今年（2023年）のNHK大河ドラマ「どうする家康」に登場する人物の中には、一般にはあまり知られていない人物もいます。
私は、山田孝之さん（冒頭の画像）が演じることになった服部半蔵がどういう人物だったのか大変興味があります。
そこで今回は、服部半蔵についてわかりやすくご紹介したいと思います。
なお、「どうする家康」の概要については、「NHK大河ドラマ『どうする家康』の主な登場人物･キャストと相関関係をご紹介。」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
１．服部半蔵とは
服部半蔵（はっとりはんぞう）こと服部 正成（はっとり まさなり／まさしげ）（1542年～1597年）は戦国時代から安土桃山時代にかけての三河の武将。
松平氏（徳川氏）の譜代家臣で「徳川十六神将」の一人に数えられ、「鬼半蔵」の異名を取ります（なお、同じ十六神将に「槍半蔵」と呼ばれた渡辺守綱がいます）。実戦では、家康より預けられた伊賀衆(伊賀同心組)と甲賀衆を指揮していました。
藤子不二雄Ⓐさんによって「忍者ハットリくん」と言う漫画・テレビアニメにもなっている服部氏であり、江戸城の半蔵門(はんぞうもん)は、服部半蔵が警備を担当したからとされます。
地下鉄・半蔵門線の名称にもなっているくらい「半蔵」には馴染みがあります。
しかし、服部半蔵自身は「忍び（忍者）」ではありません。
父の保長は伊賀国の土豪で、北部を領する千賀地氏の一門の長でした。当時の伊賀には服部氏族の「千賀地」「百地」「藤林」の三家がありましたが、狭い土地において生活が逼迫したため、保長は旧姓の服部に復して上洛。室町幕府12代将軍・足利義晴に仕えることとなりました。
松平清康が三河国を平定し将軍に謁見するべく上洛した折り、保長と面会して大いに気に入り、その縁で松平氏に仕えることになったということです。
伊賀国予野の千賀地氏を服部半蔵の一族とするのは誤りで、阿拝郡荒木の服部半三正種の子とするのが正しいとする説があります。また、保長を服部民部の子「守佐」であると記し、名を「石見守半蔵正種、浄閑入道保長、法名道可」とする史料も存在します。千賀地氏城の伝承においては、上記とは逆に将軍に仕えていた保長が伊賀に戻り、千賀地氏を名乗ったとされ、その子である正成と徳川家康の接点がありません。
三河へ移った後の保長の記録は少なく墓所などは現在も判明していませんが、大樹寺に縁があったとされ、同寺過去帳には息子である久太夫の名がみられると共に、家伝においても服部半蔵は幼少期を大樹寺で暮らしたと記されています。
服部半蔵は父の跡目として服部家の家督を継ぎ、徳川家康に仕えて「遠江掛川城攻略」、「姉川の戦い」、「三方ヶ原の戦い」などで戦功を重ねました。
一般的に「伊賀忍者の頭領」の印象が強い服部半蔵ですが、彼自身は徳川家の旗本先手武将の一人であり、伊賀国の忍者の頭領ではありません。 徳川配下の将として名を現した後の働きも忍者のそれとは異なり、槍や体術を駆使し一番乗り・一番槍などを重要視した武功第一のものが多くなっています。
しかし、いくつかの合戦において伊賀者や甲賀者と行動を共にするほか指揮官として忍びを放ち探査や工作をさせた記録も残るため、服部半蔵の生涯の多くに伊賀・甲賀出身者や忍びの者達が関わっていたであろうことが推察されます。
２．服部半蔵の生涯
（１）生い立ちと幼少期
服部半蔵は天文11年（1542年）に、服部保長の五男あるいは六男として三河国伊賀（現愛知県岡崎市伊賀町）に生まれました。出生地は伊賀八幡宮の北隣、明願寺付近とみられます。（岡崎城出仕の頃の屋敷は、現在の岡崎市康生通南1丁目付近であったといわれます。）
天文17年（1548年）、6歳の半蔵は大樹寺へ預けられました。幼い頃より筋骨逞しく力の強い子供であったということです。
しかし3年後の天文20年（1551年）には出家を拒否し大樹寺から失踪します。半蔵は親元へ戻らず兄達の援助で暮らしていましたが、その後7年間、初陣とされる宇土城攻めまでの消息は不明とされます。
（２）主な戦歴と逸話
弘治3年（1557年）、16歳の時に三河宇土城（上ノ郷城）を夜襲（初陣）し戦功を立てた際、徳川家康から盃と持槍を拝領しました。
