1.特集ドラマ「ももさんと7人のパパゲーノ」とは
伊藤沙莉主演の特集ドラマ「ももさんと7人のパパゲーノ」が、8月20日よる11時~11時59分、NHK総合で放送(全1回)されます。
ももさんには、これまで誰にも言わなかった言葉がある。「死にたい」。
ある夏、ひょんなことから旅に出たももさん。
それぞれに生きづらさと折り合う7人と出会いー。
「死にたい」自分を肯定していく、1週間の物語。
「パパゲーノ」とは「死にたい気持ちを抱えながら、その人なりの理由や考え方で『死ぬ以外』の選択をしている人」を指す言葉です。オーストリアのメディア研究では、こうした経験を持つ人のストーリーを伝えることが、自殺を思い留まる抑止力になることが示されていることから、NHKが運営するサイト「自殺と向き合う」に、日々寄せられる「死にたい」「生きるのがつらい」という投稿や、当事者への取材を元に、ももが出会う「7人のパパゲーノ」たちの生きざまを描きます。「もも」とは投稿の中で、最も多く使われるニックネームです。
(1)あらすじ
ももさん(25)には友達もいる。少し離れた所に住む両親とは時々ご飯を食べるし、特に付き合いたくないゾーンではない彼氏とデートを重ね宅飲みをする。職場で理不尽な得意先の電話にちゃんと謝るし、飲み会では社会人としてのスルー力が毎分毎秒試される。そんな“一般的”な日々の中で、ももさんは自分が「死にたい」気持ちを抱えているなんて気付きもしなかった。ももさんにとって「死にたい」は、自分なんかが言ってはいけない言葉だった。
ある夏。月曜日の朝が来ることが耐えきれず、会社を休んだももさんは、SNSで繋がった“死にたい”気持ちを抱えながら生きる人=「パパゲーノ」たちを訪ねて旅に出る。彼らと出会い“死ぬ以外”の選択肢を知っていくももさん。しかし、あるパパゲーノの言葉をきっかけに、ももさんの心に再びざわめきが生まれー。
(2)企画の背景
ももさんが出会う「パパゲーノ」とは、「死にたい気持ちを抱えながら、その人なりの理由や考え方で“死ぬ以外”の選択をしている人」のことです。オーストリアのメディア研究では、こうした経験を持つ人のストーリーを伝えることが、自殺を思い留まる抑止力になることが示され、オペラ「魔笛」の登場人物に準(なぞら)え「パパゲーノ効果」と呼ばれています。
「もも」という名前は、NHKが運営するサイト「自殺と向き合う」に、日々寄せられる「死にたい」「生きるのがつらい」という投稿の中で、最も多く使われるニックネーム。本作では、主人公・ももさんの人物像や、ももさんが出会う「7人のパパゲーノ」たちの生きざまを、寄せられた投稿や、当事者の方々への取材を元に描きます。
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2.「パパゲーノ効果」と「ウエルテル効果」とは
(1)「パパゲーノ効果」
「パパゲーノ効果」(Papageno Effect)とは、マスメディアが人生相談や自殺を思い留まり成功した例を挙げることで大衆の自殺を抑制する効果のことです。
名前の由来はモーツァルト作曲のオペラ『魔笛』に登場する恋に身を焦がして自殺しようとしたものの、自殺するのをやめて生きることを選んだ鳥刺しの男パパゲーノに因みます。
パパゲーノは、信じた人と引き離され自殺しようとするものの、自分に似た片割れのような存在・パパゲーナとの出会いにより、生きることを選ぶキャラクターです。
特に、厳しい環境で自殺願望を持った個人が、その危機を乗り越える報道内容は、有意な自殺予防効果があるとされています。
2010年9月、オーストリア・ウィーン医科大学准教授のトーマス・ニーダークロテンターラー(Thomas Niederkrotenthaler)が同僚とともに、王立精神医学会の学術誌「英国精神医学ジャーナル」に論文を発表したのが最初だと言われています。
ニーダークロテンターラーらは、オーストリア国内の新聞報道における、逆境に立ったときの対処方法の紹介と自殺の減少に注目して、初めてこの現象に気がついたということです。
対極的な効果として「ウェルテル効果」がしばしば名前に挙げられます。
2012年1月4日のMedia Roles in Suicide Prevention: A Systematic Review(自殺予防におけるメディアの役割:系統的総説論文)では、「バイアス」がある可能性を示唆しながらも56の論文の多くでメディアの報道と自殺傾向が関連しているという考えを支持しています(1990年以前の4件の研究で関連性が低いとの報告がなされています)。
この中で、「ウェルテル効果」は多くの確認が取れているものの、「パパゲーノ効果」については研究例が少ない傾向にあるとしています。
「パパゲーノ効果」を確認した6件の研究では、マスメディアが自殺報道の品質や量に配慮を行った結果、保護効果が見られたとしています。
(2)「ウェルテル効果」
「ウェルテル効果」( Werther effect)とは、マスメディアの報道に影響されて自殺が増える事象のことです。これを実証した社会学者ディヴィッド・フィリップス(David P. Phillips)により命名されました。
2020年、新型コロナウィルスの感染拡大により、日本の自殺者数は10年ぶりに増加に転じました。そんな中で誰もが知る人気芸能人らの自殺も相次ぎましたが、マスメディアによる自殺報道が影響してさらなる自殺を呼ぶ「ウェルテル効果」があったと言っても過言ではない状況も発生してしまいました。
特に若年層が影響を受けやすいとされます。「ウェルテル」は、ゲーテ著の『若きウェルテルの悩み』(1774年)に由来します。本作の主人公、ウェルテルは最終的に自殺しますが、これに影響された若者達が、彼と同じ方法で自殺した事象を起源とします。なお、これが原因となり、いくつかの国でこの本は発禁処分となりました。
ただし、実在の人物のみならず、小説などによるフィクションの自殺も「ウェルテル効果」を起こすか否かについては諸説分かれています。
精神科医のジェローム・モット(Jerome A. Motto)は1967年、「自殺報道の影響で自殺が増える」という仮説を確かめるため、新聞のストライキがあった期間に自殺率が減少するかどうかを調べましたが、この仮説はデトロイトでしか証明されなかった上、調査手法における様々な問題点が指摘されました。
その後、社会学者のデイヴィッド・フィリップスが1974年 、ニューヨークタイムズの一面に掲載された自殺と、1947年から1967年までの全米の月間自殺統計を比較することで、報道の自殺率に対する影響を証明し、これを「ウェルテル効果」と名付けました。