子供の頃は、雷が鳴ると「おへそを取られるぞ」などと親から言われて、蚊帳の中に逃げ込んだものです。稲光がしてからゴロゴロという雷鳴までの間隔が最初は長いのですが、やがて稲光がしたかと思うとすぐにドカンというメガトン爆弾のような轟音がしてすぐ近くに雷が落ちて恐ろしくなった記憶があります。
私の家の近所の果物屋の主人が、雷雨の中スイカを配達に行く途中で、雷に撃たれて亡くなったこともありました。
ところで皆さんんは「雷はなぜ起こるのか?ゴロゴロ鳴り、稲妻がジグザグの形になるのはなぜか?」と考えたことはありませんか?
この問題に限らず、小学生の頃は誰しも「なぜだろう」と疑問を持つことが多かったと思います。
しかし中学・高校と進み大人になるにつれて、勉強や仕事が忙しくなって、そのようなことを忘れてしまいます。
そこで今回は、雷が起こる原理とゴロゴロ鳴る理由や稲妻(雷光)がジグザグの形になる理由についてわかりやすくご紹介したいと思います。
1.雷が起こる原理
雷の正体は、積乱雲(入道雲)の中で発生した電気です。ふつう、浮かんでいるいる空気は電気を通さないのですが、雲の中にとどめておけないほど大量の電気が溜まると、空気中を電気が通って地表まで届くのです。このように、雲から地表へ電気を逃がす(放電する)現象を「落雷」と呼びます。
では、なぜ、雲の中で電気が発生するのでしょうか?その電気は、どのように空気中を伝わって地面まで届くのでしょうか?
雲の中で電気が作られるところから、順を追ってみてみましょう。
(1)雲の中で電気が発生して「+」(プラス)と「−」(マイナス)に分かれる
雲は、小さな水滴(雲つぶ)や氷の粒(氷晶)で出来ています。雲が発達して積乱雲になると、氷晶が増えて空気といっしょに上下に激しく動き、氷晶どうしがぶつかり合って電気を帯びます。これを「電荷」といいます。
電気が溜まってくると、雲の高い方から「+」「−」「+」の「三極構造」ができます。すると、雲の中では、この電荷の偏りをなくそうとして、真ん中の層の「−」の電荷が下の方へ移動し、「+」の電気をなくしていきます(「中和」)。その後、「−」の電荷はさらに下へ、つまり地表へ向かいます。
(2)電荷の通り道を探す「ステップトリーダー」ができる
空気は電気を通しにくい性質のため、電気は一気に進むのではなく、進んでは止まり、また進んでは止まり、という動きをを繰り返し、通りやすい道を探しながら進んでいきます。これを「ステップトリーダー(stepped leader)」(段階型前駆放電)と呼びます。
「ステップトリーダー」は、約50m進むと30マイクロ秒~90マイクロ秒(0.00003~0.00009秒)止まり、また進みます。平均の速度は150km/秒ほどなので、雲の高さが地上から約3,000mのとき、「ステップトリーダー」が地上へ接近するのにかかる時間は約0.02秒です。
(3)電荷の“行ったり来たり”で、雲の中を中和していく
「ステップトリーダー」が地表近くまで届くと、「ステップトリーダー」の先端と地表からの放電がつながり、地上から雲へ向かってプラスの電気が一気に流れる「リターンストローク(return stroke)」(帰還雷撃)が起きます。この「ステップトリーダー」と「リターンストローク」のセットが、1つの落雷。電気の通り道の発光が「雷光(稲妻)」、雷の熱による空気の振動が「雷鳴」です。
