日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.恵方巻(えほうまき)
「恵方巻き」とは、節分にその年の恵方を向いて食べると縁起が良いとされる太巻きのことです。「丸かぶり寿司」「恵方寿司」「吉方巻き」とも言います。
恵方巻きの起源は、江戸時代末期、大坂(大阪)の船場で商売繁盛の祈願をする風習として始まったものといわれますが、正確な起源は未詳です。
私は大阪府高槻市にずっと住んでいますが、子供の頃から節分に、母が作った「巻き寿司の丸かぶり」はしていました。「恵方巻き」という言葉は、大人になってから聞くようになりました。
この風習は一時廃れましたが、1970年代後半に大阪海苔問屋協同組合が道頓堀で行ったPRイベントによって復活し、関西地方では一般的な風習となりました。
1990年代前半には一部のスーパー、1990年代後半には一部のコンビニで全国販売されるようになり、2003年~2004年には全国のスーパー・コンビニで販売され大きく宣伝されたことから、節分に恵方巻きを食べる風習は急速に全国へ広まっていきました。
恵方巻きは、目を閉じて願い事を思い浮かべながら、恵方に向かって無言で一本丸ごとの海苔巻きを丸かぶりすることから、「丸かぶり寿司」や「丸かじり寿司」とも呼びます。
巻き寿司を切らず一本丸ごと食べるのは、「縁を切らない」という意味が込められています。
七福神にちなみ、かんぴょう・きゅうり・伊達巻き・うなぎなど七種類の具材を入れ、「福を巻き込む」という願いが込められた恵方巻きも多いようです。
余談ですが、近年大手コンビニで、アルバイト店員にまで「恵方巻きノルマ」が課され、ノルマが達成できなかった場合は買い取らせる「自爆営業」が行わているていたことが社会問題になりました。
2.江戸前(えどまえ)
「江戸前」とは、江戸近海で獲れる新鮮な魚介類のことです。
大阪の押し寿司・箱寿司を「大阪寿司」(下の写真)と呼ぶのに対して、東京の握り寿司は「江戸前寿司」と呼ばれますね。
「江戸前」は、文字通り「江戸の前方」のこと、つまり「江戸の前面にある海」を指したことから、江戸の近海で獲れる新鮮な魚介類を「江戸前」と称するようになりました。
そこから、浅草川や深川などで獲れるうなぎを「江戸前のうなぎ」と言うようになり、握りずしが人気を得るようになると、「江戸前寿司」と称するようになりました。
「江戸前寿司」は、江戸前の魚をネタにすることから呼ばれるようになったものですが、握りずしが江戸の発祥で「上方のすし」に対して「江戸風のすし」という意味が派生し、江戸風の事物、食の風味や人の性質など江戸の流儀であるものも「江戸前」と言うようになりました。
3.遠慮(えんりょ)
「遠慮」とは、人に対して、言葉や行動を控えめにすることや、辞退することです。
文字通り、遠慮は遠くを慮る(おもんぱかる)こと、遠い将来のことまでよく考えることが本来の意味でした。
その意味で「遠慮」が使われている言葉には、遠い将来のことを考えず目先のことばかり考えていると、近いうちに心配事が起きることを意味する慣用句「遠慮無ければ近憂あり」や、遠い将来のことまで考えて計画を立てることを意味する四字熟語「深謀遠慮」があります。
遠い将来のことをよく考えることは、すぐに行動をとらないことでもあるため、江戸時代頃から態度を控えめにすることを表すようになり、現代では言動を控えることや辞退する意味で「遠慮」が使われています。
4.縁側(えんがわ)
「縁側」とは、日本家屋で、座敷の外側に設けた細長い板敷きの部分のことです。
縁側は和語と漢語の混種語です。「縁」は「へり」「ふち」を表す漢語で「椽」とも書きます。「側」はその周辺を意味する和語です。
平安時代には、家または座敷の「へり」「ふち」の意味から、「縁(えん)」と呼ばれました。
室町時代頃、物のふちや側面を「側(旧かなは、かは・がは)」と言うようになり、江戸時代にこの二語が結びついて「縁側」という語が生まれました。
英語では「veranda(ベランダ)」や「porch(ポーチ)」とも訳されますが、縁側は玄関ではない上がり口を兼ねた日本家屋特有のものです。
「縁側」は季語ではありませんが、夏に縁側などに出て涼を求めてくつろぐことを「端居(はしい)」と言います。
・ふけわたる 草木の風に 端居かな(日野草城)
・端居して 足の蚊を打つ 音立てた(河東碧梧桐)