<2024/1/30追記>今年11月の米大統領選挙でトランプ氏が当選ならウクライナは窮地に追い込まれる可能性が高い
アメリカは議会の反対もあり、ウクライナ支援追加の予算がついておらず、底をついたような状態です。もしトランプ氏が大統領になれば、「ウクライナ支援の完全打ち切り」が現実味を帯びてきます。
「多額の税金をどぶに捨てるような効果の期待できない支援」となれば、NATO諸国や日本もウクライナ支援を打ち切る可能性があります。
ただし、アメリカがNATO諸国や日本にウクライナ支援継続を押し付ける可能性もあります。
ウクライナでは、ゼレンスキー大統領との対立からザルジニー軍総司令官が解任される(解任が決定された?)との報道もあり、ウクライナが内部崩壊する可能性もあります。
2022年2月24日に始まった「ロシアによるウクライナ侵略」は、6ヵ月経っても終結の目途が立っていません。
戦争の霧の渦中にいると、どうやって前に進むべきか、道を見つけるのは大変です。外交の舞台裏から聞こえてくる騒音や、愛する人や家を失った人たちの感情、こうしたものに取り囲まれて、私たちは押しつぶされそうになります。
しかし、一歩引いて、ウクライナの紛争が今後どうなり得るかを考えてみるのは大切なことだと思います。各国の政府幹部や軍部の戦略担当はどのようなシナリオを検討しているのでしょうか?
自信をもって未来を予言できる人はほとんどいませんが、実現可能性のある展開(シナリオ)をいくつか並べて考えてみるのは有意義なことだと思います。
専門家からはいろいろなシナリオが提示されています。そこで今回は、専門家のシナリオをいくつかご紹介したいと思います。
1.ジェイムズ・ランデイル(BBC外交担当編集委員)の5つのシナリオ(2022/3/7付 BBCニュース/ジャパンより引用)
(1)シナリオ1:短期決戦
このシナリオでは、ロシアは軍事行動をエスカレートさせる。ウクライナ全土で無差別の砲撃が増える。これまでの作戦では目立たずにいたロシア空軍が、壊滅的な空爆を開始する。国の主要インフラを狙った大規模なサイバー攻撃が、ウクライナ全土に及ぶ。エネルギー供給と通信網が遮断される。市民の犠牲は数千人に達する。首都キーウ(キエフ)は果敢に抵抗するが、数日で陥落。政府はロシアの傀儡(かいらい)政権に取って代わられる。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は暗殺されるか、ウクライナ西部へ脱出。あるいは国外に逃亡し、亡命政権を樹立する。ウラジーミル・プーチン大統領は勝利を宣言し、一部の軍を撤退させるが、一定の支配力維持のための部隊を残す。数千、数万人の難民が引き続き、西へと脱出を続ける。ウクライナはベラルーシ同様、モスクワの従属国家となる。
このような結果は決してあり得なくはないが、こうなるには現状がいくつか変化する必要がある。ロシア軍の機能が改善し、効率的に戦う部隊が増派され、ウクライナのすさまじい闘争心が薄れなくてはならない。プーチン氏はウクライナで政権交代を実現し、ウクライナが西側諸国の一部になるのを阻止するかもしれない。しかし、ロシアが打ち立てる親ロシア派政府は、たとえどのようなものだろうと正統政府ではあり得ず、反乱の対象になりやすい。このシナリオがもたらす結果は不安定で、紛争再発の可能性は高い。
(2)シナリオ2:長期戦
それよりもこの戦争が長期化する方が、あり得る展開かもしれない。ロシア軍は、士気の低下、兵站(へいたん)の不備、無能な指導者のせいで、泥沼に陥る可能性がある。キーウの攻防は、道路単位で戦われる市街戦になるだろう。そのような都市をロシア軍が確保するには、上記のシナリオよりも時間がかかるかもしれない。そうなれば、長い包囲戦が続く。このシナリオは、1990年代にロシアがチェチェンの首都グロズヌイを制圧しようとして、長く残酷な苦戦を延々と続けた挙句、グロズヌイをほとんど壊滅させたことを連想させる。
