ドイツ語由来の「外来語」(その1:ア行)アルバイト・アイゼン・アウトバーン・アスピリン・アレルギー他

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アルバイト

古来日本人は、中国から「漢語」を輸入して日本語化したのをはじめ、室町時代から江戸時代にかけてはポルトガル語やオランダ語由来の「外来語」がたくさん出来ました。

幕末から明治維新にかけては、鉄道用語はイギリス英語、医学用語はドイツ語、芸術・料理・服飾用語はフランス語由来の「外来語」がたくさん使われるようになりました。

日本語に翻訳した「和製漢語」も多く作られましたが、そのまま日本語として定着した言葉もあります。たとえば「科学」「郵便」「自由」「観念」「福祉」「革命」「意識」「右翼」「運動」「階級」「共産主義」「共和」「左翼」「失恋」「進化」「接吻」「唯物論」「人民」などです。

ドイツ語由来の外来語(ドイツ語から日本語への借用語)は、江戸時代は蘭学を通して、明治時代は欧米列強の近代的な技術を取り入れる過程で日本へ伝わり、日本語として定着しました。日本語になった単語の分野は、法学、医学、化学、物理学から、音楽、登山、スキーまで多岐にわたります。

そこで今回は、日本語として定着した(日本語になった)ドイツ語由来の「外来語」(その1:ア行)をご紹介します。

1.アルバイト(Arbeit

「アルバイト」は、「労働」「仕事」を意味するドイツ語: Arbeit に由来する外来語ですが、すっかり日本語として定着しています。

日本や韓国において「アルバイト」とは、期間の定めのある労働契約(有期労働契約)に基づき、企業・公的機関などにより雇用される従業員または労働者を指す俗称です。

略称として「バイト」とも呼ばれるほか、アルバイト形態で働く人を指す和製造語として「アルバイター」「フリーアルバイター(フリーター)」が派生しました。

非正規雇用の雇用形態の一種とされていますが、正規雇用(期間の定めのない労働契約)としてのアルバイト社員とする企業もあります。

2.アイゼン(eisen

「アイゼン」は、氷や氷化した雪の上を歩く際に滑り止めとして靴底に装着する、金属製の爪が付いた登山用具です。

ドイツ語のシュタイクアイゼン (Steigeisen) に由来します。「(動詞)登る=steigen」と「鉄=eisen」から成る語であり、単に「アイゼン」でこの道具を指すのは和製語です。

日本では他に、英語・フランス語によるクランポン ( Crampons ) という呼称も使われます。クリート(Cleat (shoe))または、アイスクリート(Ice cleat)とも呼ばれます。

3.アインザッツグルッペン(Einsatzgruppen)

「アインザッツグルッペン」は、ドイツの保安警察 (SiPo) と保安局 (SD) がドイツ国防軍の前線の後方で「敵性分子」(特にユダヤ人)を銃殺するために組織した部隊です。

「アインザッツ(Einsatz)」は、「賭け」や「(労働力などの)投入」「出動」という意味で、「グルッペン(gruppen)」は、「集団」という意味の「グルッペ(gruppe)」の複数形です。

「アインザッツグルッペン」は複数表記で、単数形は「アインザッツグルッペ」(Einsatzgruppe)となり、直訳すると「展開集団」です。

正式名称は「保安警察及び保安局のアインザッツグルッペン」(Einsatzgruppen der Sicherheitspolizei und des Sicherheitsdienstes)と言います。

意訳で「特別行動部隊」「特別任務部隊」という表記もよく見られます。それ以外には「移動虐殺(もしくは殺人・抹殺・殺戮)部隊」といった意訳も見られます。

ナチス党政権下のドイツの保安警察及びSD長官(のち国家保安本部(RSHA)長官)ラインハルト・ハイドリヒにより創設された。アンシュルス(オーストリア併合)、ズデーテンラント併合、チェコの保護領下(ベーメン・メーレン保護領)、ポーランド侵攻、独ソ戦とドイツが東部へ領土を拡大するたびに保安警察、もしくは国家保安本部により組織されました。

ポーランド侵攻以前の「アインザッツグルッペン」の銃殺活動は主に知識人・聖職者・政治家など指導層を対象としました。

対して独ソ戦における「アインザッツグルッペン」は、ユダヤ人やロマ、共産党幹部などを対象に銃殺を行いました。

都市が陥落すると「アインザッツグルッペン」はその都市の「敵性分子」を集め、森や野原に追いたて、そこで銃殺して遺体を壕に埋めました。銃殺だけではなく、ガス・トラックによる虐殺も行われました。「アインザッツグルッペン」は1943年に解散されました。

