日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.求肥(ぎゅうひ)
「求肥」とは、白玉粉を蒸し、砂糖と水飴を加えて練り固めた和菓子の材料のことです。「求肥飴」「求肥糖」とも言います。
昔の求肥は、もち米の玄米で作られていたため浅黒く、牛の皮をなめしたように柔らかいことから「ぎゅうひ」と呼ばれるようになり、漢字では「牛皮」や「牛肥」と書かれました。
日本では仏教思想によって獣肉食を嫌ったことから、「牛」の漢字を忌み嫌い、「求肥」と表記するようになりました。
求肥は平安時代に唐から伝わったもので、中国では「牛脾」と書き、祭祀に用いられた。
2.金木犀(きんもくせい)
「キンモクセイ」とは、モクセイ科の常緑小高木で、中国南部原産です。秋に、強い芳香のある小花を密集して付けます。
原種のギンモクセイが白い花をつけるのに対し、この種は橙黄色の花をつけることから「キンモクセイ」の名が付きました。
「モクセイ」は漢名「木犀」の音読みで、樹皮が動物のサイの皮に似ている木の意味といわれます。キンモクセイが日本に伝来したのは、江戸時代です。
冬から春先の「ジンチョウゲ(沈丁花)」や夏の「クチナシ(梔子)」もそうですが、秋のキンモクセイも別名「九里香(きゅうりこう)」と呼ばれるように、遠くからでも芳香を感じることができます。
ちなみにキンモクセイ・ジンチョウゲ・クチナシは「日本の三大芳香木」です。
「金木犀」「銀木犀」を含む「木犀」は秋の季語で、次のような俳句があります。
・木犀の 昼は醒めたる 香炉かな(服部嵐雪)
・木犀の 香に染む雨の 鴉かな(泉鏡花)
・木犀に 人を思ひて 徘徊す(尾崎放哉)
3.夾竹桃(きょうちくとう)
「キョウチクトウ」とは、キョウチクトウ科の常緑低木で、インド原産です。夏に、紅色の花をつけます。
キョウチクトウは、中国を経由して江戸中期に渡来したもので、中国名「夾竹桃」の音読みです。
夾竹桃は、葉が細長く竹の葉に似ており、花が桃の花に似ていることからの名前です。
「夾」の字は「はさむ」を意味し、「夾竹桃」は竹と桃を混ぜたものを表しています。
キョウチクトウは、庭園樹や街路樹に使われますが、中毒事例がある「有毒植物」としても知られており、強力な毒成分(強心配糖体のオレアンドリンなど)が含まれ、キョウチクトウを燃やして出た煙にも残ります。
なお「有毒植物」については、「美しい花には毒がある。知らないと危険、身近な植物の毒性に注意!」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
「夾竹桃」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・夾竹桃 ブッダガヤなる 聖地あり(高澤良一)
・夾竹桃 まぼろしの湖(うみ) よぎり来て(巌谷小波)
・ヒロシマの 夾竹桃が 咲きにけり(西嶋あさ子)
4.岸(きし)
「岸」とは、陸地が海・川・湖・池などの水と接する所、水際・水辺、土地の切り立った所・崖のことです。
岸の語源は諸説ありますが、岸は水の陸の面を切り取って生じたもので、「きる(切る)」の「き」に接尾語の「し」が付いたとする説が妥当です。
その他、岸の「き」が「きわ(際)」「かぎり(限り)」「けわし(嶮し)」の意味。「し」が「たかし(高し)」「いし(石)」の意味とし、これらの組み合わせで複数の説があります。
5.規模(きぼ)
「規模」とは、物事の内容・仕組み・構造などの大きさのことです。
規模の「規」の字は、直線の棒2本を∧型に組み、その幅を半径として円を描いて見ることを表した漢字で、元は、円形を描く「コンパス」を意味しました。
「模」の字は、物の型や文様を表します。
「規」も「模」も「型・形」を表すところから、「手本」や「基準となるもの」の意味があり、規模は「正しい手本となる形象」を意味していました。
近代になると、「正しい手本」よりも「確かな形象」の意味が強くなり、正確な型を把握するうえで必要な「大きさ」の意味が加わったことから、規模は「大きさ」を表す語へと変わっていきました。
6.ぎゃふん
「ぎゃふん」とは、言い負かされて言葉も出ないさまのことです。多くは「と」を伴い、「ぎゃふんと言わせる」などと使われます。
二つの感動詞「ぎゃ」と「ふん」に由来します。
「ぎゃ」は驚き叫ぶさまを意味し、「ふん」は「ふむ」と同じ承諾を意味します。
ぎゃふんは明治時代以降に見られる言葉で、江戸時代には「ぎょふん」と言われていました。
「ぎょふん」は「魚粉」や「魚糞」という意味ではなく、「ぎょ」は「ぎゃふん」の「ぎゃ」と同じ感動詞です。
ぎゃふんの語源には、1837年に大塩平八郎が捕らえられた際、逢坂奉行町田有衛門に対し「義や噴なり、義や噴なり、悔しきかな」と訴え、この「義や噴なり」が転じたとする説もあります。
しかし、それ以前から「ぎゃふん」と同じ意味で「ぎょふん」が使われているため、大塩平八郎の言葉からという説は無理があります。
7.几帳面(きちょうめん)
「几帳面」とは、きちんとしていて、隅々まで規則正しくするさまのことです。
几帳面は、室内で貴人の座るそばに立て、間仕切りや風除けに用いられた家具の「几帳(きちょう)」(下の写真)に由来します。
几帳の柱の表面を削り、角を丸くし、両側に刻み目を入れたものを「几帳面」(下の画像)といいました。
几帳面は細部まで丁寧に仕上げてあることから、江戸時代以降、きちんとしたさまを表すようになりました。