江戸時代の笑い話と怖い話(その23)。結婚式のタブーだったひと言とは?

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江戸時代の結婚式

現代でも「結婚式の忌み言葉」というのがあります。

結婚式の祝辞で、不幸を連想させる言葉、夫婦の別れを連想させる言葉、重ね言葉、マイナスイメージに受け取られる言葉などは禁句です。しかし「くれぐれも」とか「ますます」などの重ね言葉は、つい言ってしまいがちです。

ところで、江戸時代の結婚式でタブーだったひと言とはどんなものでしょうか?

今でも、挨拶の席で「別れる」といったボキャブラリーを口にするのはご法度ですが、江戸時代の笑い話でもそのコンセプトは同じで、あわて者がうっかり口を滑らせてしまうものです。

1.『さとすずめ』より「婚礼」

安永期(1772年~1781年)に出版された『さとすずめ』の「婚礼」に登場する八兵衛は、体を張って働く仕事師です。なお元禄期(1688年~1704年)の前後から、結婚式は夜に行われるようになり、式の後に宴会が設けられました。

仕事師の八兵衛が、付き合いのある若旦那の結婚式に招かれることになりました。「ちょっと大家(おおや)さん、実は今夜、旦那さんの結婚式に呼ばれてまして。何とご挨拶すりゃいいのか、教えてもらえませんかねえ?」

すると大家が答えました。「最後は、帰る(=実家に帰る・出戻る)じゃなくて、開く(=お開きにする)と言うんだよ。もし忘れても、帰ると言うのはダメだからね」「おっと、さすが大家さんだ。がってん承知しました」

こうして早合点のまま会場に出かけると、もう宴会は中盤にさしかかり、食事が済んだ人たちは皆帰っていました。

八兵衛も帰りたいと思ったのですが、「開く」という言い方を忘れてしまってモジモジしながら、そっと人目を盗んで帰ろうと表に出ました。

「おやおや、八兵衛さん、お酒はたくさん召し上がりましたか?それでもう、開くのですか?」「いえいえ、私はこれから欠落(かけおち)を致します」

ちなみに江戸時代の「欠落」とは、「行方をくらますこと(=出奔)」ですが、一方では「男女の駆け落ち」も表す言葉で、結婚式に最もふさわしくない一言でした。

2.『近目貫(きんめぬき)』より「祝儀」

『近目貫』も『さとすずめ』と同じく安永期に出版された本で、よく似た笑い話です。

仕事師の男が結婚式に招待され、用意をしていたら仲間がやって来ました。「お前は、帰る時の言葉を知ってるか?」「いや、知らない。教えてくれよ」「お暇(いとま)申しますとか、帰りましょうとかは、絶対ダメだからな。開きましょう、と言わなきゃ」「おお、承知したよ」

そうしてお座敷に出かけ、膾(なます)の付け合わせの九年母(くねんぼ)(=みかんに似た果物)まで食べ、お膳が片付けられたとたんに、くたびれてきました。「ご亭主さん、私は欠落(かけおち)致します」



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