4.アウスグライヒ(Ausgleich

「アウスグライヒ」は、ドイツ語で「和協」「妥協」という意味です。

歴史的には、オーストリア帝国において1867年に実施された協定ないし一連の政策を指します。( Österreichisch-Ungarischer Ausgleich)

それまで名目上はハプスブルク家が一元的に支配してきた「ハプスブルク君主国」をオーストリア帝冠領(ツィスライタニエン)とハンガリー王冠領(トランスライタニエン)に二分し、それぞれの領域を別々の政府が統治することが定められました。

一方でオーストリア皇帝はハンガリー国王を兼ねる存在(同君連合)とされ、軍事・財政・外交面は依然として皇帝が直轄しました。

この結果成立した新体制を「オーストリア=ハンガリー帝国」または「二重帝国」と呼びます。

5.アウトバーン(Autobahn

「アウトバーン」は、ドイツの高速自動車国道です。

「アウトバーン」は直訳すると「自動車の走る道」です。「アウト」は(英語の「オート」に相当する)自動車を意味し、「バーン」は人や馬も歩くような道ではない「専用路」といったニュアンスを持ちます。

1933年9月にアドルフ・ヒトラーが産業・軍事上の目的と失業対策を兼ねて企画、土木技師 F.トートを道路総監として自動車国道営団に工事と道路経営を命じ起工したのが始りで、当初は「ライヒスアウトバーン」と称しました。

「自動車専用道路」を全国的な幹線交通網として整備する構想は世界的にも先駆的な試みで、大規模な計画・設計・工事方法など世界道路史上画期的なものであり、陸上交通の中心が自動車に移り、高速道路の代表として世界の注目を集めました。

「速度無制限道路」として有名ですが、無制限区域は全区域ではなく、制限のある区域も存在します。

6.アスピリン(Aspirin

「アスピリン」は、アセチルサリチル酸( acetylsalicylic acid)のことです。代表的な解熱鎮痛剤のひとつで非ステロイド性抗炎症薬の代名詞とも言うべき医薬品です。

「アスピリン」というのは、ドイツのバイエルが名付けた商標名ですが、日本薬局方ではアスピリンが正式名称になっています。

消炎・解熱・鎮痛作用や抗血小板作用を持ちます。サリチル酸を無水酢酸によりアセチル化して得られます。

7.アーベントロート(Abendrot)

「アーベントロート」は、夕焼けが山肌に反射して山が赤く見える現象のことで、ドイツ語のabend(夕方)とrot(赤)を掛け合わせた言葉です。

年間を通じ見られますが、よりきれいな赤色に染まるのは、秋から冬の期間です。

8.アレルギー(Allergie

「アレルギー」とは、免疫反応が特定の抗原に対して過剰に起こることです。免疫反応は、外来の異物(抗原)を排除するために働く、生体にとって不可欠な生理機能です。

語源はギリシア語の allos(変わる)と ergon(力、反応)を組み合わせた造語で、疫を免れるはずの免疫反応が有害な反応に変わるという意味です。

9.アンシュルス(Anschluß

「アンシュルス」とは、1938年3月12日にナチス・ドイツがオーストリアを併合した出来事(Der Anschluss Österreichs an das Deutsche Reich)を指す言葉です。

日本語では「独墺合邦(どくおうがっぽう)」、「オーストリア併合」等と訳されます。

本来の「アンシュルス」「Anschluß(1996年ドイツ語正書法改革以降の表記:Anschluss)」は「接続・連結」を意味するドイツ語の普通名詞でしたが、ナチスの言語の影響から固有名詞化したドイツ語や他の言語においては1938年のドイツによるオーストリア併合を指すようになりました。

ドイツとオーストリアを合邦する政治構想は、第一次世界大戦敗北にともなうオーストリア=ハンガリー帝国の崩壊直後から登場していました。しかし、周辺諸国からの圧力によって1920年代には合邦構想が進展せず、1930年代にナチス党が実施した対外・対内政策の結果として実現しました。

そのため、第二次世界大戦が勃発するとアンシュルスの政治的正統性は連合国から否定され、連合国軍のオーストリア占領と共にアンシュルスは終焉を迎えました。

10.アンチテーゼ(Antithese)・テーゼ(these)・ジンテーゼ(Synthese)

