光源氏のモデル・藤原伊周とは?才気溢れるイケメンだが藤原道長に敗れ左遷される。

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藤原伊周

2024年NHK大河ドラマは「源氏物語」の作者である紫式部が主人公でそのパトロンでもあった藤原道長とのラブストーリーも含む「光る君へ」(主演・吉高由里子 作・大石 静)です。

2020年の「麒麟がくる」、2021年の「青天を衝け」、2022年の「鎌倉殿の13人」、2023年の「どうする家康」と力作・話題作が続くNHK大河ドラマですが、2024年の「光る君へ」も楽しみですね。

なお「源氏物語」と紫式部については前に「紫式部はなぜ源氏物語を書いたのか?藤原道長との不倫の真相は?」という記事も書いていますので、ぜひご覧ください。

1.「光る君へ」について

主人公は紫式部 時代は平安

千年の時を超えるベストセラー『源氏物語』を書きあげた女性
「光源氏」の恋愛ストーリーの原動力は
秘めた情熱と想像力 そしてひとりの男性へのおも
その名は藤原道長
変わりゆく世を自らの才能と努力で生き抜いた女性の
愛の物語                    (NHK PRより引用)

(1)創造と想像の翼をはためかせた女性 紫式部とは

2024年の大河ドラマは平安中期に、のちに世界最古の女性文学といわれる『源氏物語』を生み出した、紫式部の人生を描きます。武家台頭の時代を目前に、華やかにひらいた平安文化の花。きらびやかな平安貴族の世界と、懸命に生きて書いて愛した女性の一生に挑戦する大河ドラマです。
平安時代といえば、十二単じゅうにひとえ姿の女性が長い髪をひいて伏している絵を思い浮かべませんか? その優雅さはともかく、実は平安はアクティブな時代。男は仕事先や寺社、はては野山まで馬でせ、女も自分の財産を持ち、家事のみならず、おでかけもすれば、宮仕えなどでキャリアを磨く。男女ともにいきいきとしたたたずまいは、現代に通じるものさえあります。
そんな平安時代でも、他の多くの時代と同じく、女性に学問は不要といわれていました。主人公の紫式部は、その中で自らの知性と感性、そして努力によって、壮大で精緻な恋愛長編『源氏物語』を書き上げた女性です。そんな紫式部の『源氏物語』執筆に、欠かせないひとりの男性が、藤原道長。ドラマでは紫式部が生涯心を寄せ、陰に陽に影響しあいながら人生をたどる、いわばパートナーとして登場します。
紫式部は、藤原道長は、そして周りの人々が何を思い、懸命に生きていたのか。彼女/彼らの心におもいをせながら楽しく見られる、華やかな絵巻を紡いでいきます。                   (NHK PRより引用)

(2)タイトル「光る君へ」とは

源氏物語の主人公「光源氏」は、原文では「光る君」と書かれています。光り輝くような容姿の美しさ、頭脳明せきであることはもちろん愛きょうにもあふれ、和歌にも音曲にもけた、非の打ちどころのない男性。それが光る君です。紫式部が誰をモデルとして光源氏像を打ち立てたかについては、諸説ありますが、その有力なひとりが藤原道長です。
タイトルの「光る君へ」は、我が手で生み出した、かけがえのない【源氏物語】、そしてこのドラマ全編を通じて、ときにかれ、ときに離れ、陰に陽に強く影響し合うソウルメイト【藤原道長】への、紫式部の深くつきることのないおもいを表します。                (NHK PRより引用)

(3)光源氏のモデル

光り輝くようなイケメンで教養豊なプレイボーイとして描かれている光源氏ですが、実は モデルとされる人物は複数存在しています。

モデルの候補は、大まかにいうと以下の3つの系統があり、架空の人物である光源氏と境遇や人となりなど共通点があります。

臣籍に降下した親王

天皇に即位した親王

平安時代の貴族

モデル候補が複数いるのは、作者の紫式部が様々な実在の人物の特定の要素を光源氏に盛り込んだためというのが定説になっています。

「源氏物語」は当時の貴族社会でも非常に人気があった読みものでしたが モラル的にきわどい部分があるストーリーです。

モデルが明白なほど特定人物と酷似していては不都合なため、紫式部(973年頃~1014年頃)は主人公の光源氏にあえて様々な人物像を盛り込んだと考えられます。

2.藤原伊周とは

2024年NHK大河ドラマ「光る君へ」では、三浦翔平さんが演じます。

藤原伊周

(1)藤原伊周のプロフィール

藤原道長と藤原伊周・家系図

藤原伊周(ふじわらの これちか)(974年~1010年)は、平安時代中期の公卿です。藤原北家、摂政関白内大臣・藤原道隆の嫡男(三男)。母は高内侍こと高階貴子。官位は正二位・内大臣。

18歳で参議、次いで中納言、994年(正暦5年)21歳で内大臣となり、翌年に父の病を機に関白になるよう父子で画策しましたが失敗し、病の間という条件で内覧になりました。