永禄3年（1560年）の「桶狭間の合戦」以降、家康が三河統一に着手した時期には、半蔵は渡辺守綱と並び徳川家臣団の旗本馬廻衆に所属していました。
永禄6年（1563年）、「三河一向一揆」の際、半蔵は一向宗でしたが家康への忠誠を誓い、一揆勢を相手に戦いました。
永禄12年（1569年）の掛川城攻めでは渡辺守綱、内藤正成、本多重次、榊原忠政らと共に戦っています。
元亀元年（1570年）、「姉川の戦い」において半蔵は姉川堤における一番槍の功名を上げました。また、偶然出会った浅井の兵数十人に「自分も浅井方であるから共に退却しよう」と偽り、討ち取る機会を窺っていたところ、通りかかった弟の半助から「その敵を討ち取れ」と声をかけられて怪しまれたため、敵兵の主人と数人を倒して半助に首を取らせました。この戦で半蔵は若い将兵の後見も任されていました。
元亀6年（1572年）、「三方ヶ原の戦い」で半蔵は先手として大須賀康高の隊に配属され一番槍の功名を上げました。しかし徳川軍は大敗し、半蔵は大久保忠隣、菅沼定政らと共に家康を守り浜松城を目指しました。
この時、半蔵は顔と膝を負傷していましたが、家康の乗馬に追いついた敵と格闘し撃退しています。浜松城へ帰還した際には、敗戦に狼狽する味方を鼓舞するため一人で城外へ引き返し、敵と一騎打ちのすえ討ち取った首を手に城内へ戻りました。
戦功により半蔵は浜松城二の丸に召し出され、家康から褒美として平安城長吉の槍を含む槍二穂を贈られ、また伊賀衆150人を預けられました。
天正2年（1574年9月）、武田勝頼の遠江出陣の際には、氾濫した天竜川を渡ろうとした板垣信通の家臣や、浜松城下にて刈田を行おうとした山県昌景配下の小菅元成らへ攻撃を加えています。
天正3年（1575年）、長坂血鑓九郎信政の娘を正室に迎えています。
同年夏、高天神城開城の後、半蔵は大須賀康高の大須賀党組へ配属され、高天神城攻めに参加します。大須賀党組には塙団右衛門、井上半右衛門、松下嘉兵衛(嘉平次)、鉄砲名人の鳥居金五郎、忍び名人で「大鼠」と呼ばれた神谷権六、「槍半蔵」渡辺守綱などが属していました。
天正4年（1576年）、長坂信政の娘との間に長男の正就がうまれました。
天正7年（1579年）、家康の嫡男信康が織田信長に疑われ遠江国二俣城で自刃に追いやられた際は検使につかわされました。この時、信康の介錯を命じられたのは渋川四郎右衛門でしたが、渋川は「三代相恩の主の御首に刀は当てられぬ」とその日の夜に出奔してしまいました。
そのため半蔵が俄かに介錯を命じられましたが、信康のあまりのいたわしさに首を打ちかね、刀を投げ捨て落涙し倒れ伏したため、半蔵に代わり天方通綱が介錯を行いました。
報告を受けた家康は「さすがの鬼も主君の子は斬れぬか」と半蔵をより一層評価しました。信康介錯の逸話については『三河物語』に描写されており、半蔵は信康の側仕えだったという説もありますが、信康とはほとんど面識が無く、この逸話は後世の創作であるとする説や、服部半蔵ではなく渡辺半蔵が介錯したという説もあります。
近年では信康の切腹は、家康と信康の対立が原因とする説が出されています。また「三代相恩の主の御首に刀（刃）は当てられぬ」という渋川四郎右衛門の言葉については、半蔵の言葉として記載されている場合もあります。
天正8年（1580年）、次男の正重が生まれます。その後、三男の正廣が生まれ(時期不明)ましたが、正廣はのちに出家しました。
同年、高天神城攻めのため浜松城下に駐留する織田家の援将、大垣卜仙（卜全）の家人と徳川家臣の家人が些細な事で衝突します(但し、大垣卜仙（氏家直元）は1571年（元亀2年）の長島一向一揆攻めで討死しており、この時期は子の氏家直昌が大垣城主となっている)。
浜松にいた半蔵は頼まれて加勢に加わりましたが、半蔵を報復で襲った大垣家人らを服部家で迎え撃った結果、大垣家・服部家の双方に複数の死者を出すこととなりました。
大垣家が織田家臣であることを重く見た家康は、逃げるつもりのない半蔵を説得して牢人とし、妻子ともども浜松から逃がすと、別人の首を「半蔵の首」に仕立て大垣家に差し出しました。この事件の後、伊賀越えまでの2年間の半蔵の消息は不明です。
（３）「伊賀越え」とその後
