『古事記』に登場する日本の神々の系譜(その4)イザナギが生んだ三貴子

フォローする



神々の系図

前に「ギリシャ神話・ローマ神話が西洋文明に及ぼした大きな影響」という記事や、ギリシャ神話に登場する「オリュンポス12神」やその他の男神女神を紹介する記事を書きましたが、日本人としては日本神話である『古事記』や『日本書紀』に登場する神々についても知っておきたいものです。

なお、『古事記』や『日本書紀』については、「古事記は日本最古の歴史書で神話・伝説も多い。日本書紀は海外向け公式歴史書」「古事記の天地開闢神話をわかりやすく紹介!ただし荒唐無稽で矛盾も多い!」という記事も書いていますので、ぜひご覧ください。

今回はイザナギが生んだ三貴子について、わかりやすくご紹介したいと思います。

1.三貴子とは

「三貴子(みはしらのうずのみこ、さんきし)」とは『古事記』で「黄泉の国(よみのくに)」から帰ってきたイザナキが「禊(みそぎ)」(水浴)で黄泉の汚れを落としたときに最後に生まれ落ちた三柱の神々のことです。

イザナキ自身が自らの生んだ諸神の中で最も貴いとしたところからこの名が生まれました。「三貴神(さんきしん)」とも呼ばれます。

①天照大御神 (あまてらすおおみかみ/あまてらすおおかみ):イザナキの左目から生まれたとされる女神(本来は男神だったとする説もある)。太陽神。

②月読命 (つくよみのみこと/つきよみのみこと):イザナキの右目から生まれたとされる神(性別は記載していないが、男神とされることが多い)。夜を統べる月神。

③須佐之男命(すさのおのみこと) :イザナキの鼻から生まれたとされる男神。海原の神。

2.天照大御神

天照大神

「天照大御神(あまてらすおおみかみ)」(または「天照大神(あまてらすおおみかみ、あまてらすおおかみ)」は、日本神話に主神として登場する神です。女神と解釈され、高天原(たかまがはら)を統べる主宰神で、「皇祖神(こうそしん)」(皇室の祖)とされます。

『記紀』(古事記・日本書紀)においては、太陽神の性格と巫女の性格を併せ持つ存在として描かれています。神武天皇(じんむてんのう)は「来孫(らいそん)」(*)です。

(*)「来孫」とは、「玄孫」 の子を指します。 つまり、 「来孫」 はある人から見て 「子の子の子の子の子」「孫の曽孫」 「曽孫の孫」 のことです。

ちなみに神武天皇は「初代天皇」です。

「天照大御神」は、太陽神、農耕神、機織神など多様な神格を持っています。「天岩戸(あめのいわと/あまのいわと)」の神隠れで有名な神で、神社としては三重県伊勢市にある伊勢神宮内宮が特に有名です

海原を委任された須佐之男命は、イザナミのいる根の国に行きたいと言って泣き続けたためイザナギによって追放されました。

須佐之男命は根の国へ行く前に姉の天照大御神に会おうと高天原に上りましたが、天照大御神は弟が高天原を奪いに来たものと思い、武装して待ち受けました。

須佐之男命は身の潔白を証明するために誓約をし、天照大御神の物実(ものざね)から五柱の男神、須佐之男命の物実から三柱の女神が生まれ、須佐之男命は勝利を宣言します(「アマテラスとスサノオの誓約」)。

このとき天照大御神の物実から生まれ、天照大御神の子とされたのは、以下の五柱の神です

  • 正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命(まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと 天忍穂耳命)
  • 天之菩卑能命(あめのほひのみこと 天穂日命)
  • 天津日子根命(あまつひこねのみこと 天津彦根命)
  • 活津日子根命(いくつひこねのみこと 活津彦根命)
  • 熊野久須毘命(くまのくすびのみこと 熊野櫲樟日命)

これで気を良くした須佐之男命は高天原で乱暴を働き、その結果天照大御神は天岩戸(あまのいわと)に隠れてしまいました。世の中は闇になり、様々な禍が発生した。

思金神(おもいかねのかみ)と天児屋命(あめのこやねのみこと)など八百万(やおよろず)の神々は天照大御神を岩戸から出すことに成功し、須佐之男命は高天原から追放されました。

大国主神(おおくにぬしかみ)の治めていた葦原中国(あしはらのなかつくに)を生んだのは親であるイザナギとイザナミと考え、葦原中国の領有権を子の天忍穂耳命(あめのおしほみみのみこと)に渡して降臨させることにし、天津神(あまつかみ)の使者達を大国主神の元へ次々と派遣しました。

