『ギリシャ神話』はもともと口承文学でしたが、紀元前8世紀に詩人のヘーシオドスが文字にして記録しました。古代ギリシャの哲学、思想、宗教、世界観など多方面に影響を与え、ギリシャでは小学校で教えられる基礎教養として親しまれています。
絵画ではしばしばモチーフとして扱われ、多くの画家が名作を残しています。文学作品や映画などにも引用され、ゲーム作品でも題材になっていることがあります。たとえば、ディズニー映画の『ヘラクレス』はギリシャ神話をモデルにしたお話です。
『ギリシャ神話』(およびその影響を受けた『ローマ神話』)は、現在まで欧米人にとって「自分たちの文化の土台となったかけがえのない財産」と考えられて、大切にされ愛好され続けてきました。
欧米の文化や欧米人の物の考え方を理解するためには、欧米の文化の血肉となって今も生き続けている『ギリシャ神話』の知識が不可欠です。
「日本神話」は、天皇の権力や天皇制を正当化するための「王権神授説」のような神話なので、比較的単純ですが、『ギリシャ神話』は、多くの神々やそれらの神の子である英雄たちが登場し、しかもそれらの神々の系譜や相互関係も複雑でわかりにくいものです。
前に「ギリシャ神話・ローマ神話が西洋文明に及ぼした大きな影響」という記事や、「オリュンポス12神」およびその他の「ギリシャ神話の女神」「ギリシャ神話の男神」を紹介する記事を書きましたので、今回はシリーズで『ギリシャ神話』の内容について、絵画や彫刻作品とともに具体的にご紹介したいと思います。
第15回は「イカロスの墜落神話」です。
1.イカロスとは
イカロス(イーカロス、イカルス)(古希: Ἴκαρος, ラテン文字化:Īkaros, ラテン語: Icarus)は、ギリシア神話に登場する人物の1人です。
蜜蝋で固めた翼によって自由自在に飛翔する能力を得ますが、太陽に接近し過ぎたことで蝋が溶けて翼がなくなり、墜落して死を迎えました。
イカロスの物語は人間の傲慢さやテクノロジーを批判する神話として有名です。
なお、このほかにカーリアの王にも同名の人物がいます。
2.イカロスにまつわる神話
<イカロスの墜落のある風景 ピーテル・ブリューゲル画>イーカロスは画面右下に小さく描かれ、海に墜落し足だけが見えています。
<イーカロスへの哀歌>
<イカルスの墜落 マルク・シャガール画>
イカロスは、伝説的な大工・職人ダイダロスとナウクラテーの息子です。母ナウクラテーはクレータ島の王ミーノースの女奴隷です。
ラビュリントスの攻略法をアリアドネーに教えたことでダイダロスとイカロスの親子は王の不興を買い、迷宮(あるいは塔)に幽閉されてしまいます。彼らは蜜蝋で鳥の羽根を固めて翼をつくり、空を飛んで脱出しました。
父ダイダロスはイカロスに「蝋が湿気でバラバラにならないように海面に近付きすぎてはいけない。それに加え、蝋が熱で溶けてしまうので太陽にも近付いてはいけない」と忠告しました。
しかし、自由自在に空を飛べるイカロスは自らを過信し、太陽にも到達できるという傲慢さから太陽神ヘーリオス(アポローン)に向かって飛んで行きました。
天高く飛んではならないという父親の忠告を忘れて得意になって高く飛翔(ひしょう)したため、太陽の熱で翼の蝋が溶けて墜落し、海中に落下して溺れ死んだのです。彼の落ちた海はその後「イカロス海」となりました。
ただし異説では、イカロスのみが死ぬ点は一致するものの、飛行に関するエピソードはありません。父子は幽閉ではなく追放され、船でクレータ島を脱出します。2人は別の船に乗りました(イカロスがダイダロスを追ったとも)が、イカロスは帆船をうまく操れず船が転覆し溺死してしまった(あるいは、船から降りる際に海に落ちて溺死してしまった)ということです。
この異説よりも、やはり有名な「イカロスの墜落」の方がドラマティックですね。
3.「イカロスの墜落神話」の教訓
ところでこの「イカロスの墜落神話」は、「テクノロジー批判神話」の一種であり、「人間の傲慢さが自らの破滅を導くという戒め・教訓」というのが一般的な解釈です。
しかし、楽曲「勇気一つを友にして」(*)のように、本来の教訓とは逆に、自らの手で翼を作り飛び立ったイカロスを「勇気の象徴」として表している例もあります。
(*)「勇気一つを友にして」は、ギリシャ神話に登場するイカロスの話を題材とした日本の楽曲です。作詞:片岡輝、作編曲:越部信義。
1975年10月-11月、NHKの『みんなのうた』で紹介されたギリシャ神話の『ダイダロスとイカロスの話』を題材にした歌で、1番から3番までは鳥の羽を着けたイカロスが天まで登るも墜落死するまでを描き、4番では現代の子供がイカロスの『鉄の勇気』を受け継ぐという内容になっており、元の神話とは逆の教訓となっています。
同曲は小学校高学年の課題曲として各社の教科書に掲載されてきました。
4.IKAROS
IKAROS(イカロス)とは、独立行政法人の宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究所(ISAS/JAXA)及び月・惑星探査プログラムグループ(JSPEC/JAXA)が開発した、小型ソーラー電力セイル実証機です。
名称は「太陽放射で加速する惑星間凧宇宙船」を意味する英語の「interplanetary kite-craft accelerated by radiation of the Sun」の頭字語であり、航空宇宙工学専門の森治氏により、ギリシア神話の登場人物の1人であるイカロスにちなんで命名されました。
金星探査機「あかつき」と共に、2010年5月21日に種子島宇宙センターから打ち上げられ、6月3日から6月10日にかけてセイルを展開し、7月9日に太陽光(太陽風ではない)による光子加速の実証が確認されました。12月8日には金星フライバイを実施しました。