日本語の面白い語源・由来(お-⑳)十八番・御襁褓・お母さん・親

フォローする



十八番

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.十八番(おはこ/じゅうはちばん)

歌舞伎十八番

十八番」とは、最も得意な芸や技のことです。

江戸中期の歌舞伎から出た言葉で、本来の読みは「じゅうはちばん」です。

七代目市川団十郎が、市川家代々の芸である十八種類を選定した『歌舞伎十八番(歌舞妓狂言組十八番)』を天保3年(1832年)の3月に発表したことで、この言葉は世に定着しました。

十八番を「おはこ」と言うようになったのは、『歌舞伎十八番』の台本を箱に入れて大切に保管していたことからとする説と、箱の中身を真作と認定する鑑定家の署名を「箱書き」と言い、認定された芸の意味から「おはこ」になったとする説があります。

『歌舞伎十八番』の説が有名ですが、柳亭種彦の歌舞伎の草双紙『正本製(しょうほんじたて)』(文化12年~天保2年)でも、「十八番」を「おはこ」と読ませているため、「箱書き」に由来すると考えるのが妥当です。

「十八」という数字は、「十八界」という仏教で存在の領域を18に分類した言葉があり、「十八」という数字の「必要なもの全て」といった意味からとする説もありますが未詳です。

」は、能や狂言などを数える単位です。

十八番の意味は、最も得意とする芸や技から転じ、よくする動作や行動・口癖などにも用いられるようになりました。

ちなみに、『歌舞伎十八番』は、外郎売(ういろううり)、嬲(うわなり)、押戻(おしもどし)、景清(かげきよ)、鎌髭(かまひげ)、関羽(かんう)、勧進帳(かんじんちょう)、解脱(げだつ)、毛抜(けぬき)、暫(しばらく)、蛇柳(じゃやなぎ)、助六(すけろく)、象引(ぞうびき)、七つ面(ななつめん)、鳴神(なるかみ)、不動(ふどう)、不破(ふわ)、矢の根(やのね)の十八種です。

ところで、プロ野球のエース投手(新人ながらエース投手としての活躍が期待されるルーキーを含む)の背番号も「18」ですね。DeNA(横浜ベイスターズ)では以前、「ハマの番長」こと三浦大輔投手(現監督)が付けていました。

2022年各球団の「18」は下記の選手が背負っています。

ヤクルト:寺島成輝投手
阪神:馬場皐輔投手
巨人:菅野智之投手
広島:森下暢仁投手
中日:梅津晃大投手
DeNA:小園健太投手
オリックス:山本由伸投手
ロッテ:二木康太投手
楽天:田中将大投手
ソフトバンク:武田翔太投手
日本ハム:吉田輝星投手
西武:不在(松坂大輔の引退で空き番)

巨人・菅野智之やオリックス・山本由伸、楽天・田中将大ら球界を代表する投手が背負う一方、日本ハム・吉田輝星や阪神・馬場皐輔、ヤクルト・寺島成輝らはドラフト1位で入団して「18」を与えられました。2020年の新人王に輝いた広島の森下暢仁は、かつて佐々岡真司監督やメジャーで活躍する前田健太のエースナンバーを受け継ぎました。

野球という競技において「18」は投手の番号だという明確な決まりなどありませんが、いつからか背番号18は日本におけるもっとも有名な“エースナンバー”となりました。

背番号18がエースナンバーとして定着した理由は諸説あります。古くは歌舞伎の十八番(おはこ)から来ているという説もありますが、なかでも大きなポイントとなったのは、巨人の中尾碩志や阪神の若林忠志といった日本プロ野球黎明期に活躍したピッチャーたちがそろって「18」を着けていた、ということです。

その中尾碩志から「18」を受け継いだ藤田元司が「18はエースナンバーだ」と中尾から言われたという述懐もあり、少なくとも巨人では1950年代の後半頃から18=エースという認識があったと推測できます。