ただし、「ステップトリーダー」と「リターンストローク」の“行ったり来たり”が1回起きただけでは、雲の中の電荷を中和しきれない場合があります。このときは、雲から地上へ向かって再び放電が始まります。
この2回目の放電では、すでに電気の通り道ができているため、「−」の電気は一気に地表へ向かいます。これを「ダートリーダー(dart leader)」(矢形前駆放電)といいます。「ダートリーダー」が地表にたどり着くと、また「リターンストローク」が起きます。落雷1回の時間は0.5秒~1秒ほどですが、電気の“行ったり来たり”は平均で3~4回、多いときは10回以上も起きています。
2.雷がゴロゴロ鳴る理由
雲は、「雲つぶ」という水滴や「氷晶」という氷の結晶でできています。雲にはいろいろな形のものがありますが、その中で「雷雲」ともよばれる「積乱雲」は、氷晶がたくさんある雲です。
雷雲の中では、氷晶が空気と一緒に上へ下へと激しく動いているので、あちこちでぶつかり合って静電気が発生し、たくさんの電気が溜まります。ふつう、我々の周りの空気は電気を通さないのですが、このように大きな電気が溜まると、空気中を電流が流れることがあります。それが雷です。
普通は電気が流れない空気中を無理やりに電気が通ると、通り道になった空気は急に熱くなって爆発するように激しく膨張します。その衝撃が周りの空気に伝わって激しく振動させ、「ゴロゴロ」「バリバリ」「ドーン」といった音が鳴るのです。
ところで、雷がピカッと光ってからすぐにゴロゴロと聞こえたとき、誰かが「近くに落ちたな」と言うのを聞いたことはありませんか? 確かに、光ってすぐに鳴った音は大きいのに、何秒かたってから鳴った音はやや小さく、遠くで聞こえる気がします。
これは、光が空気中を進む速さが、音の速さに比べてかなり速いためです。光の速度は1秒間当たり30万kmで、音の速度は1秒当たり340m。光ってから音が聞こえるまでの秒数に340をかければ、雷が落ちた場所まで何mくらいかを計算できます。
3.稲妻(雷光)がジグザグの形になる理由
「かみなり」と一口に言っても、光だけの「雷光(稲妻)」と、ゴロゴロという音だけの「雷鳴」、光と音が観測される「雷電」があります。このうち雷鳴は、電気の熱によって空気がふるえて起きる現象です。
では、雷光や雷電の光は、どのようなしくみで発生するのでしょうか?
よく知られているように、雷の正体は電気です。積乱雲の中で氷晶どうしがぶつかって静電気が発生して、雲の中にとどめておける限界まで電気が溜まると、地表などへ電気を逃がします。この現象を「放電」と呼びます。
放電は約0.001~1秒と短時間ですが、3000~20万A(アンペア)・約1億V(ボルト)という大きなエネルギーが加わり、電気の通り道の周りでは、空気の温度が約3万℃に達します。これは、太陽の表面温度の約5倍というたいへんな高温です。
ほとんどの物質は、500℃を超えるとくすんだ赤色に光りはじめ、温度が高くなるにつれて明るくなり、1,300℃を超えると赤色から白色へ、その後は青色へと変化する性質を持ちます。
このように、高温になると色や明るさが変化するのは、空気も同じ。約3万℃になった放電路の周りの空気は、青白くまぶしい光を発するのです。
雷が光るのは一瞬なのでじっくり観察する機会はあまりないかもしれませんが、雷電を撮影した映像や写真を見ると、光が雲から地表へ、ジグザグと進んでいるのが分かります。なぜ、電気は一直線に進めないのでしょうか?
