古来日本人は、中国から「漢語」を輸入して日本語化したのをはじめ、室町時代から江戸時代にかけてはポルトガル語やオランダ語由来の「外来語」がたくさん出来ました。
幕末から明治維新にかけては、鉄道用語はイギリス英語、医学用語はドイツ語、芸術・料理・服飾用語はフランス語由来の「外来語」がたくさん使われるようになりました。
日本語に翻訳した「和製漢語」も多く作られましたが、そのまま日本語として定着した言葉もあります。たとえば「科学」「郵便」「自由」「観念」「福祉」「革命」「意識」「右翼」「運動」「階級」「共産主義」「共和」「左翼」「失恋」「進化」「接吻」「唯物論」「人民」などです。
ポルトガル語は、日本語と最も付き合いが長いヨーロッパの言語です。日本とポルトガルの交流は約500年前の室町時代から始まり、現在ではポルトガル語由来とは忘れてしまうくらい沢山の言葉が日本語として定着しました。
そこで今回は、日本語として定着した(日本語になった)ポルトガル語由来の「外来語」(その1:ア行~カ行)をご紹介します。
1.オルガン(Órgão)
教会のパイプオルガンの荘重な響きは素晴らしいものですが、私は小学校の時に先生が弾いてくれた小さなオルガンの方に愛着があります。
「オルガン」は、ポルトガル語のórgão(オルガン)に由来します。
語源には諸説ありますが、英語ではorgan(オーガン)、イタリア語はorgano(オルガーノ)、ドイツ語はorgel(オルゲル)、フランス語はorgue(オルグ)なのでオルガンの発音とは微妙に異なります。
語源をさかのぼると、ギリシャ語で「楽器、道具、器官、機関」を意味するorganon(オルガノン)に由来します。英語でも「機関、器官」のことはorganといいますね。
ちなみに、オルガンの原型は紀元前3世紀頃にエジプトのアレクサンドリアで発明された水オルガン(water organ)である「ヒュドラウリス (hydraulis)」で、古代ギリシャや古代ローマで普及した後にヨーロッパ全土や日本にも伝わりました。
2.イギリス(Inglez)
「イギリス」の国名は、ポルトガル語で「イングランド」を意味するInglez(イングレス)に由来します。
本来イングランド(England)は英国(United Kingdom)を構成する4つの地域(イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランド)の一つを指す言葉ですが、日本では英国を指す言葉として定着しています。
日本に伝わったのは戦国時代頃で、江戸時代にはオランダ語のEngelsch(エングルシュ)がなまった「エングレス」(エゲレス)も広まりましたが、ポルトガル語由来の「イギリス」が標準になりました。
3.オランダ(Holanda)
「オランダ」の国名は、ポルトガル語のHolanda(ホラント)に由来します。
ポルトガル語では「h」は無音なので「ho」の発音は「オ」になります。ホラントはオランダ西部にあるホラント州(Holland)のことで、森の地(holt land)という意味があります。
オランダ語では「低地の国」を意味するNederland(ネーデルラント)が正式な名称ですが、日本では戦国時代にポルトガル人宣教師から伝わった「オランダ」が一般的になりました。
4.カースト(Casta)
「カースト」は、ポルトガル語やスペイン語で「血統、家系」を意味するcasta(カスタ)が語源です。
元々インドでは身分制度のことを「生まれ」を意味するジャーティ(jati)と呼んでいました。ジャーティはバラモン(司祭)、クシャトリヤ(王族)、バイシャ(庶民)、シュードラ(隷民)の4つの基本的なヴァルナ(種姓)から構成されています。
ところが、15世紀にポルトガル人がヴァルナ(種姓)とジャーティ(身分制度)を混合して同一視し、カースト(血統、家系)とまとめて呼び始めました。
カースト制度という言葉は誤用として世界中に広がり定着しました。ちなみに英語ではcasteです。
5.カステラ(Castella)
「カステラ」は、鶏卵を泡立てて小麦粉・水飴を混ぜ合わせた生地をオーブンで焼いた菓子の一つです。ポルトガルから伝わった南蛮菓子を元に日本で独自に発展した和菓子です。
「カステラ」は、ポルトガル語で「カスティーリャのパン」を意味するpão de Castellaに由来します。日本語では「家主貞良」「加須底羅」という当て字もあります。
カスティーリャはイベリア半島にかつて存在したカスティーリャ王国のことで、カステラはそのポルトガル語の発音です。
一説には、スペイン語やポルトガル語で「城」を意味するcastillo(カスティリョ)やcastelo(カステロ)に由来するという説もあります。
1557年にカステラの原型となったお菓子がポルトガル人宣教師によって作られた記録が残っているそうです。
6.カッパ (Capa)
「カッパ」は、ポルトガル語で「袖なしの外套、マント」を意味するcapaに由来します。日本語では「合羽」という当て字もあります。