最終的に武力によって葦原中国が平定され、いよいよ天忍穂耳命が降臨することになりましたが、その間に邇邇芸命(ににぎのみこと)が生まれたので、孫に当たるニニギを降臨させました。

その時八尺鏡を自身の代わりとして祀らせるため、降臨する神々に携えさせました。

3.月読命

月読命

「月読命(つくよみのみこと/つきよみのみこと)」は、夜を統べる月神です。

『古事記』は月読命、『日本書紀』は月夜見尊などと表記します。一般的にツクヨミと言われますが、伊勢神宮・月読神社ではツキヨミと表記されます。

後世では一般に男神と考えられていますが、記紀では性別の記述はありません。

月を神格化した、夜を統べる神であると考えられていますが、異説もあります。天照大御神の弟神にあたり、須佐之男命の兄神にあたります。

ツクヨミは、月の神とされています。しかしその神格については文献によって相違があります。古事記ではイザナギが「黄泉国(よみのくに)」から逃げ帰って禊(みそぎ)をした時に右目から生まれたとされ、もう片方の目から生まれた天照大御神、鼻から生まれた須佐之男命とともに重要な三神「三貴子(みはしらのうずのみこ、さんきし)」(三柱の貴子)を成します。

一方、日本書紀ではイザナギとイザナミの間に生まれたという話、右手に持った白銅鏡から成り出でたとする話もあります。また、彼らの支配領域も天や海など一定しません。

この、太陽、月とその弟ないし妹という組み合わせは比較神話学の分野では、他国の神話にも見られると指摘されています。

日本神話において、ツクヨミは古事記・日本書紀の神話にはあまり登場せず、全般的にあまり活躍しません。わずかに日本書紀・第五段第十一の一書で、穀物の起源として語られるぐらいです。これはアマテラスとスサノオという対照的な性格を持った神の間に静かなる存在を置くことでバランスをとっているとする説があります。

同様の構造は、「高皇産霊尊(高御産巣日神・たかみむすび)」と「神皇産霊神(神産巣日神・かみむすび)」に対する「天之御中主神(あめのみなかぬし)」、「火折尊(火遠理命(ほおり)・山幸彦)」と「火照命(ほでり・海幸彦)」に対する「火酢芹命(火須勢理命・ほすせり)」などにも見られます。

ツクヨミの管掌は、古事記や日本書紀の神話において、日神たるアマテラスは「天」あるいは「高天原」を支配することでほぼ「天上」に統一されているのに対し、古事記では「夜の食国」、日本書紀では「日に配べて天上」を支配する話がある一方で、「夜の食国」や「滄海原の潮の八百重」の支配を命じられている箇所もあります。

この支配領域の不安定ぶりはアマテラスとツクヨミの神話に後からスサノオが挿入されたためではないかと考えられています。

ツクヨミはスサノオとエピソードが重なることから、一部では同一神説を唱える者がいます。

4.須佐之男命

「須佐之男命(すさのおのみこと)」は、海原の神です。

『古事記』では建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)、速須佐之男命、須佐之男命、『日本書紀』では素戔男尊、素戔嗚尊等、須佐乃袁尊、『出雲国風土記』では神須佐能袁命(かむすさのおのみこと)、須佐能乎命、神仏習合では牛頭天王などと表記されます。

罪の観念と関連があるものとされます。

神話上、現在の皇室とは、姉弟間の「アマテラスとスサノオの誓約」でうまれた男神正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命(あめのおしほみみのみこと)とその子で天孫降臨をした天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命(ににぎのみこと)を経て、スサノオは男系上の天皇の先祖(神武天皇の曾祖父)にあたります。

スサノオはアマテラスの疑いを解くために、「宇気比(うけひ)」(誓約)をしようと言いました。二神は天の安河を挟んで誓約(「アマテラスとスサノオの誓約」)を行いました。

まず、アマテラスがスサノオの持っている十拳剣(とつかのつるぎ)を受け取って噛み砕き、吹き出した息の霧から以下の三柱の女神(宗像三女神)が生まれました。

この三姉妹の女神は、アマテラスの「神勅」により海北道中(玄界灘)に降臨し、宗像大社の沖津宮、中津宮、辺津宮、それぞれに祀られています。

  • 多紀理毘売命(たぎりひめ/たきりひめ) – 別名:奥津島比売命(おきつしまひめ)。沖津宮に祀られる。
  • 多岐都比売命(たぎつひめ/たきつひめ) – 中津宮に祀られる。
  • 市寸島比売命(いちきしまひめ/いつきしまひめ) – 別名:狭依毘売命(さよりびめ)。辺津宮に祀られる。