日本語の面白い語源・由来(お-24)置行堀・お八つ・御侠・おちゃっぴい・落とし前

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『本所七不思議之内 置行堀』三代目 歌川国輝・画

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.置行堀/置いてけぼり(おいてけぼり)

置いてけ堀

置いてけぼり」とは、置きざりにすることです。「置いてきぼり」とも言います。

置いてけぼりは、「江戸本所七不思議」のひとつ「置いてけ堀」の故事に由来します。

その故事とは、夕方に堀で釣った魚を魚籠(びく)に入れて帰ろうとすると、釣った魚を堀に返すまで、堀の中から「置いてけ、置いてけ」という声が聞こえたという話です。
この堀が何処であるかは、「錦糸堀」や「亀戸東方の堀」など諸説あります。

「置いてきぼり」は、「置いてけぼり」が転じた語です。
「置いてきぼり」を使う人が多くなった時代があり、この言い方も一般化しているため、「置いてけぼり」と「置いてきぼり」のどちらが正しいということはなく、どちらを使っても間違いではありません。現代では、「置いてけぼり」が多く使われています。

余談ですが「江戸本所七不思議」とは本所(東京都墨田区)に江戸時代ころから伝承される奇談・怪談です。江戸時代の典型的な「都市伝説」の一つであり、古くから落語など噺のネタとして庶民の好奇心をくすぐり親しまれてきました。いわゆる「七不思議」の一種ですが、伝承によって登場する物語が一部異なっていることから8種類以上のエピソードが存在します。

  • 置行堀(おいてけぼり)
  • 送り提灯(おくりちょうちん)
  • 送り拍子木(おくりひょうしぎ)
  • 燈無蕎麦(あかりなしそば)別名「消えずの行灯」
  • 足洗邸(あしあらいやしき)
  • 片葉の葦(かたはのあし)
  • 落葉なき椎(おちばなきしい)
  • 狸囃子(たぬきばやし)別名「馬鹿囃子(ばかばやし)」
  • 津軽の太鼓(つがるのたいこ)

2.お八つ(おやつ)

おやつ

おやつ」とは、主に午後食べる間食のことで、「お三時(おさんじ)」とも言います。

おやつの「やつ」は、江戸時代の言葉で、午後二時から四時までをさす「八つ」です。

江戸時代中期頃までは一日二食だったため、八つ刻(やつどき)に「小昼(こびる)」といって間食をしたことから、この時間の間食を意味するようになり、やがて他の時間でも、間食は「おやつ」と呼ばれるようになりました。

また、京阪の本願寺では、二時頃に修行の合図として太鼓を叩いていたことから、敬語の「お」がつき「お八つの太鼓」と呼ばれていたため、間食の「おやつ」にも接頭語「お」が付けられたとされます。

おやつを漢字では、「御八つ(お八つ)」と書きます。

3.御侠/お侠(おきゃん)

おきゃん

おきゃん」とは、活発でやや軽はずみな若い女性(また、そのようなさま)のことです。現在はあまり使われず、死語となっています。

おきゃんは、漢字で「御侠」と書かれ、接頭語の「御」と「任侠」などの「侠」の字を唐音読みした「侠(きゃん)」からなります。

元々は、接頭語の「お」を付けない「きゃん」の形で使われ、勇み肌で粋なことや人を意味しました。そのような性格であれば、男女問わず使われていました。

若い女性のみを指す言葉になったのは、「お」が付いて「おきゃん」の形になった明治時代以降です。

4.おちゃっぴい

おちゃっぴい

おちゃっぴい」とは、おしゃべりで活発な女の子(また、そのようなさま)のことです。

江戸時代の遊郭で、客に出すお茶を挽く仕事を暇な遊女にさせていたことから、暇な遊女を「お茶挽き(おちゃひき)」といい、その「お茶挽き」の変化した言葉が「おちゃっぴい」です。

客もつかず、お茶ばかり挽いているような遊女たちは、おしゃべりでしとやかさに欠けている者が多かったことから、「おしゃべりで活発な女の子」を意味するようになり、同時に遊女以外の女の子に対しても使われるようになりました。

昭和後期あたりから、長音を表す「ー」を用いた「おちゃっぴー」や、「ぃ」を用い「おちゃっぴぃ」と表記される例も見られるようになりました。

5.落とし前(おとしまえ)

落とし前

「落とし前」と言えば、任侠映画や現代アニメなどのセリフで「落とし前つけろ!」と、ドスの利いた声で脅迫的に言いがかりをつけるシーンを思い出します。

落とし前」とは、失敗や無礼などの後始末のことです。「落とし前をつける」と用います。

落とし前は、香具師の間で使われていた「隠語です。
露店などで客と折り合いをつけるため、適当なところまで値段を落とすことを「落とし前」と言っていました。

その意味から、もめごとなどの仲に立って話をつける意味になり、さらに転じて、失敗や無礼などの後始末をすることを「落とし前」と言うようになりました。