女性」の象形と「頭部が大きく、手足がなよやかな乳児」の象形、すなわち母親が子供を抱く姿は「美しく、喜ばしい」ことから「好」という漢字が生まれたのです。
甲骨文字を見ると、いかにも母親らしい女性が、子供を抱きしめている様子が描かれています。
つまり「好」という漢字はもともと、母親が子供を可愛がることを表したものです。
さらに、母親の子供に対する愛情を示すことから、「うつくしい、よい」という意味や、親子の関係を示して「したしい」という意味をもつようになったのです。
生まれたばかりの赤ん坊が最初に触れる母親の肌。お乳を含みながら、やさしいぬくもりを感じます。
突然放り出された未知の世界への恐怖を逃れ、ここちよい胎内で感じたのと同じやすらぎを得る赤ん坊。子供は、心身ともに自分を満たし、守ろうとしてくれるその相手を、理屈ぬきに、本能のまま好きになるのです。
それはやがて、親に対する信頼感となり、いつしか彼らは自信をもって立ちあがり、歩き出してゆきます。
2.「好」という漢字の意味
(1)「よい(感じがいい、望ましい、正しい、優れている、立派な、人柄が良い、美しい、仲が良い)」
(2)「よしみ」(同意語:誼)
①「親しい付き合い・関係。また、その親しみ。」(例:好みを結ぶ)
②「何らかの縁(巡り合わせ・運命)による繋(つな)がり」(例:昔の好みで金を貸す)
(3)「よく」(同意語:善・良)
(4)「このむ」(同意語:喜)
(5)「よろこぶ」
(6)「すき」
①「人や物事に心が引きつけられる事」、「魅力を感じる事」
②「片寄ってある物事を好む事」
③「異性に対する心が移りやすい事」(例:好き者)
④「自分の思うままに振る舞うこと」(例:好きなだけ寝る)
(7)「はなはだ」(同意語:甚)
3.「好」を含む言葉
(1)愛好(あいこう)
ある物事を好んで楽しむこと。
(2)男好き(おとこずき)
①女性の容姿や性格などが男性の好みに合っていること。
②女性が男性との情事を好むこと。また、その女性。
(3)恩好(おんこう)
厚い人情。いつくしみ。よしみ。厚情。
(4)格好/恰好(かっこう)
①外から見た姿。外見。
②程度などがほどよいこと。うってつけ。「―の的だ」「―な値段」
③体の構え。姿勢。ポーズ。
④服装や髪形。身なり。ファッション。
⑤周りの人からの見た姿やありさま。世間体。体裁。「―がつかない」
(5)好角家(こうかくか)
相撲の観戦を好む人。相撲愛好家。
(6)好好爺/好々爺(こうこうや)
優しい性格で気のよいおじさん。
(7)好日(こうじつ)
これといった出来事のない穏やかで気持ちのよい日。
(8)修好(しゅうこう)
親しく交流すること。特に国同士の交流をいいます。
(9)好き者(すきもの)
①情事を好む人。好色家。
②普通ではないものを好む人。物好きな人。好事家(こうずか)。
4.「好」を含む四字熟語
(1)懿公好鶴(いこうこうかく)
大切にすべきものを軽く扱い、くだらないものを大切にしたために身を滅ぼすことのたとえ。
「懿公」は人の名前。
衛の国の懿公は、家臣や国民を大切にせず、動物の鶴を好んで爵位を与えて大切にしていたが、戦争になると兵隊は鶴に戦わせればよいと言って協力せず、懿公は身を滅ぼしたという故事から。
(2)雨奇晴好(うきせいこう)
晴れでも雨でも美しい景色のこと。
山水の景色は、晴れた日は美しく、雨の日は趣きがあり、どちらも見事であるという意味。
「晴好雨奇」とも言います。
(3)好逸悪労(こういつあくろう)
苦労するのを嫌がり、遊んで暮らすことだけを求めること。
「逸」は楽しむこと。「悪」は嫌うこと。「逸を好み労を悪む」とも読む。
中国の後漢の医者の郭玉が言った病気を治すための四つの困難の一つ。
(4)好学尚武(こうがくしょうぶ)
学問と武術のどちらも好んで重んじること。
「好学」は学問を好むこと。「尚武」は武術を重んじること。
(5)好事多魔/好事多磨(こうじたま)
よい出来事には邪魔が入ることが多いということ。「魔」は邪魔や災難、災いのこと。
男女の交際などで邪魔が入ったり、もめごとが起きたりしてうまくいかないことをいうこともある言葉。
「好事魔多し」とも読みます。
(6)好評嘖嘖/好評嘖々(こうひょうさくさく)
評判が非常によいこと。
「嘖嘖」はたくさんの人がほめていうこと。
(7)好謀善断(こうぼうぜんだん)
しっかりと考えて、物事を正しく処理すること。
「謀」はしっかりと考えること。「善断」はうまく処理すること。
(8)総角之好(そうかくのよしみ)
小さなころからの親交のこと。
「総角」は束ねた髪を角(つの)のように両側から垂らした小児の髪型のことから、小さい子供という意味。「好」は親しい関係のこと。
(9)二姓之好(にせいのこう/にせいのよしみ)
結婚すること。または、婚約した両家の親しい交際のこと。
昔の中国では同じ姓をもつ者同士は結婚できないという風習があったことから、「二姓」とは姓の異なる両家のこと。
(10)緑林好漢(りょくりんのこうかん)
盗賊のこと。
「緑林」は中国の山の名前。「好漢」は立派な男。または、勇敢な男のこと。
中国の前漢の時代に、生活に困った農民が緑林山を拠点にして武装した盗賊になり、それを討伐にきた軍隊に抵抗したという故事から。