天正10年（1582年）6月、信長の招きで家康が少数の供のみを連れて上方を旅行中に「本能寺の変」が起こりますが、このとき堺に滞在していた家康一行が甲賀・伊賀を通って伊勢から三河に帰還した、いわゆる「伊賀越え」に際し、先祖の出自が伊賀である半蔵は商人・茶屋四郎次郎清延とともに伊賀、甲賀の地元の土豪と交渉し、彼らに警護させることで一行を安全に通行させ、伊勢から船で三河の岡崎まで護衛しました。
同地で味方となった彼らは後に馬廻、伊賀同心、甲賀同心として徳川幕府に仕えています。 この時、半蔵は栗という場所にいたところを召し出され伊勢の白子まで同行しました。半蔵は一揆勢に対し道をあけるよう大声で呼びかけその隙に家康らを通行させましたが、相手が襲ってきたため馬を乗り入れて応戦しました。
しかし土塁に駆け上がった際に堀へ転落し、上から槍で脚を十ヶ所近く突かれ気を失いました。家臣の芝山小兵衛は家康へ「半蔵は討ち死にした」と伝えましたが、遺体を回収しようと戻ったところ生きていたため、これを介抱しながら共に帰ったということです。
岡崎に帰着した後の6月15日、半蔵は御先手頭を申し付けられました。
同年には「本能寺の変」により甲斐・信濃の武田遺領を巡る「天正壬午の乱」が発生し、7月に半蔵は家康に従い甲斐へ出陣します。
家康は現在の北杜市域を中心に布陣した相模国の北条氏直に対して甲府盆地の各地の城砦に布陣し、半蔵は伊賀衆を率いて勝山城（甲府市上曽根町）や右左口砦・金刀比羅山砦（甲府市右左口町）に配置され、甲斐・駿河を結ぶ中道往還を監視しました。勝山城では津金衆の協力を得て周辺の地を守備しました。
同年8月、徳川勢が信濃国佐久郡に侵攻すると、半蔵は伊賀衆を率いて津金衆・小尾祐光らの郷導を受け、9月初旬には佐久郡江草城(獅子吼城)を夜襲し落城させます。
9月下旬、三嶋方面への北条氏侵攻により三枚橋城の松平康親、大澤基宿から要請を受けた半蔵は戸倉城の援将として90騎程を率いて防衛し、三嶋で刈田を行いました。北条勢の戸倉城攻撃の際は援将である本多重次と共に防衛にあたり、半蔵は岡田元次と韮山で刈田を行いました。
この頃、半蔵は韮山の押さえのため天神ヶ尾砦に入り、韮山方面への攻撃と防衛にあたっています。 9月8日の夜には、敵の砦である佐野小屋に伊賀者2人を忍び入れて詳細に報告させ、同月15日、伊賀衆を先鋒とし、大雨に紛れ攻め落としました。
この功を家康は「信玄・勝頼の二代を防いだ堅固な砦をついに落とした」と賞賛したということです。
同年12月、半蔵と伊賀衆は江草城(獅子吼城)守備の任につきます。
天正11年8月、半蔵は命を受け、伊賀者200人を率いて甲斐国の谷村城(山梨県都留市)城番となり守備にあたりました。
天正12年（1584年）3月、「小牧・長久手の戦い」では伊勢松ヶ島城の加勢で伊賀甲賀者100人を指揮し、鉄砲で豊臣方を撃退しています。半蔵は二の丸を守備し、筒井勢を防ぎました。続く蟹江城の奪還戦で半蔵と配下の伊賀鉄砲衆は松平康忠と共に東の丸(前田口)の包囲に加わり、井伊直政の大手口突入が始まると二の丸へ攻め入りました。
天正18年（1590年）の「小田原征伐」に鉄砲奉行として従軍しました。 半蔵は大組百人の組頭として根来衆50人を率いました。この時、日下部兵衛門（根来衆50人）、成瀬正成（30人）も大組百人の組頭を務めています。戦で半蔵は十八町口にて奮戦し、首を十八級挙げました。
この際、半蔵が用いていた黒地に白の五字附四半指物を使番の旗印にしたいと本多正信を通じて家康より求めがあったため、半蔵はすぐにこれを差し出し、以後は紺地に白の矢筈車紋の旗を用いました。
以後、徳川軍の使番旗には白地に黒五字の旗印が採用され、使番の中でも熟練し功績の多い者に使用が許されました。なお、半蔵が五字四半指物の代わりに用いたという「矢筈車の旗」の家紋の詳細については判明しておらず、一般的に服部氏が使用する「源氏車に矢筈」や「矢筈車」と呼ばれる場合のある「矢尻付き三つ矢筈」等が推察されます。
小田原の陣の功により遠江に知行を与えられた半蔵は、家康の関東入国後は与力30騎および伊賀同心200人を付属され同心給とあわせて8,000石を領しました。自身は武将でしたが、父親である保長が伊賀出身で忍びの出であった縁から徳川家に召し抱えられた伊賀同心を統率する立場になったということです。