たとえロシア軍がウクライナの複数都市をある程度掌握したとしても、支配し続けるのはおそらく大変だろう。ウクライナほど広大な国を制圧し続けるための部隊を、ロシアは派兵し続けられないかもしれない。対するウクライナ国防軍は、地元住民に支持され、戦意も十分な、効果的な反乱軍に姿を変える。西側諸国は武器と弾薬を提供し続ける。そして、もしかしたら何年もたった後、ロシア政府の首脳陣が交代した後、ロシア軍はやがてウクライナを去るのかもしれない。かつてソ連軍が1989年に、イスラム教徒の反乱軍と10年戦い続けた挙句にアフガニスタンを去った時のように。うなだれて、血まみれになって。
(3)シナリオ3:欧州戦争
この戦争がウクライナ国外にまで波及してしまう可能性はどうだろう。プーチン大統領は、北大西洋条約機構(NATO)非加盟の旧ソヴィエト連邦構成国、たとえばモルドヴァやジョージアなどに部隊を送り込み、かつての「帝国」を取り戻そうとするかもしれない。あるいは、ただ単に誤算とエスカレーションが起こるかもしれない。プーチン氏は、西側諸国がウクライナ軍へ武器供与するのは、侵略行為であり、反撃が正当化されると宣言するかもしれない。あるいは、ロシア沿岸の飛び地カリーニングラードとの陸上回廊を確立するため、リトアニアなどNATO加盟国のバルト三国に派兵すると、脅すかもしれない。
これは非常に危険な動きで、NATOと戦争に至る恐れがある。NATO条約第5条は、1つの加盟国への攻撃は全加盟国への攻撃に等しいと定めている。しかし、自分の地位を保つにはそれしか方法がないとプーチン氏が考えたなら、この危険を冒すかもしれない。ウクライナで敗北に直面した場合、プーチン氏はエスカレーションを選ぶかもしれない。プーチン氏が長年の国際規範に違反することもやぶさかではないことも、すでに分かっている。核兵器の使用についても、同じかもしれない。プーチン氏は2月末、核部隊に「特別警戒」態勢をとするよう命令した。ほとんどのアナリストは、だからといって実際に核兵器をおそらく使うというわけでも、間もなく使うというわけでもないと指摘する。しかし、戦場で戦術核を使用することが、ロシア政府には可能なのだと、あらためて確認された出来事だった。
(4)シナリオ4:外交的解決
それでもなお、ほかのすべてを置いてでも、外交的な解決はまだ可能なのだろうか。
アントニオ・グテーレス国連事務総長は、「今は銃が話をしているが、対話の道は常に開かれていなくてはならない」と述べた。確かに対話は続いている。フランスのエマニュエル・マクロン大統領はプーチン大統領と電話で話している。各国が外交ルートでたえずロシアに接触を試みていると、外交関係者は言う。加えて、ロシアとウクライナの両政府代表団はすでに2回、ベラルーシ国境沿いで交渉に臨んでいる。交渉による進展は今のところあまりないかもしれない。しかし、交渉に応じたというその一点だけからしても、プーチン氏は少なくとも交渉による停戦合意の可能性を受け入れているようだ。
重要なのは、外交官が言うところの「オフランプ」(アメリカで、高速道路の出口を意味する)を西側諸国が提供できるかどうかだ。西側の制裁解除には何が求められるか、プーチン氏が承知していることが大事だと、外交関係者たちは言う。プーチン氏の体面を保った形の、合意を達成するためにも。
例えば次のようなシナリオはどうだろう。ロシアにとってまずい戦況が続く。ロシアは制裁の打撃を実感し始める。戦死したロシア兵の遺体が次々と帰還するごとに、国内の反戦気運が高まる。自分はやりすぎたのだろうかと、プーチン氏が考えるようになる。戦争を終える屈辱よりも、戦争を続ける方が自分の立場が危ういと判断する。中国が介入し、ロシアが対立緩和へ動かなければロシアの石油と天然ガスはもう買わないと警告し、ロシアに譲歩を迫る。プーチン氏は出口を模索し始める。対するウクライナ当局は、自国の破壊が続く状況に、これほど多大な人命損失を続けるよりは、政治的妥協の方がましだと判断する。外交官たちの出番だ。停戦合意が結ばれる。たとえばウクライナは、クリミアとドンバスの一部に対するロシアの主権を受け入れる。その代わり、プーチン氏はウクライナの独立と、ウクライナが欧州との関係を強化する権利を認める。
これはありえない話かもしれない。しかし、血に塗られた紛争のがれきの中から、このようなシナリオが浮上する可能性も絶対にないとは言えない。
(5)シナリオ5:プーチン氏失脚
