「発音は同じだが、互いに区別される語」である「同音異義語」(英語では「homophone(ホモフォン)」と言います)は、「いどう」(移動・異動・異同・医道など)、「かんし」(監視、看視、環視、冠詞、諫止、漢詩、菅氏など)、「きかん」(期間、機関、器官、気管、帰還、基幹、季刊など)のように日本語にはたくさんあります。
しかしこれらはそれぞれ全く意味が異なる言葉なので、使い方に迷うことはありません。
一方、「発音が同じで、意味もよく似た語」である「同音類義語」については、使い分けに悩むことも多いのではないでしょうか?
1.事典と辞典と字典
(1)事典
「事典」とは、さまざまな事柄や物事を説明した書物を指す言葉です。「じてん」と読むのが一般的ですが、「ことてん」と呼ぶ場合もあります。これは、「辞典」などと区別するためです。英語の「Encyclopedia」(百科事典)にあたります。
事典の「事」は、事物のことを表しており、「典」は書物の意味があります。すなわち、事物の名前や用語などを発音順に並べ、1つの項目ごとにそれぞれの内容を説明したものが、事典になります。
具体的な例としては、「百科事典」や「人名事典」といったものが挙げられます。典型的な例である「百科事典」では、世の中に存在するあらゆる事象や事物が科目別に網羅されており、それについての解説が書かれています。こうした対象分野の幅広さは、「辞典」などとの大きな違いとなっています。
(2)辞典
「辞典」とは、主に言葉についての解説を述べた書物のことです。英語の「dictionary」にあたります。事典と区別するために、「ことばてん」などと呼ばれることもあります。辞典の「辞」には、「ことば」という意味があります。
辞典と事典の違いは、前述のように対象とされる分野にあります。事典が上記のように、幅広いものごとの意味や内容を解説しているのに対し、辞典は言葉の意味や使い方、発音等を解説するのが、主な目的となっています。
具体的には、「国語辞典」や「英和辞典」「古語辞典」といったものがこれにあたります。すなわち、日本語や英語の単語、連語などを一定の基準に基づいて配列し、1つ1つの項目について意味や品詞名、発音の仕方、用例などを記したものを、辞典と呼びます。
蛇足ながら、「辞典」とよく似た言葉に「辞書」があります。
「辞書」とは、さまざまな言葉について解説した本になります。単語や連語、成句など多数の語を集め、それをある基準によって順番に並べて、1つずつ意味や品詞などについて説明したものです。
例えば国語辞書においては、日本語で使われる単語や連語を1つずつ五十音順に並べ、それについて意味や仮名遣い・漢字表記、アクセント、品詞、用法や類義語、対義語といったものが記載されています。
この説明からもわかるように、辞書と辞典には違いがありません。実際に、両者は同じものとして説明されるのが一般的です。「書」と「典」の表記が異なるだけですが、前述のように「典」には書物という意味があるため、両者は実質的に同じものと言えます。
(3)字典
「字典」は、主に文字についての解説を記した書物になります。「字書」とも言われ、他と区別するために、「もじてん」などと呼ばれることもあります。例としては、「かな字典」「書体字典」などが挙げられます。
例えば「漢字字典」の場合は、漢字の読み方や意味、どういった構成で作られているかが解説されています。部首名や画数といったものから、音読み・訓読みのしかた、書き順、漢字の成り立ちに至るまで書かれています。
このように、単語や連語ではなく文字に焦点を当て、それについて詳細に解説しているという点に、「辞典」との違いがあります。
2.製作と制作
(1)製作
「製作」は「ものを作る」「作ったもの」という意味です。「何か道具や機械などを使って製品などの実用性のあるものなどを作ること」が製作です。製品などを作る場所のことを、「製作所」と呼びます。「製品」「製造」など、「製」を使ったものを作る工程を「製作」と覚えておくといいでしょう。
英語で表現すると機械などを使って大規模に製造するという意味を持つ「manufacture」となり、作るものによっては「production」や「making」などが用いられることもあります。
また「製」という漢字は、「つくる・仕立てる・こしらえる」という意味があり、製作のために使う道具や機械は大きなものではなく、大量生産しないものを作る場合にも「製作」を使います。図工で使うようなハサミやのり・テープなどを使って何かを作ることも、「製作」にあたります。
(2)制作
「制作」は「美術品などのアート作品や、映画・音楽などを作ること」という意味があります。制作の「制」にも、「製」と同様に「つくる・したてる・作り上げる」という意味がありますが、「製作」との違いは、「制作」は美術品・テレビ番組・映画・音楽など、版権がからむような「創作活動としての要素があるもの」を作るときに使うことです。
制作を意味する英語の表現は、制作するものによって「production」「creation」などを使い、映画などはproduce、アート作品などはcreateになります。
3.更生と更正
(1)更生
「更生」の意味は、主に3つあります。
1つは「生き返ること」というもので、「蘇生」と同じ意味合いになります。この場合は、「休耕田を更生させる」のように使われます。
2つ目は、「好ましくない状態から正常な状態に立ち直ること」というもので、社会的、精神的、物質的に通常の状態へ立ち返ることを指します。この場合は、「更生してギャンブルを断った」「薬物依存を断つため、自ら更生施設に入った」のように使われます。
3つ目は、「一度役に立たなくなった品物を、再度使えるようにすること」という意味合いで、「更生紙」「廃品を更生する」のように使われます。
「更生」の「更」は、「古いものを新しくする」「あらためる」という意味を持ちます。「生」はこの場合、「いかす」や「活用する」を意味しています。
(2)更正
「更正」とは、「誤りや不備を正しいものに改める(間違いを直す)こと」です。正しくないものや、望ましくないものの内容を改めて直すことを言います。「登記事項の誤りについて更正する」のように使われます。
「更正」はまた、申告納税制度において納税義務者が申告した所得額等の内容が正しくない場合、税務署長が調査によってその課税額を変更することも指します。
「追加更正予算」というのもあります。これは 、予算案が審議·確定された後、執行途中に新たな要因により予算を増額または減額、削除、追加するために提出されるものです。現在は「補正予算」という呼び方に変わっています。
このように、「更正」と「更生」は同じような字が使われていますが、意味合いには違いがあります。「更生」が前述のように、「生き返ること」「立ち直ること」を指すのに対し、「更正」は「誤りを改めること」を指すようになっています。
使い分ける際は、「生(いかす)」と「正(ただす)」の意味の違いを意識しておくとよいでしょう。