熟語の読み方・どちらが正しいか(その4)判官・代替・寄贈・逆手・登坂

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判官贔屓

皆さんは熟語の読み方で、二つの読み方が行われていて、どちらが正しいのか、あるいはどちらも正しいのか迷ったことはありませんか?

前に「熟語の読み方・どちらが正しいか(その1)早急・施行・依存・世論・面目」「熟語の読み方・どちらが正しいか(その2)御用達・発足・博士・幕間・大地震」「熟語の読み方・どちらが正しいか(その3)大安・大舞台・古文書・手数・木の実」という記事を書きましたが、まだまだありますので、今回も引き続きいくつか具体例をあげて解説したいと思います。

1.判官

「はんがん」と「ほうがん」の二つの読み方が行われていますが、どちらも正しい読み方です。ただし、場合により使い分けが必要になります。

「判官」は、武士の役職・官名のほか裁判官の古い言い方ともされ、「はんがん」「ほうがん」両方の読みがあります。歌舞伎や浄瑠璃に登場する「~判官」の読みは以下の通りです。

(1)「はんがん」と読む場合

①『仮名手本忠臣蔵』の「塩谷判官(えんやはんがん)」

②『小栗判官車街道』、『オグリ』の「小栗判官(おぐりはんがん)」

(2)「ほうがん」と読む場合

① 『勧進帳』などの源「九郎判官(ろうほうがん)」義経

源義経を「判官(ほうがん)」というのは、義経が検非違使(けびいし)の「尉(じょう)」という職位にあり、「尉」の別称が「判官(ほうがん)」だったためとされています。

②「判官贔屓(ほうがんびいき)」

「判官贔屓(ほうがんびいき)」という言葉も、兄頼朝に冷たく扱われる悲運・薄命の武将義経への愛惜や同情・肩入れの気持ちを表し、転じて「弱者に対する第三者の同情や贔屓(ひいき)」(広辞苑)を意味するようになりました。また、浄瑠璃や歌舞伎で、義経に関する物語や伝説をもとにした作品を「判官物(ほうがんもの)」と言います。

ただ最近は、「はんがんびいき」と読む人も多くなっています。

2.代替

「だいたい」と「だいがえ」の二つの読み方が行われていますが、本来の正しい読み方は「だいたい」です。

「代替」という言葉は、法律上は「代替物(だいたいぶつ)」という形で古くから用いられています。取引の上で同種・同等・同量のものをもって代えることです。一般に芸術作品などは一つ一つに個性があり、他をもって代えることができませんが、商品相場の対象となる商品などは、同種・同等・同量のものをもって売買・貸借の対象とすることが行われています。

この「代替」という言葉が一般化したのは、戦中戦後の配給に際して盛んに用いられた「代替配給」という言葉によるようです。これは、主食の米が配給できなくなり、麦や豆やトウモロコシを米の代わりに配給する際に用いられました。

この場合は「同種・同等・同量のもの」ではないので、本来の意味での「代替」とはやや異なる用い方ですが、要するに「代用品の配給」でした。

問題は、その時の読み方ですが、本来の正しい読み方の「だいたい」と同時に「だいがえ」という重箱読みも行われるようになりました。

その理由は、「替」を含む言葉で「たい」と読むのは、交替・替廃・替壊・衰替・隆替などがありますが、「交替」以外は日常的に使いませんし、交替も「交代」を多く使います。

これに対して、「替」を字訓で「かえ」と読む言葉は、両替・席替え・模様替え・畳替え・表替え・宿替え・鞍替え・国替えなどたくさんあります。

そこで、「だいがえ」の方が耳で聞いても「かわり」という意味に理解しやすいため、一般化したようです。

3.寄贈

「きそう」と「きぞう」の二つの読み方が行われていますが、どちらも正しい読み方です。

「贈」を含む言葉は、贈与・遺贈・贈答・贈呈・贈賄などたくさんありますが、寄贈(きそう)のように「贈」を呉音の「ぞう」ではなく、漢音の「そう」と読む言葉は、寄贈の他には「恵贈(けいそう)」ぐらいしか見当たりません。

4.逆手

「さかて」と「ぎゃくて」の二つの読み方が行われていますが、どちらも正しい読み方です。ただし、場合により使い分けが必要になります。

「逆」を「さか」と読んで字訓を用いる語と複合した言葉には次のようなものがあります。

逆恨み・逆落とし・逆立ち・逆巻く・逆毛・逆子・逆様・逆波・逆夢など

一方「「逆」を「ぎゃく」と読む言葉には次のようなものがあります。

逆襲・逆上・逆数・逆説・逆転・逆風・大逆・反逆(叛逆)・順逆など

「逆手」の読みには、「逆」を音読みにする「ぎゃくて」と、訓読みにする「さかて」があります。このうち、「相手の出方を逆手に取る」などのように、比喩的な使い方をする場合は「ぎゃくて」と読むのが従来の一般的な読み方で、辞書類の多くも「ぎゃくて」の読みを採っています。

しかし、NHKが平成2年(1990年)3月に首都圏在住の16歳以上の人たちを対象に行った調査では、「相手の出方を逆手に取る」を「さかて」と読むと答えた人が7割以上に達し、その後の調査でも「さかて」と読む人が増える傾向にあります。

このため、「逆手」の読みについて、NHKの放送では次のようにしています。

・「相手の出方を逆手に取る」の優先順位

①ぎゃくて②さかて

・このほかの「逆手」の使い分け

(1)柔道などの場合「逆手を取る」・・・ぎゃくて
(2)短刀・刀を「逆手に握る・持つ」・・・さかて
(3)体操の鉄棒の「逆手車輪」・・・さかて

5.登坂

高速道路を走っていると、上り坂でトラックなどの低速車用に「登坂車線」という表示が出てきますね。

この「登坂」には、「とうはん」と「とはん」の二つの読み方が行われていますが、どちらも正しい読み方です。もちろん、「登り坂」と送り仮名を付ければ「のぼりざか」です。

余談ですが、「お昼のNHKニュース」を担当していて急に白髪になり話題になった元NHKアナウンサー登坂淳一氏の苗字は「とさか」と読みます。急に白髪になったのは「白髪染めを中止したから」でした。

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