日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.お造り(おつくり)
「お造り」とは、魚の切り身、刺身のことで、主に関西で用いる言葉です。
お造りは、「つくり身」の「身」が略され、接頭語「お(御)」が付いた言葉で、元々は女性語です。
武家社会では「切る」という語を忌み嫌ったことから、「刺身」の「刺す」と同様に、関西では魚を切ることを「つくる(作る・造る)」と言い、刺身は「つくり身」と言いました。
ただし、関西でも儀式料理では「刺身」が正式な呼び方で、淡水魚も「お造り(つくり身)」ではなく「刺身」と呼ばれていました。
現代では、「造る」という言葉の意味からか、綺麗に盛り飾られた切り身や、尾頭付きの切り身を「お造り」と呼び、飾り気のない切り身を「刺身」と呼ぶ傾向にあります。
2.大蛇(おろち)
「おろち」とは、きわめて大きなヘビのことです。「蟒蛇(うわばみ)」とも言います。
おろちの「お(旧かなは「ヲ」)」は、「尾」の意味です。
「峰(ヲ)」や「丘(ヲ)」の意味とする説もありますが、元を辿れば「尾」との混同から生じた説です。
おろちの「ろ」は助詞で、現代で使われている助詞の中では「の」に相当する語です。
おろちの「ち」は、「いかづち(雷)」や「みずち(水霊)」の「ち」と同じ、霊力や霊的な力をもつものを表す語です。
つまり、おろちは「長い尾の神」の意味と考えられます。
「おろち」と言えば、日本神話に登場する「素戔嗚尊(スサノオノミコト)」(『古事記』では須佐之男命)によって退治された「八岐大蛇(ヤマタノオロチ)」(『古事記』では八俣遠呂智)が有名ですね。
3.おじや
「おじや」とは、雑炊(ぞうすい)のことです。
おじやは、「じや」に接頭語の「お」を付けた元女房詞です。
「じや」は煮える時の音か、「じやじや」と時間をかけて煮る様子を表した語と言われます。
近世には「じゃじゃ煮る」といった例が見られます。
おじやの語源には、「深鍋」や「煮込み料理」を意味するスペイン語「olla(オジャ)」に由来するといった俗説があります。
しかしこれは、オジャという煮込み料理がおじやと似ており、発音も近いことから生まれた説で、元は女房詞であった言葉がスペイン語に由来するはずがありません。
「雑炊」との違いは、米飯を一度洗ってぬめりを取り、サラッと仕上げたものが「雑炊」、それ以外のものが「おじや」と言われたり、味噌味のものが「おじや」で、それ以外が「雑炊」などと言われます。
近世前期には「おじや」と並んで「おみそ」や「いれみそ」の記述があることから、当初は味噌味の雑炊を「おじや」と呼んでいたとも考えられますが、現代では明確な区別などなく、人それぞれ異なります。
4.御虎子(おまる)
「おまる」とは、幼児や病人が用いる、持ち運びのできる便器のことです。
おまるの「お」は接頭語の「御」、「まる」は大小便をする意味の動詞「まる(放る)」です。古くは、単に「まる」と呼んでいました。
漢字に「御虎子」が当てられるのは、その形状が虎の子のようであることからと思われます。
おまるが「まる」と呼ばれた時代から、「虎子」の漢字は用いられています。
稀に「御丸」と表記されることもありますが、「御丸」は女房詞で「腰」や「団子」など丸い形状のものを指す言葉なので、便器のおまるに当てる漢字としてはふさわしくありません。