日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.生贄(いけにえ)
「生贄」(犧、生け贄とも)とは、生きたままの人や動物を神に供えること、またその供え物のことです。転じてある物事のために犠牲になるという意味もあります。
生贄は、供えた後に殺すもの、殺してすぐに供えるもののほか、そもそも殺さずに神域(神社)内で飼う場合もあります。
『旧約聖書』『レビ記』にある贖罪の日に捧げられるヤギは、「スケープゴート」の語源となりました。
生贄を備える儀式を供犠(くぎ)と言い、動物だけでなく、人間を生贄として供える慣習もかつてはあり、これは特に「人身御供(ひとみごくう)」と呼ばれました。
いけにえの「いけ」は、生かしておく意味の動詞の連用形で、「生け花」「生簀(いけす)」「活け魚」の「いけ」と同じです。
生贄の「贄」は、神へ捧げる食物の意味で、多くは魚や鳥などを指しますが、新穀を指して言うこともあります。
「贄」の意味には植物である新穀や、死んだ動物も含まれるため、「生け」を付して生かしたままの状態であることを表しています。
生きたまま神に供えることは、死んでから供えるのと違い、そのために命を落とすことです。
そこから、「生贄」は何かのために犠牲になることの意味にも転じ、命に限らず、ある物事のために名誉や利益を投げ捨てることも意味するようになりました。
2.居丈高(いたけだか)
「居丈高」とは、人を威圧するような態度をとるさまのことです。「威丈高」とも書きます。
居丈高の「居」は、「居る」のこと。居るは「その場所に存在する」の意味で用いられる動詞ですが、元々は「座る」を意味します。
「丈」は、背丈のこと。つまり、居丈高は「座った姿勢で背が高く見えるさま、座った時の背が高いこと」が本来の意味です。
そこから、「背筋を伸ばして体を大きく見せる」という意味に転じました。
更に、そのような態度から、居丈高は「体を反らせて相手を見下す」「威圧するような態度をとる」の意味も表すようになりました。
なお、「居丈高」の「居(い)」が「威圧」の「威」から連想され、「威丈高」と表記されるケースもありますが、これは誤りです。
3.疣(いぼ)
「いぼ」とは、皮膚の一部が増殖変化して、小さく盛り上がったものや、物の表面の小さな突起のことです。
古くは「いひぼ(いいぼ)」と呼ばれており、「ひ(い)」が略されて「いぼ」になりました。
「いひぼ」は「飯粒」を表す言葉なので、皮膚にできる米粒のようなものとたとえたところからと考えられます。
漢字の「疣」は、病垂れに「犬」ではなく、「もっとも」に用いられる「尤」です。
元々、「尤」のみで「手にできたイボ」を表しましたが、「尤」が「目立つ」の意味で用いられるようになったため、「疣」が「イボ」を表すようになりました。
4.入れ墨/刺青(いれずみ)
「入れ墨(刺青)」とは、針や刃物で皮膚を傷つけ、肌に墨・朱・ベンガラ・カルミン・インディゴなどの色料を刺し入れ、文字や絵画などを描くことです。
入れ墨は、文字通り、墨を入れることからの名です。
刺青は「入れ墨」の別称で、本来は「しせい」と読むみますが、当て字として用いられるようになったものです。
谷崎潤一郎が明治43年(1910年)に発表した小説『刺青(しせい)』以降、特に「いれずみ」を「刺青」と表記することが多くなりました。
「刺青」のほか、「文身(ぶんしん)」や「黥(げい)」を「いれずみ」と読ませることもあります。
入れ墨は、前科のしるしとして行われた刑罰のひとつで、江戸時代には、上腕部を一周する単色の線が二、三本入れられました。
これは、古代中国の五刑のひとつ「黥(げい)」に由来します。
江戸時代、ファッションとしての入れ墨は「彫り物」と呼ばれ、刑罰の「入れ墨」と区別されました。現在「タトゥー」と呼ばれるものは、江戸時代で言えば「彫り物」です。
かつて橋下徹氏が大阪市長だった時に、市の職員に入れ墨があるかどうかを調査したことが問題になりましたが、このような調査を問題にする(一部の公務員が入れ墨をしていることを許容する)風潮はおかしいと私は思います。
民間企業のサラリーマンでは考えられないことです。健康診断などの際にすぐわかることですし、許されることではありません。橋下徹氏以前の市長が、組合の圧力に屈してそれを黙認して来たとしか考えられません。
最近オリンピックやパラリンピック、サッカーの試合などで、多くの選手がタトゥーをしているのを見かけますが、私は見苦しいと思います。少なくとも日本での試合においては、サポーターなどでそれを隠すような対応が取れないものでしょうか?
彫り物は、遊び人などの間で盛んに行われたものですが、自らが入れる入れ墨は、元々は、漁師が遭難で死んだ際の身元確認のためや、火消しの鳶が粋を見せるために行ったものであったと言われます。
刺青を入れることは、「入れる」「彫る」「刺す」と言うほか、「きざむ」「さく」「もどろく」などと言います。
5.一点張り(いってんばり)
「一点張り」とは、他を顧みず、ひとつの事だけを押し通すことです。
一点張りは、近世後期の博打用語に由来する言葉です。
さいころ博打や花札などで、同じところばかり賭け続けることを「一点張り」と言いました。
そこから、他の事をかえりみず、ひとつの事だけを押し通すことを言うようになりました。
「仕事一点張り」と言えば「仕事ばかりしてつまらない人」の意味、「仕事一筋」と言う場合は「ひたむきに仕事をする人」の意味で使われるように、普通「一点張り」にはマイナス要素が含まれ、「一筋」にはプラス要素が含まれています。