では、ウラジーミル・プーチン氏本人はどうなのだろう。侵攻を開始したとき、プーチン氏は「我々はあらゆる結果に備えている」と宣言した。
自分自身の失脚という展開にも備えているのだろうか? まったく考えられないことに思えるかもしれない。しかし、世界はここ数日で変わったし、そういう展開を考える人も増えている。英キングス・コレッジ・ロンドンの名誉教授(戦争研究)、サー・ローレンス・フリードマンはこう書いた。「キーウで政権交代が起きる可能性と同じくらい、モスクワで政権が変わる可能性も出てきた」。
フリードマン教授はなぜ、こう言うのだろう。たとえばこうだ。プーチン大統領が壊滅的な戦争に突き進んだせいで、何千人ものロシア兵が死ぬ。経済制裁が響き、プーチン氏は国民の支持を失う。市民が革命を起こす恐れが出てくるかもしれない。大統領は、国内治安部隊を使って反対勢力を弾圧する。しかし、それで事態はさらに悪化し、ロシアの軍部、政界、経済界から相当数の幹部やエリート層が、プーチン氏と対立するようになる。欧米は、プーチン氏が政権を去り、穏健な指導者に代われば、対ロ制裁の一部を解除し、正常な外交関係を回復する用意があると、態度を明示する。流血のクーデターが起こり、プーチン氏は失脚する。この展開もまた、現時点ではあり得ないことに思えるかもしれない。しかし、プーチン氏から利益を得てきた人たちが、もはやこのままでは自分たちの利益は守られないと思うようになれば、可能性ゼロの話ではないかもしれない。
(6)結論
以上のシナリオはそれぞれ、独立したものではない。それぞれのシナリオの一部が組み合わさり、別の結末に至るかもしれない。しかし、今のこの紛争が今後どういう展開になるとしても、世界はすでに変わった。かつて当たり前だった状態には戻らない。ロシアと諸外国との関係は、以前とは違うものになる。安全保障に対する欧州の態度は一変する。そして、国際規範に立脚する自由主義の国際秩序は、そもそも何のためにその秩序が存在するのか、再発見したばかりかもしれない。
2.防衛省防衛研究所戦史研究センター主任研究官の千々和泰明氏の3つのシナリオ(2022/3/32ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」より引用)
(1)シナリオ1:紛争原因の根本的解決による休戦
これはウクライナの完全属国化です。
(2)シナリオ2:ロシア軍の全面撤退による休戦
これはロシア側からすれば妥協的和平です。
(3)シナリオ3:紛争原因の根本的解決の条件緩和による休戦
第二次世界大戦中、1940年にドイツとフランスが休戦協定を結びました。このときフランスはドイツに屈服します。そしてパリを含む国土の5分の3をドイツに獲られ、残りの土地にも親ドイツ政権ができた。
この例のような1つ目のシナリオに近いイメージです。
3.英王立国際問題研究所の上級コンサルタント研究員キーア・ジャイルズ氏の3つのシナリオ(2022/4/6付けJBpressより引用)
(1)シナリオ1:プーチン政権が倒れるか否かにかかわらずロシアが崩壊し、ロシア軍がウクライナの領土から撤退
ウクライナ軍参謀本部によると、ロシア軍の戦死者は1万7800人。軍事的損失だけで258億ドル(約3兆1700億円)以上という試算もある。
(2)シナリオ2:ウクライナの崩壊
ジャイルズ氏は「ウクライナ軍の復元力がいつまで続くか内部関係者しか分からない」と言う。1940年、ソ連との冬戦争で国土の一部を失いながらも独立を守ったフィンランドのようにウクライナ軍も粘り強い抵抗を見せる。しかしいつまで耐えられるのか。ウクライナも譲歩を迫られる。
(3)シナリオ3:ウクライナが西側の支援を失い、ロシア軍の支配するクリミア半島や東部の領土をあきらめて戦争を幕引き
(4)シナリオ4:膠着状態のまま兵員や装備を注ぎ込んで何年も戦争を継続
双方とも支配地域を拡大できずに消耗戦に突入する。
(5)シナリオ5:機能しない停戦を西側が働きかけ
2008年のグルジア(現ジョージア)紛争、ロシア軍による15~16年のシリア軍事介入、14年の東部紛争のミンスク合意と同じように機能しない停戦を西側が働きかける。モスクワでつくられたロシアに有利な停戦案に署名するようウクライナに強いる。「全く機能せず、長続きしないことはみな承知している」(ジャイルズ氏)という。