父の死後、叔父の藤原道長と政権の座を争って敗れ、会議の席で道長と激しく口論したり、従者同士が争うなどしましたが、996年(長徳2年)、23歳のとき女性問題から花山上皇を威嚇したこと、東三条院詮子を呪詛したことなどで大宰府(太宰府市)に左遷されました。

翌年の大赦で帰京し、本位に復しましたが、二度と権力の座につくことはありませんでした。

「大鏡」は、ある人相見から「雷の相」、つまり「一時は権勢を持つが最後まで成しとげることがない」と言われた話や、「若い時の道長と弓射を競い道長はすべて的を射たが、伊周は外した」といったエピソードを伝えています。

漢詩の才能があり、高貴な容貌の持ち主で、対面した清少納言の当惑ぶりが「枕草子」に見えます。歌集に『儀同三司集』があります。

(2)光源氏との類似点

藤原伊周は、 道長の甥であり、中宮定子の兄にあたる人物で、光源氏のモデルの候補者の一人といわれています。

①才気溢れるイケメン:漢学や和歌に通じ、才気あふれるイケメンとして若いころからエリート街道を進みました。

②左遷:父と妹を失ったあと、 道長との権力闘争に敗れて失脚し左遷されました。

藤原伊周は、非常に容姿端麗であったとの記載が「枕草子」や「栄花物語」にあることから、光源氏のモデルの一人とされています。

しかし、父である藤原道隆を亡くしたあとは、失脚して失意のうちに生涯を閉じています。

3.「 枕草子」に描かれた藤原伊周

藤原伊周が登場する章段(跋文含む)は、次の通りです。

  • 20段「清涼殿の丑寅のすみの」
  • 77段「御仏名のまたの日」
  • 95段「五月の御精進のほど」
  • 100段「淑景舎、東宮にまゐり給ふほどのことなど」
  • 125段「関白殿、黒戸より出でさせ給ふ」
  • 179段「宮に初めて参りたるころ」
  • 263段「関白殿、二月廿一日に」
  • 跋文

枕草子の中で、藤原伊周が登場する中で一番初めの章段が、20段「清涼殿の丑寅のすみの」です。

この章段では、伊周のファッションセンスの良さが光っており、清少納言の目にはたいそう煌びやかに映っていたようです。

この章段に限ったことではないのですが、清少納言のフィルタを通した藤原伊周は、お洒落なイケメン貴公子のような印象を受けます。

伊周は清少納言の仕える中宮定子の兄ですから、好意的に描くのは当然です。彼がイケメンであればなおさらです。

枕草子の中で藤原伊周のキャラクターが最も色濃く出ているのが、179段「宮に初めて参りたるころ」です。

この段は、清少納言の宮仕えをして間もない頃を回想した章段で、清少納言の初々しい姿が見られることで有名です。

伊周は、この「宮に初めて参りたるころ」の後半に登場し、宮仕えの新人でガチガチに緊張していた清少納言をからかって楽しんでいる(と思われる)場面が描かれています。

藤原伊周、父の道隆、妹の定子、弟の隆家など、枕草子には中関白家の朗らかな一面を記録した内容が結構記されています。

高貴な人物たちも普段はこうして笑っていたんだなと実感できますし、また中関白家の明るい印象も伝わってきます。

4.「大鏡」に描かれた藤原伊周

「枕草子」では、高貴な美男子で朗らかな人物像が描かれていた藤原伊周ですが、「大鏡」という歴史書では全く違った一面をのぞかせています。

簡単に言ってしまえば「2代目のぼんぼん」、あるいは「情けない男」といった感じです。叔父である藤原道長と比べて、伊周が如何に劣った存在であったかを示すようなエピソードがいくつか書かれており、伊周と道長の関係性を理解するひとつの参考にはなるかもしれません。

(1)藤原伊周を競べ弓で圧倒する藤原道長

「大鏡」に書かれた藤原伊周のエピソードの中で、最も有名なのが「伊周と道長の競射」の逸話でしょう。

以下、その逸話を要約して簡単にご紹介します。

藤原伊周様が弓で的を射ていた時、藤原道長様が現れました。

伊周様と道長様は弓を競いましたが、官位が低い方の道長様が2本差で勝利してしまったのです。

その様子をみていた伊周の父 道隆様やその従者たちは延長戦を申し出ます。

渋々ながらも延長戦を承諾した道長様は、「自分の家系から天皇や皇后を輩出するべきなら、この矢は命中せよ!」と言って射たところ、見事に的のど真ん中に命中させました。

一方、伊周様は緊張で手が震えてしまったのか、矢はあさっての方向へ飛んで行ってしまったのです。

さらに道長様は、「私が摂政・関白になる運命ならば、この矢は命中せよ!」と言って射たところ、またまたど真ん中に命中。

道隆様は「もう射るな!」と伊周様を制してしまったため、その場はシーンと静まりかえってしまいました。

(2)藤原道長にたじろぐ藤原伊周

もうひとつ要約してご紹介します。

藤原道長様がお寺に参拝なさった時、「藤原伊周様が良からぬ企てをしているようです・・・」という噂が耳に入ってきたので、道長様は警戒を強めていました。

結果、特に何も起こらなかったのですが、妙な噂を立てられた伊周様は釈明の為に、道長様の元を訪れました。

伊周様はほどく気後れした様子が、ありありと滲み出ています。

ところが道長様は伊周様を冷遇することなく、とても親しみ深い対応をされていたのです。

このように「道長には決して敵わない伊周」とでも言わんばかりのエピソードが書かれているのです。

他にも、伊周が臨終の時いかに情けない状況だったかや、伊周の息子(道雅)のダメっぷりが嫌みっぽく書かれていたりもします。

「大鏡」自体が藤原道長の栄華を中心に描かれているため結果的に道長の政敵となり、歴史的には敗者となった伊周が悪く書かれるのは、「勝者の歴史」(歴史は勝者によって作られる)の常で、仕方ないことかもしれません。