「アンチテーゼ」とは、ある理論・主張を否定するために提出される反対の理論・主張のことです。

弁証法のもっとも単純な説明は、「テーゼ」(命題、定立)、「アンチテーゼ」(反対命題、反定立)、「ジンテーゼ」(統合命題)です。たとえば、「地獄」は「天国」のアンチテーゼ、「無秩序」は「秩序」のアンチテーゼです。

「弁証法」とは、哲学の用語で、現代において使用される場合、ヘーゲルによって定式化された弁証法、及びそれを継承しているマルクスの弁証法を意味することがほとんどです。

ヘーゲルの弁証法(*)を構成するものは、ある命題(テーゼ=正)と、それと矛盾する、もしくはそれを否定する反対の命題(アンチテーゼ=反対命題)、そして、それらを本質的に統合した命題(ジンテーゼ=合)の3つです。

(*)ヘーゲルの弁証法を要約すると次の通りです。

全てのものは己のうちに矛盾を含んでおり、それによって必然的に己と対立するものを生み出す。生み出したものと生み出されたものは互いに対立しあうが(ここに優劣関係はない)、同時にまさにその対立によって互いに結びついている(相互媒介)。最後には二つがアウフヘーベン(aufheben, 止揚,揚棄)される。このアウフヘーベンは「否定の否定」であり、一見すると単なる二重否定すなわち肯定=正のようである。しかしアウフヘーベンにおいては、正のみならず、正に対立していた反もまた統合されて保存されている。ドイツ語のアウフヘーベンは「捨てる」(否定する)と「持ち上げる」(高める)という、互いに相反する二つの意味を持ち合わせている。

11.アンチモン(Antimon

「アンチモン」(安質母)は原子番号51の元素です。元素記号は Sb。常温・常圧で安定なのは灰色アンチモンで、銀白色の金属光沢のある硬くて脆い半金属の固体です。炎色反応は淡青色(淡紫色)です。レアメタルの一種。

なお、日本語で「アンチモニー」と呼ばれる場合、この元素(英語名)を指す場合と、この元素を含む合金の一種を指す場合があります。

12.イデオロギー(Ideologie

「イデオロギー」は、「観念形態」「思想形態」とも呼ばれ、通常は政治や宗教における観念を指しており、政治的意味や宗教的意味が含まれています。

社会集団や社会的立場(国家・階級・党派・性別など)において思想・行動や生活の仕方を根底的に制約している観念・信条の体系。歴史的・社会的立場を反映した思想・意識の体系。

13.ウィンナー(Wiener

ウィンナー(ウィンナ)は、「ウィーン(オーストリアの首都)の」という意味の形容詞です。

  • ウィンナー・ソーセージ :ソーセージの一種。
  • ウィンナ・コーヒー : コーヒーの上にホイップクリームを浮かべた飲み物。
  • ウィンナ・ワルツ :19世紀のウィーンで流行し広まったクラシック音楽の1スタイル。

14.ウラン(Uran

「ウラン」とは、原子番号92の元素です。元素記号は U。ウラニウムとも言います。

15.エネルギー(Energie

物理学において「エネルギー」とは、仕事をすることのできる能力のことです。物体や系が持っている仕事をする能力の総称です。エネルギーのSI単位は、ジュール(記号:J)です。

語源を遡るとギリシャ語のergon(仕事)に由来します。イギリスの物理学者トマス・ヤングがラテン語のvis(力)の代わりの語としてenergeia(エネルギー)という言葉を提案したことが発端です。

16.エーデルワイス(Edelweiß)

「エーデルワイス」は、アルプス山脈などに分布する高山植物で、オーストリアやスイスでは国花に指定されています。ドイツ語で「高貴な白」という意味です。edel(エーデル)は「高貴な」、weiß(ワイス)は「白」のことです。

ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』でも同名の曲が出てくることで有名ですね。

17.オブラート(Oblate)

「オブラート」はドイツ語のOblateやオランダ語のOblaatに由来します。

本来「オブラート」は、キリスト教の「聖体(特殊なパン)」(丸い小型のウエハースに似た聖餅。硬質オブラート) のことを意味し、日本ではデンプンから作られる水に溶けやすい可食フィルム(軟質オブラート)のこと指します。「オブラートに包む」という表現は苦い粉薬をオブラートで包むことによって、苦みを和らげることに由来しています。

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