元々日本では15~16世紀頃に来日した宣教師が羽織っていた「袖がない外衣」のことをカッパと呼んでいました。
その後、防寒や防水のために利用されていくうちに、レインコートなどの雨具一般のことも指すようになりました。
南蛮文化と共に伝わったので「南蛮蓑(なんばんみの)」とも呼ばれています。英語のcape(ケープ)と同じ語源です。
当時は羅紗(ラシャ)で作られ、見た目が豪華なので織田信長や豊臣秀吉にも重宝されていました。織田信長が羽織っていた赤いマントもカッパと言われています。江戸時代には紙製や木綿製のものが一般にも普及しました。
7.カピタン(Capitão)
「カピタン」は、ポルトガル語の「船長」を意味するcapitãoに由来します。
カピタンは江戸時代のオランダ商館長のことを指す言葉ですが、ポルトガルの方がオランダより早く貿易が始まったためポルトガル語由来のカピタンが定着しました。
鎖国政策によりポルトガルとの貿易は1639年に禁止になりましたが名称はそのまま使われ続けました。
8.カボチャ(Camboja)
「カボチャ」は、ポルトガル語で「カンボジア」を意味するCambojaに由来します。
16世紀にポルトガル人がカンボジア産のカボチャを日本に持ち込んだことから呼ばれるようになりました。豊後国の大名・大友宗麟に献上した記録が残っているそうです。
カボチャの原産はメソアメリカや南アメリカ大陸で、カンボジアが原産というわけではありません。英語ではpumpkinやsquashです。
9.カラメル(Caramelo)
「カラメル」は、砂糖を160〜200℃に加熱して焦げる直前まで煮詰めてできる黒褐色・非結晶のあめ状の物質です。甘苦味があり、水・アルコールに溶け、菓子・醤油・ブランデー・黒ビールなどの着色および風味付けに用います。またプリンなど洋菓子用のソースにも用います。
「カラメル」は、ポルトガル語の砂糖菓子「カラメロ(caramelo)」に由来します。日本語では「焦糖(しょうとう)」とも言います。
カラメロは砂糖と水を煮詰めたお菓子で、宣教師が航海の長旅から疲労を回復するために食べていたものが日本に伝わったそうです。
語源をさかのぼると、後期ラテン語のcalamellus(茎、杖)や中期ラテン語のcannamella(蜂蜜の杖)、もしくはアラビア語のkora-moħalláh(甘いボール)に由来し、英語のcaramel(キャラメル)と同じ語源になります。
10.カルタ (Carta)
「カルタ」と言えば、「百人一首」や「いろはかるた」「花札」などが思い浮かびますね。
「カルタ」は、ポルトガル語で手紙、地図、トランプ」を意味するcartaに由来します。日本語では「歌留多」「加留多」「賀留多」「骨牌」などの当て字があります。
17世紀頃に日本の貝合わせ(貝覆い)と西洋のカードゲームが融合して現在のカルタになったそうです。
語源をさかのぼるとラテン語のcharta(紙、詩)、古代ギリシャ語のkhártēs(紙、本)に由来します。こちらも英語のcard(カード)と同じ語源です。
11.キリシタン(Cristão)
「キリシタン」は、ポルトガル語で「キリスト教徒」を意味するcristãoに由来します。
元々キリスト教徒全般を指す言葉でしたが、日本ではカトリックやその信者のことを意味しました。英語ではchristian(クリスチャン)、漢字では「吉利支丹」と表記します。
12.ギリシャ(Grécia)
「ギリシャ」は、ポルトガル語のGréciaに由来します。
以前はゲレシヤやギリシヤなどとも呼ばれていましたが、現在ではギリシャやギリシアが一般的です。ギリシャの外務省や在日大使館では「ギリシャ」の表記で統一されていますが、一部の人文学や過去の歴史を表す際にはギリシアと表記するそうです。
13.クルス(Cruz)
「クルス」は、ポルトガル語で「十字架」を意味するcruzに由来します。
クルスは古来から宇宙原理、法、中心などを象徴する印として用いられていました。エジプトでは永遠の命、キリスト教ではキリストのシンボルになっています。
14.コップ (Copo)
「コップ」は、ポルトガル語のcopoやオランダ語のkopに由来するとされています。
江戸時代にガラス製のコップが日本に伝わったそうですが、1639年からポルトガル船の出入国は禁止されているのでオランダ語由来かもしれません。
語源をさかのぼると、後期ラテン語のcūppa(杯、樽)やラテン語のcūpa(浴槽、樽)に由来し、英語のcup(コップ)と同じ語源になります。
15.金平糖 (Confeito)
「金平糖(こんぺいとう)」は、ポルトガル語で「砂糖菓子」を意味するconfeitoが語源とされています。
16世紀頃にポルトガルから伝わり、珍しいお茶菓子として全国に普及しました。宣教師のルイス・フロイスが織田信長に謁見した際に、ロウソクやフラスコと共に金平糖を献上した記録が残っているそうです。
棒状の砂糖菓子の「有平糖(あるへいとう)」も同時期に伝わりました。ちなみに、英語はsugar candyです。