日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.お駄賃(おだちん)
「お駄賃」とは、簡単なことを頼んだときに、その労力に対して与える賃金のことです。特に、子供が手伝いなどをした時に与える金や菓子のことです。
元は荷物や人を駄馬に乗せて運ぶ際の運賃のことを「駄賃」と言い、運賃をとって荷物を運ぶ馬のことは「駄賃馬(だちんうま)」と言いました。
馬に乗せて運ぶだけの仕事に対する賃金の意味から転じ、簡単な仕事に対して支払う報酬を「駄賃(お駄賃)」と言うようになりました。
ちょっとした仕事に対する報酬の意味で「駄賃」が使われ始めたのは、江戸時代からです。
なお「行き掛け(ゆきがけ/いきがけ)の駄賃」とは、馬子 (まご) が問屋に荷物を取りに行く途中に、他の荷物を運んで得る駄賃のことです。転じて、事のついでに他の事をすることを言います。
2.御居処(おいど)
「おいど」とは、お尻のことです。
私の故郷である高槻市では、昔からお尻のことを誰でも普通に「おいど」と言っていました(最近は「お尻」という人が多くなりました)が、今では関西の方言のように思われていますね。
おいどの「お」は接頭語の「御」、「い」は「座る」を意味する古語「ゐる(居る)」の名詞形、「ど」は「場所・所」を意味する「と・ど(処)」です。
つまり、おいどは「座るところ」という意味から「お尻」の呼称となりました。
「おいど」は中世頃から上品な女性語として用いられましたが、現在では使用が減り、愛知と近畿以西の方言にみられる程度です。
3.大鋸屑(おがくず)
「おがくず」とは、のこぎりなどで木材をひいたときに出る木屑、「のこくず」のことです。
おがくずの「おが(大鋸)」は、二人がかりで挽く大きなのこぎりのことです。
「おが」で木材をひいたときに出る「くず」なので、「おがくず」と言うようになりました。
大きなのこぎりを「おが」というのは、「大(おお・おほ)」と「ががり」からなる「おおががり(おほががり)」が略されたものです。
「ががり」は、木をひく時の音から生じた「大鋸」の異名です。
余談ですが、私が小学生の頃、製材所の息子が、雑木林で捕まえたクワガタムシを大鋸屑を底に敷き詰めたガラス瓶に入れて学校に持ってきて、級友に見せびらかしていました。今のようにホームセンターに「腐葉土」が売っている時代でなかったからですが、懐かしい思い出です。
4.大詰め(おおづめ)
「大詰め」とは、物事の最終的な段階・局面のことです。
大詰めは、江戸の歌舞伎で時代物を演じる一番目狂言の最後の幕をいった言葉です。
そこから、物事の終わりの段階を「大詰め」と言うようになり、歌舞伎に限らず芝居や戯曲でも最終幕を言うようになりました。
世話物を演じる二番狂言の最後の幕は「大切(おおぎり)」といい、「大喜利」の語源でもあります。
5.及び腰(およびごし)
「及び腰」とは、腰が引けて不安定な腰つき、自信がなさそうな様子のことです。「へっぴり腰」とも言います。
及び腰の「及び」は、「達する」「届く」といった意味の動詞「及ぶ」の連用形です。
離れたところにある物を取ろうとする(届かせようとする)と、手足を伸ばして腰を浮かせた不安定な姿勢になることから、そのような腰つきを「及び腰」と言いました。
元々は姿勢についてのみいった言葉ですが、自信のない時にとる姿勢であることや、不安定な状態の意味から、自信なさげな態度や心理状態についても「及び腰」と言うようになりました。
6.おこわ
「おこわ」とは、もち米をせいろで蒸した飯のことで、狭義には赤飯のことです。
おこわは、元は女房詞で、「強飯(こわいい・こわめし)」の頭二音に接頭語の「お(御)」をつけた語です。「こわ(強)」は「かたい」の意味で、「怖い」と同源の「こわい(強い)」です。
一般に「おこわ」といえば、祝儀用に小豆を入れた「赤飯」を指します。
その他、不祝儀用には白大豆や黒豆を入れたものや、米だけの白蒸しもあり、食材を加えた「栗おこわ」や「山菜おこわ」などもあります。
余談ですが私は子供の頃、明治20年代に建てられた京町家に住んでいましたが、毎年正月用に家で餅つきをしました。また、かき餅も作っていました。
その時、もち米を蒸しただけの「白蒸し」のおこわを食べたのが懐かしい思い出です。