日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.お陰様/お蔭様(おかげさま)
「おかげさま」とは、感謝の気持ちを表す言葉で、挨拶の言葉としても用います。
おかげさまは、他人から受ける利益や恩恵を意味する「お陰」に「様」をつけて、丁寧にした言葉です。
古くから「陰」は神仏などの偉大なものの陰で、その庇護(ひご)を受ける意味として使われています。
これは、「御影(みかげ)」が「神霊」や「みたま」「死んだ人の姿や肖像」を意味することにも通じます。
接頭語に「お」がついて、「おかげ」となったのは室町時代末頃からです。
悪い影響をこうむった時にも「おかげさま」が使われるようになったのは、江戸時代からです。
余談ですが、江戸時代には「おかげ参り」という伊勢神宮参拝旅行の大流行がありました。これについては、「おかげ参りおかげ参りの流行とええじゃないか騒動はどうして起きたのか?」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
2.御神籤(おみくじ)
「おみくじ」とは、神仏に祈って事の吉凶を占うための籤(くじ)のことで、文字や符号などを記した紙片・紙縒り(こより)・木片などを引くものです。
おみくじは、「くじ」に接頭語の「み(御)」が付いた「みくじ(御籤)」に、さらに「お(御)」が付いた語で、本来の漢字表記は「御御籤」です。
「御神籤」の「み」を「神」と書くのは当て字です。
接頭語の「おみ(御御)」が「御神」になっている言葉には、「御神酒(おみき)」や「御神輿(おみこし)」があります。
神仏と関係ない場合は、「御御御付け(おみおつけ)」のように「神」の字が当てられていません。
くじの語源には、以下の通り諸説あります。
①棒状の物を使うことが多いため、「串(くし)」からとする説。
②箱などに入った物を引き当てることから、えぐって中の物を取りだす意味の「抉る(くじる)」が転じたとする説。
③神仏による審判と考え、訴訟や審理・裁判を意味する「公事(くじ)」の転とする説。
「おみくじ」については、「おみくじで凶が出た時の対処法は?その他おみくじにまつわる話をご紹介!」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
また、明智光秀は、「本能寺の変」の前に愛宕神社のくじを何回も引いたという話も残っています。一応表向きは毛利攻めの戦勝祈願ということになりますが、謀反成功祈願の内意があったかもしれません。
一回目が「凶」、二回目も「凶」、三回目も「凶」だったと言われています。私は個人的には宗教や占いをあまり信用していませんが、これは「本能寺の変」の失敗を暗示しているようでもあります。
これについては、「麒麟がくる(来年の大河ドラマ)の主人公は明智光秀!謎の人物像に迫ります」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
3.鬼(おに)
「鬼」とは、人の形をしているが、角(つの)や牙(きば)を持ち、超自然的な力を有する想像上の怪物・妖怪のことです。
なお、ほかにも死者の霊魂・亡霊(「鬼哭(きこく)」「鬼神」「幽鬼」)、死者・あの世(「鬼籍」「鬼録」など)、冷酷な人間のたとえ(「鬼畜」「殺人鬼」)や人間技とは思われない優れた才能の意味(「鬼才」)もあります。
中国では「魂が体を離れてさ迷う姿」「死者の亡霊」の意味で、「鬼」の字が扱われていました。
日本では奈良時代に「鬼」の字が使われていますが、魔物や怨霊などを「物(もの)」や「醜(しこ)」と呼んでいたため、この字も「もの」や「しこ」と読まれていました。
「鬼」が「おに」と読まれるようになったのは平安時代以降で、『和名抄』には、姿の見えないものを意味する漢語「隠(おん/おぬ)」が転じて、「おに」と読むようになったとあります。