この頃の知行は遠州布引山麓の村（場所不明。静岡県牧之原市布引原か）、遠州イサシ村(浜松市西区伊左地町)、サハマ村(浜松市西区佐浜町)、天正の頃は遠州長上郡小池村(浜松市東区小池町)のあたりであったといわれます。また、慶長元年(1597年)には半蔵が武蔵国橋戸村(東京都練馬区大泉町)を領していた記述が地方文書に認められます。
文禄元年（1592年）には肥前名護屋へ鉄砲奉行として従軍します。徳川の陣営は前田利家の陣営と隣同士であり、共用の水汲み場で下人や足軽らの諍いが起きました。集まった両陣営の人数は戦いが起きる寸全にまで膨れ上がったため、半蔵は配下の兵に命じて火縄に点火させ、前田の陣に鉄砲を向けたということです。また、「半蔵は争いを収めようと肌脱ぎ駆け回ったが収まらず、本多忠勝が出てようやく事態が収まった」とする説もあります。この戦が半蔵にとって最後の出陣となりました。
慶長元年11月14日（1597年1月2日）に病没し、江戸麹町清水谷の西念寺に葬られました。西念寺は、半蔵が生前に信康の菩提を伴うために創建した浄土宗の庵・安養院の後身です。安養院は江戸麹町の清水谷（現在の千代田区紀尾井町清水谷公園付近）にあり、半蔵は1593年（文禄2年）家康から300両を与えられ寺院を建立するよう内命を受けましたが、西念寺の完成を待たず死去しました。
その後、西念寺は江戸城の拡張工事のため1634年（寛永11年）頃に現在地に移転しました。西念寺の山号・寺名は彼の法名に因み、現在も毎年11月14日に「半蔵忌」の法要が行われています。
（４）伊賀同心との確執
伊賀越えの後、新たに半蔵が指揮権を預けられた「伊賀同心」「伊賀衆」は、伊賀越えを支援した縁で徳川家への仕官を望んだ伊賀国の地侍とその家族であり、半蔵自身の家臣ではありませんでした。
家康は彼らを同心として雇い、指揮権を伊賀の血筋である半蔵に与えました。しかし同心らは「自分達は徳川家に雇われたのであり服部氏の家来になったのではない」と認識していたこと、半蔵の父である保長が早い時期に伊賀を出て三河に住んだこと、伊賀における半蔵の家格は自分達よりも下であることなどを理由に、彼に指揮されることを無念に思っていたそうです。
のちに彼らは「伊賀同心二百人組」として組織化され江戸城周辺の守備にあたりましたが、半蔵の死後も伊賀同心二百人組と服部半蔵家との確執は続きました。指揮権を継いだ長男で三代目半蔵である正就の改易後、伊賀同心二百人組は四つまたは六つに分割解体され、それぞれの組には新たに指揮者となる旗本を置いて再編成されることとなりました。
この時、四代目半蔵となった正就の弟正重は大久保長安に仕える金山同心であったため、伊賀同心の指揮者にはなりませんでした。なお、彼ら伊賀同心とは別に古くから三河地方に定住していた伊賀出身者や服部党も多数おり、彼らもまた、保長や半蔵と同じく松平・徳川家に仕えていたとみられます。
３．「鬼半蔵」の逸話
（１）ある時の陣中で、半蔵を召し出した家康が「その方の働きは誠に鬼槍である」と評したところ、渡辺半蔵が「私の働きはいかにご覧になられたのか」と言いました。家康は「その方の働きは槍半蔵である」と答えたので、半蔵と守綱の両人は異議なく家康の御前を退いたということです。
（２）城攻めの際、半蔵の五字の旗指物を見た敵方より「五の字の指物、鬼半三」と毎度呼ばれたので、鬼半三と称するようになったということです。
４．服部半蔵の戦闘術
（１）二人の人物を同時に斬れという命令を受けた時、半蔵は彼ら二人の間に入って歩き、振り返りざまに後ろの者を斬り、その後で前の者を斬りました。
（２）半蔵は常に敵の襲撃を想定しており、眠る時も床に筵を敷いてその上に寝ず、少し離れた所に横になりました。
（３）羽織を着る時は、すぐに脱ぎ捨てて戦えるよう、紐を結びませんでした。
（４）敵と戦う時や敵に襲われた時は、まず足の先で蹴り、兜の眉庇を狙うのがよいと語りました。
（５）次男の正重に対し「敵と戦う時は兜の眉庇を狙い、顔は唇まで斬りつけ、敵の胴に斬り込み、股、脛、腕、膝を吊り掛けて打ち落とせ」と語りました。