(6)シナリオ6:ロシアが現状に合わせて一方的に勝利宣言
ロシアが現状に合わせて一方的に勝利宣言を行い、戦闘を終結する。現にプーチン氏はゼレンスキー政権を倒して傀儡政権をつくる作戦をあきらめ、東部や南部を解放する目標に縮小している。兵員や装備の甚大な損失は他の国と違ってロシアではそれほど問題にならない。第一次大戦や第二次大戦でロシア(ソ連)はそれぞれ約330万人、最大2700万人も犠牲を出している。
ジャイルズ氏が最もあり得ると分析するのは第六のシナリオです。
4.アメリカのシンクタンク「アトランティック・カウンシル」の6つのシナリオ(2022/6/24NHK「おうちで学ぼう!for School」より引用)
(1)シナリオ1:ウクライナは徐々に追い込まれていく
ロシアは、ウクライナ東部から、すでに併合している南部クリミアにつながる陸続きの地域の支配を強めていく。
そして、南部の港湾都市オデーサを壊滅させるか封鎖することで、ウクライナを海に面することのない内陸に封じ込める。
プーチン大統領は、ウクライナ全土でインフラ施設への攻撃を続け、南部と東部の一部を併合するとともに、ロシア国内においては、反戦などの世論を抑えて一方的に勝利宣言をする。
プーチン大統領は、来年の早い時期に停戦を呼びかけるものの、和平に向けて合意する用意はない。
プーチン大統領は、モルドバにつながる地域など、将来的にはより広い範囲の土地を得たいと望んでいる。
来年になっても、NATOの加盟国は、領土を取り戻そうとするウクライナへの軍事支援を続ける。
しかし、来年の後半までには、経済的な負担や難民への対応、それに核攻撃のリスクを含めた緊迫の高まりへの懸念から、欧米側の合意や結束にほころびが生じ、このうち、ドイツとフランスが中心となって和平に向けた交渉を働きかけることになる。
(2)シナリオ2:ロシアは戦果を得ることができない
東部ドンバス地域などで反撃が成功するなど、ウクライナ軍の戦術によって、ロシア軍は、来年の初めまでに軍事侵攻を開始した2月24日以前の支配地域にまで押し戻される。
しかし、ロシア側の強固な守りに阻まれ、ウクライナ側がさらに前進することまでは難しい。
プーチン大統領は、経済の崩壊などに対する国民の不満の高まりに直面し、ウクライナとの和平合意の締結に向けた圧力にさらされる。
来年初めごろから、世界的な経済危機を理由に、トルコ、カタール、インドが調停者として停戦を強く求める。
一方、ヨーロッパの指導者も外交的な枠組みを求め始めるようになる。
フランスのマクロン大統領は、解決策を見いだすため、中国の習近平国家主席とともに協議を呼びかける。
協議の枠組みは、ウクライナをはじめ、ロシアを含む国連安全保障理事会の常任理事国5か国に、ドイツを加えたもの。
中国は、プーチン大統領の計画を損なうようなことはしたくないが、経済上の理由からもほかに選択の余地はない。
(3)シナリオ3:ウクライナがほぼすべてを取り戻す
ウクライナへの欧米の軍事支援が、大幅に増加するのに対して、ロシア軍は、兵士たちの士気が失せるとともに制裁によって軍の装備品などが補給できなくなることで、クリミアを除いてウクライナからの完全な撤退を余儀なくされる。
これによって、ウクライナは、クリミア奪還に向けた準備を始める。
欧米の軍事支援を止めるため、ロシアによる核を使った報復のリスクが高まる。
そして、ウクライナが攻撃を開始し、フランスと中国による仲介が失敗することで、第3次世界大戦の可能性が一気に高まることになる。
プーチン氏は、再選を目指す大統領選挙の1年前にあたる来年半ばごろ、国民の怒りによって権力を維持することが脅かされることになる。
隣に「巨大な北朝鮮」が現れることを恐れるヨーロッパは、ロシアがエネルギー収入などで得た一部を賠償金としてウクライナの復興基金に充てる見返りとして制裁緩和のための模索を始める。
これらのシナリオを発表した「アトランティック・カウンシル」は、次に戦場で何が起きるかによって現在、こう着状態にある戦闘が最終的にロシアとウクライナのどちらに有利になるのかが決まるとしています。