日本の音楽家が一から作曲した唱歌集『尋常小学唱歌』(その5)

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尋常小學唱歌 第五學年

前に「欧米の民謡をカバーした明治時代初期の翻訳唱歌。原曲の外国民謡とは?」という記事を書きましたが、1910年(明治43年)には、日本の音楽家が一から作曲した唱歌集『尋常小学唱歌』が誕生しており、現代でも有名な唱歌が数多く掲載されています。

1.日本独自の唱歌誕生は明治末期

1911年(明治44年)から1914年(大正3年)にかけて文部省が編纂した『尋常小学唱歌』には、『春が来た』、『春の小川』、『かたつむり』など、現代でも広く知られる日本の代表的な唱歌が掲載されています。

『尋常小学唱歌』の特徴としては、それまで主流だった「翻訳唱歌」から脱却し、日本人の作曲家による日本独自のメロディと歌詞が用いられている点が挙げられます。

内容的には、1910年(明治43年)に発行された「尋常小学読本唱歌」がそのまま引き継がれており、第一学年用から第六学年用までの全6冊、各20曲で合計120曲が収録されています。

ちなみに、「文部省唱歌」という用語は、この『尋常小学読本唱歌』以降の唱歌を指します。「小学唱歌集」などの「翻訳唱歌」は「文部省唱歌」には含まれません。

2.尋常小学唱歌 第五学年

(1)鯉のぼり

甍(いらか)の波と 雲の波  重なる波の 中空(なかぞら)を

(2)海(松原遠く消ゆるところ)

松原遠く消ゆるところ

「松原遠く 消ゆるところ」が歌い出しの『海(うみ)』は、作詞・作曲者不詳の文部省唱歌です。1913年(大正2年)5月刊行の「尋常小学唱歌」第五学年用に掲載されました。

歌詞の「闇に著(しる)き」とは、夜の暗い闇の中でも形がはっきりと分かる様子を意味しています。また「いさご」とは、ごく細かい石、砂の意味で、砂子とも表記されます。

(3)冬景色 ふゆげしき

さ霧消ゆる 湊江の 舟に白し 朝の霜

『冬景色(ふゆげしき)』は、1913年(大正2年)刊行の「尋常小学唱歌」第五学年用』に掲載された文部省唱歌です。

歌詞の季節は冬の初め頃、1番は水辺の朝、2番は田園の昼、3番は里の夕方が描写されています。2007年(平成19年)に「日本の歌百選」に選ばれました。


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