日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.油を絞る(あぶらをしぼる)
「油を絞る」とは、過ちや失敗を厳しく責めてこらしめることです。
油を絞るは、胡麻や菜種、椿の実などを締め木に挟んで、強く圧力をかけて油を搾り取るところから生まれた言葉です。
室町時代には、他者にさんざん苦労させて、利益を自分のものにする意味でした。江戸時代には、無理やりにあるいは苦労を重ねて財産や利益を手に入れる意味で使われていました。
現代のように厳しく責め立てる意味で「油を絞る」が使われるようになったのは、明治以降のことです。
この意味での漢字表記は「油を絞る」ですが、植物油を採る意味では「油を搾る」と書きます。
2.泡を食う(あわをくう)
「泡を食う」とは、ひどく驚き慌てることです。
泡を食うの「泡」は、「あわてる(慌てる)」の「あわ」に「泡」を掛けた掛け言葉です。
泡を食うの「食う」は、「肩透かしを食う」や「門前払いを食う」などと同じく、他から好ましくない行為を蒙る、身に受けることを意味します。
「泡」と「食う」を合わせた「泡を食う」は、ひどく慌てさせられる事態に遭遇する意味になります。
「慌てる」の語源には「泡立つ」に由来する説があるため、泡は「あわてる」の「あわ」と掛けたものではないとの見方もありますが、「泡立つ」の説は不確かであることや、「泡を食う」の語が見られる江戸後期より遥か昔に「慌つ」の語が成立していることから、泡は「慌てる」の「あわ」と掛けたものと見て間違いありません。
3.相合傘(あいあいがさ)
「相合傘」とは、一本の傘に男女二人が一緒に入ることです。傘の柄の両側に男女の名前を書き、二人の仲を示す落書きの一種でもあります。「相傘」「最合傘(もやいがさ)」とも言います。
相合傘は江戸時代から用いられている語で、相合傘を書いて男女の間柄を表す落書きも江戸時代から見られます。
相合傘の「相合(い)」は、一緒に物事をしたり、共有・供用することの意味で、近所で共同に使う井戸の「相合井戸」、牛を供用する「相合牛」、男女二人が一本のキセルでタバコを吸う「相合煙管(きせる)」のほか、「相合炬燵」「相合蒲団」「相合駕籠」「相合袴」など、「相合」の語は広く用いられました。
「相」も「合い」も、動詞「合う」の連用形で、「互いに」「一緒に」を表します。
4.阿修羅(あしゅら)
「阿修羅」とは、インド神話の悪神です。血気盛んで常に闘争を好み、地下や海底にすむといわれています。「修羅」「あすら」とも言います。
阿修羅はサンスクリット語「asura」の音写。「asura」の「asu」は「命」、「ra」が「与える」を意味し、古代インドで阿修羅は生命生気を与える善神でした。
のちに、「a」が否定の接頭語、「sura」が「天」を意味することから、「asura」は「非天」などと訳され、帝釈天の台頭で、帝釈天に戦いを挑む悪神の役になっていきました。
そのため、阿修羅を略した「修羅」は、「修羅場(しゅらば)」や「修羅の巷(しゅらのちまた)」など、激しい戦闘や闘争、激しい怒りや情念に関する言葉に用いられるようになりました。
5.天下り(あまくだり)
「天下り」とは、高級官僚が退職した後、特権的に関連の深い民間会社や団体の高い地位に就くことです。
天下りは、動詞「天下る(天降る)」の連用形の名詞化です。
「天下り(天降り)」は元々 神道 の用語で、神が天上界から人間界に降臨する意味の言葉です。
『古事記』や『日本書紀』には「天孫降臨(てんそんこうりん」の神話があります。『万葉集』にも「葦原の瑞穂の国を安麻久太利知らしめしける」と見られます。
明治時代以降、官庁から民間への強制的な命令を「天下り」と言うようになり、これがさらに転じて、官僚が退職後に民間会社などの高い地位に就くことも言うようになりました。
現代では、世代ごとの出世競争決着ごとに同期の官僚に退職してもらって、若い官僚に回るようにピラミッド型の組織を新体制にするために行われます。
中途退職した官僚が出身官庁が所管する 外郭団体 、関連する 民間企業 や 独立行政法人・国立大学法人・特殊法人・公社・公団・団体などに最終到達ポストに応じた就職斡旋を受けることを指して批判的に用いられます。
民間企業 の上位幹部が 子会社 の要職に就く際にも使われる場合があります。
6.東屋/四阿(あずまや)
「あずまや」とは、庭園や公園に休憩所として設ける屋根と四方の柱だけの小さな建物のことです。「亭(ちん)」「四阿(しあ)」とも言います。
東屋の「東」は、都から見て東方に位置する地域のことで、「東人(あずまびと)」といえば軽蔑の意味を含めて「東国の人」「田舎者」を表します。
東屋(あずまや)は、「東国風のひなびた家」や「田舎風の粗末な家」の意味から生じた言葉です。
あずまやの漢字には、「東屋」のほかに「四阿(しあ)」もあります。「阿」には「棟」の意味があり、四阿は屋根を四方に葺きおろした小屋を表しています。