そこから人の力を超えたものの意となり、後に、人に災いをもたらす伝説上のヒューマノイド(人間によく似た・人間にそっくり)のイメージが定着し、さらに陰陽思想や浄土思想と習合し、地獄における十王配下の獄卒であるとされた、とも考えられます。
古くは、「おに」と読む以前に「もの」と読んでいました。平安時代末期には「おに」の読みにとって代わられた「もの」ですが、奈良時代の『仏足石歌』では、「四つの蛇(へみ)、五つのモノ、〜」とあり、用例が見られ、『源氏物語』帚木には、「モノにおそはるる心地して〜」とあります。これらの「モノ」は怨恨を持った霊 = 怨霊であり、邪悪な意味で用いられます(単なる死霊ではなく、祟る霊)。
「鬼」と言えば、源頼光が大江山に住む「酒吞童子」という鬼を退治した話が有名ですね。
4.男(おとこ)
「男」とは、人の性のうち、女でない方の性で、女を妊娠させるための器官や生理を持ちます。
男は「をと+こ」からなり、「をと」は若いを意味しました。
「をとこ」の「こ」は、「彦(ひこ)」などと同様に、男女の対立を示す「こ」です。
昔は成人に達した若い男子の意味として、「をとこ」が使われていました。
現代では「男」の対義語は「女」となりますが、昔は「結婚適齢期に達した若い女性」を意味する「乙女(をとめ)」が対義語でした。
5.男前(おとこまえ)
「男前」とは、男らしい顔つきや態度、男振りのよいことです。
男前の語源には、歌舞伎に由来する説があります。
歌舞伎の世界で「前」は「動き」を意味し、男の役者は動いている姿の美しさが評価の大きな基準でした。
そのため、男に「前」を付けて、「男前」と呼ばれるようになったとするものです。
しかし、この説は歌舞伎用語が語源となっている言葉が多いため、「男前」も歌舞伎に関連するものとして作られた俗説のようです。
男前の「前」は、「腕前」や「一人前」などと同じく接尾語で、その属性や機能を強調する意味として、人に関する名詞の後に付けられるものと考えるべきだと思われます。
6.お辞儀(おじぎ)
「お辞儀」とは、頭を下げて礼をすること、頭を下げて挨拶することです。
お辞儀の「お」は、接頭語の「御」です。
お辞儀の語源は、物事を行うのにちょうど良い時期を意味する「時宜(じぎ)」で、「辞儀」の表記は江戸時代からです。
平安時代には本来の意味で使われていましたが、鎌倉・室町時代には様々な意味で使われるようになりました。
「ちょうど良い時間・頃合」の意味から、「時間」の意味が希薄になり、お辞儀は「物事が成立するのにちょうど良い状況・事態」の意味となりました。
さらに、「状況に対する考えや気持ち」「状況を見極めて対処すること」を意味するようになりました。
考えや気持ちなどを表す用法から、積極的に物事に関わる意向の意味が派生し、この意向が他人への配慮や心配になり、中世末期には、お辞儀が挨拶の意味になりました。
お辞儀が挨拶に伴って頭を下げる動作の意味に限定されるのは、江戸時代後期からです。
余談ですが、「お辞儀」は他の国にもあると思いますが、とりわけ日本人の誇るべき行動様式(行儀、美徳)だと私は思います。
しかし、団塊世代の私が受けた戦後教育はアメリカ礼賛・アメリカ一辺倒で、「日本人がお辞儀するのは、欧米人から見ると卑屈そのものだ。欧米人は頭など下げずに相手の目を見てがっちり握手する。日本人もそのようにしないと笑われる」という自虐史観同様の考え方の教師がいました。
このような戦前と180度違う教師の姿勢は、日本人の無節操な国民性をよく表わすエピソードです。
7.お早う(おはよう)
「おはよう」とは、朝、人に会った時の挨拶の言葉です。
おはようの語源は、「お早く◯◯ですね」などの「お早く(おはやく)」です。
この「お早く」が転じて、「おはよう」となりました。
「おはよう」はその日初めて会った人に言うことから、芸能界や夜の商売など一部の業界では、夜でも人に会った時の挨拶として「おはよう」を用います。