巨人の「18」はその後も堀内恒夫、桑田真澄という大投手へと受け継がれていき、それを見ていた少年たちの心の中にも「18」は特別な番号として刷り込まれていったのでしょう。

“平成の怪物”として鳴り物入りでプロの世界に入った松坂大輔も、西武に入団した時の背番号は「18」です。入団会見では桑田への憧れを口にしていました。その松坂も日米を股にかけて活躍する球界のエースへと成長を遂げ、子どもたちの憧れの的となりました。

こうした長い年月をかけて、いつしか「18」は巨人だけでなく、日本球界における特別な番号になった、と考えられます。

2.御襁褓(おむつ)

おむつ

おむつ」とは、大小便の汚れを受けるために、乳幼児や病人、お年寄りなどの股に当てる布や紙のことで、「おしめ」とも言います。

おむつは、「むつき(襁褓)」に接頭語「お」が付き、「き」が略された語です。

むつきは、現在とほぼ同じ赤ちゃんに着せる肌着や産衣、ふんどしなどの意味で、平安時代から用いられていました。

むつきの語源は、「身(む)」助詞「つ」「着(き)」とする説や、「睦衣(むつきぬ)」や、「紐付(ひもつき)」など諸説ありますが、正確な語源は未詳です。

「襁」の漢字は「衣」+「強」で、「丈夫な」「きつく締める」の意味があり、赤ん坊を背負う帯を表します。

「褓」は「衣」+「保」で、「外から包む」の意味があり。産衣(うぶぎ)を表します。

3.お母さん(おかあさん)

お母さん

おかあさん」とは、母親の敬称です。

おかあさんは、武家の母や妻女を「御方様(おかたさま)」と呼んでいたことに由来します。

「おかたさま」から夫が妻を「かたさま」と言うようになり、子供がそれを真似た「かかさま」「かあちゃん」「かか」「おっかあ」を経て、現在の形となりました。

上流階級の奥方を「北の方」と呼んだことから「おかたさま」になり、上記のような流れで「おかあさん」になったとする説もあります。

「北の方」は寝殿造りの北の対屋(たいのや)に住んでいたことに由来しますが、「北の方」ではなく「対屋」から、「おかあさん」をいう御所言葉「おたあさん」「おたたさん」が生まれていることや、「方」は「北の方」に限らず使われている語なので、「北の方」を「おかたさま」の語源とする説は、御所言葉の語源と混同されたものと考えられます。

「おかたさま」は他人の母や妻などを指す言葉なので成立しにくいとし、子供が不完全な発音しかできず、「はは」から「かか」になり、「おかあさん」という言葉ができたとする説もあります。

江戸末期、武家社会では「おかあさま」「かかさま」、庶民階級では「おっかさん」「おっかぁ」が使われており、明治末期に『国定教科書』で「おかあさん」が採用されました。

しかし、「おかあさん」は「おかあさま」よりも丁寧さに劣り、「おっかさん」より馴染みが薄いことから、『国定教科書』は「おかあさん読本」と呼ばれ、上流階級にも庶民階級にも受け入れられませんでした。

しかし、時とともに違和感を感じる人は減り、現代では「おかあさん」が最も一般的な敬称になっています。

4.親(おや)

親

」とは、子を生んだ者、または子として養う者のことです。また、父と母の総称です。

親の語源は、「子・小(こ)」に対して、「老(おゆ)」「大(おお)」の意味と関連付ける説が有力とされていますが、正確な語源は未詳です。

古くは、父・母に限らず、祖父母・曾祖父母など祖先の総称として、「おや」という語は用いられていました。

「親」の漢字の由来は、木の上に立って子供の帰りを見ている様子を表したものではなく、親の左側は「薪(しん)」の原字で、木をナイフで切ったなま木を表したものです。

それに「見」を加えた「親」の漢字は、ナイフで身を切るように身近に接して見ていることで、じかに刺激を受けるような非常に近い間柄を意味しています。