5.「源氏物語」について

(1)「源氏物語」とは

源氏物語は、平安時代中期、11世紀初めに成立した、世界最古の長編小説です。
作者は、紫式部という女性。
七、八十年の時間の流れを描いた「大河小説」で、500人ほどの人物が広大なドラマを繰り広げます。

源氏物語は五十四帖から成り、各帖はそれぞれで完結し、その集合体として長編小説になっています。
五十四帖は、三部に分けられます。

一部は、桐壺(きりつぼ)の帖(第一帖)から藤裏葉(ふじのうらば)の帖(第三十三帖)まで。
主人公光源氏の誕生から、栄華を求めながら愛を遍歴する様が描かれています。

二部は、若菜上(わかなのじょう)の帖(第三十四帖)から幻(まぼろし)の帖(第四十一帖)まで。
光源氏の深まる苦悩や老いが描かれています。
※雲隠(くもがくれ)の帖は、タイトルのみで本文はなく、光源氏の死を示唆。

三部は、匂兵部卿(におうひょうぶのきょう)の帖(第四十二帖)から夢浮橋(ゆめのうきはし)の帖(第五十四帖)まで。
光源氏の死後、その子や孫が繰り広げるドラマを描いています。
宇治が舞台となる最後の十帖は、「宇治十帖」と呼ばれています。

(2)「源氏物語」のあらすじ

①第一部あらすじ:光源氏の華麗なる生活

桐壺帝の子、光源氏は幼くして母を亡くし、実母によく似た継母・藤壺(父帝の妃)を恋慕うようになります。
2人の間には子どもが生まれますが、父帝の子として育てられることになりました。

他にも、正妻・葵の上との政略結婚、空蝉夕顔六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)などと恋をします。
葵の上亡き後は、藤壺によく似た、彼女の姪の紫の上と結婚し、生涯の伴侶とします。

そんな中、光源氏は自分の政敵、右大臣の娘・朧月夜(おぼろづきよ)と恋人関係になり、都を追われて須磨・明石で流離の日々を送らざるを得なくなります。
そこでは明石の君との出逢いがありました。

やがて京に戻され、源氏と藤壺の子が帝になることで、勢力を大きく盛り返し、自身の大邸宅・六条院で優雅極まる生活を送ります。
そして、太政大臣の後は、退位した帝に匹敵する待遇まで受け、名実ともにこの世の栄華を極めるのでした。

②第二部あらすじ:優雅な生活の足元に忍び寄る影

光源氏は兄・朱雀院の愛娘・女三の宮を正妻として迎えねばならなくなります。
その後何年かして、それまで源氏の正妻格の立場にあった紫の上が病に伏してしまいました。

さらに女三の宮は、源氏の留守中忍び込んだ柏木という青年の子どもを宿したのです。
源氏は老いていく自分、過去の藤壺との過ちの報いを痛切に知らされるのでした。
やがて病気だった最愛の紫の上が亡くなり、光源氏は出家を決意するに至ります。

第二部の最後となる「幻の帖」に続く「雲隠の帖」には、巻名のみで本文はありません。
かつては存在したとも、初めから書かれなかったとも、さまざまな説があります。
長く寄り添ってきた主人公の最期を、作者・紫式部は書くに忍びなかったのでしょうか。
あるいは、読者一人一人の想像に委ねたのかもしれません。

③第三部あらすじ:光源氏の子や孫を通して描かれる人間模様

女三の宮が生み、光源氏の末子として大切に育てられた薫や、源氏の外孫・匂の宮が当代きっての貴公子として登場。
光源氏亡き後、第三部の主人公となるのが薫と匂の宮です。

自分の出生や存在価値に疑問を持つ薫、思うように出歩けない匂の宮の苦悩。
そして、彼らと宇治の大君、中の君姉妹との関係、苦悩が語られます。

やがてこの姉妹の異母妹・浮舟が登場して、意外な展開が繰り広げられるのです。
浮舟が高僧・横川の僧都との関わりの中で下した決断とは、自身は身分も財も学問もない一女人だけれども、仏道一筋求めて出家する、というものでした。

その後の浮舟や男君たちは、どのようになっていくのでしょうか…。

なお、その他の登場人物については「NHK大河ドラマ「光る君へ」の主な登場人物・キャストと相関関係をわかりやすく紹介」に書いていますのでぜひご覧ください。


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