電気は普通、空気の中を進むことができません。ですから、雷は空気をつきやぶって無理やり進んでいくことになります。このとき、電気は少しでも通りやすい所を選びながら、進んでは止まり、また進んでは止まり、を繰り返しながら進むため、通り道はジグザグになるというわけです。
雷にとって通りやすいのは、空気が薄い所や湿度の高い所です。「空気が薄い」とは、電気が通るのに邪魔になる窒素や酸素の分子が少ない状態。湿度が高ければ、水にふくまれるカルシウムや金属物質によって電気が通りやすくなります。一見すると、ジグザグ進むのは遠回りのようですが、実は最も早く地表へたどり着ける経路なのです。
なお、「雷電」がオレンジ色や赤色、紫色に見えることもあります。これは、光が人の目に届くまでに空気中のちりや水滴などにぶつかって散乱するからです。散乱する量が多ければ赤色っぽく、散乱が少なければ白色や青色に見えます。
4.雷の種類
雷と一口に言っても、さまざまな種類があります。中には、上空ではなく地表付近で発生する雷もあります。多様な雷の種類をご紹介します。大きく分けると下記の5つです。
● 熱雷(ねつらい)
● 界雷(かいらい)
● 渦雷(うずらい)
● 火山雷(かざんらい)
● 冬季雷(とうきらい)
(1)熱雷
夏などに地表付近が太陽によって熱されると、上昇気流が発生します。この上昇気流によってできた積乱雲による雷が「熱雷」です。夏の夕立の多くが、この「熱雷」によるものだとされています。
(2)界雷
季節の変わり目 によく発生するのが「界雷」です。季節の変わり目には「前線」が発生することがあります。前線とは、暖かい空気と冷たい空気が接することによって生まれるもので、前線近くでは、暖かい空気の中にある水蒸気が、冷たい空気によって冷やされることで雲ができやすくなります。
「界雷」は、この前線付近で形成される雷雲によって発生する雷のことを指します。寒冷前線の近くで、冷たい空気が暖かい空気を押し上げることによる上昇気流によって発生することが多いとされています。
(3)渦雷
「渦雷」とは、台風などの発達した低気圧の中心付近で発生する雷のことです。こうした低気圧の中心には、周囲から流れ込む気流によって通常より強い上昇気流が発生することがあります。「渦雷」は、この上昇気流によって発生します。
こうした低気圧は気温が高いほど勢力を長時間維持するため、低気圧の移動に伴って「渦雷」の被害が広範囲に及ぶこともあります。
(4)火山雷
「火山雷」とは、火山の噴火によって生じる上昇気流による雷です。噴火によって放出される水蒸気だけでなく、噴石同士がぶつかってできた静電気によっても発生することがあります。
(5)冬季雷
「冬季雷」とは、冬に発生する雷のことです。夏に多い雷が冬に発生するのは世界的にも珍しい現象であるとされています。日本では、秋田県から鳥取県などの日本海沿岸の地域で多く発生しています。
冬の季語にもなっている「鰤起し(ぶりおこし)」は有名ですね。
夏の落雷と異なり、冬季雷は地面から空に向かって上向きに放電されることがあるのが特徴です。冬季雷のエネルギーは夏の雷より大きく、ときには夏の雷の100倍以上のエネルギーを発することもあるといいます。
5.下から上へ向かう雷もある
「落雷」という言葉の通り、雷は空から地表へ「落ちる」ものというイメージがあります。けれども実際は、下から上へ向かう雷もあります。
雷は、向かう方向から分類すると以下の4種類に分けられます。
①雲内の「−」の電荷からの放電が、「+」に帯電した地表へ向かう雷(上→下)
②地上の「+」の電荷からの放電が、雲の中の「−」の電荷へ向かう雷(下→上)
③雲の高い所、または底にある「+」の電荷からの放電が、「−」に帯電した地表へ向かう雷(上→下)
④地上の「−」の電荷からの放電が、雲の高い所にある「+」の電荷へ向かう雷(下→上)
①は、夏の落雷の約90%を占めます。その一方で②③④は、冬に多い雷です。また②は、鉄塔・風車・高層ビルなどの高い建物や山地で見られます。
6.雷から身を守る方法
もし、屋外にいるときに雷の音が聞こえたり雷の光が見えたりしたら、鉄筋コンクリートの建物の中などの安全な場所に早めに避難しましょう。木造の建物の場合は、電気器具や天井、壁などから1m以上離れると良いでしょう。
また、近くの電柱や煙突、大きな木などにはなるべく近づかないようにし、傘をさしている場合は、かがむなどして傘の先をなるべく低くするように心がけましょう。
広場やゴルフ場など、周囲に高いものが何もない場所や、山頂などの高い場所にいるときはできるだけ低い姿勢で、すみやかに安全な場所に避難するようにしてください。
さらに、雷の発生が予想されるタイミングや場所をあらかじめ知っておくことも大事です。気象庁の「ナウキャスト」というWEBサイトでは、雨雲や雷雲、竜巻などの発生状況を発信しています。こうしたWEBサイトを参考にすることも、雷から身を守るための有効な対策だと言えます。