日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.蒲鉾(かまぼこ)
「かまぼこ」とは、白身魚のすり身に味をつけて練り、蒸し煮やあぶり焼きなど加熱した食品のことです。
かまぼこは、古くは細い竹を芯にしてすり身を塗りつけて焼いたものを意味し、その形がガマの穂(下の写真)に似ていることから「蒲の穂」と呼ばれていました。
「蒲の穂」から転じた由来は、「蒲穂子(がまほこ)」と言われていたものが訛ったとする説と、蒲の穂は「鉾(ほこ)」に似ているため「がまほこ」と呼ばれていたことから、「かまぼこ」になったとする説があります。
現代で一般的な「板付きかまぼこ」は、桃山時代に考案されたものです。
板付きかまぼこの登場により、それまで「かまぼこ」と呼ばれていた竹に塗りつけたものは、「竹輪(ちくわ)」と呼ばれるようになりました。
かまぼこは白身魚を原料としますが、近年では、赤身魚を原料とする「かまぼこ(くろぼこ)」も作られるようになりました。
2.かやくご飯/加薬ご飯(かやくごはん)
「かやくご飯」とは、主に関西でいう言葉で、「五目飯(ごもくめし)」「加薬飯(かやくめし)」のことです。
かやくご飯の「かやく」は、「火薬」ではなく「加薬」と書き、本来は漢方薬の効果を高めるために補助的な薬を加えることや、その薬をいう漢方の用語です。
その補助的な意味から、五目飯やうどんに入れる具(主材料を引き立たせる副材料)を「かやく」と言うようになり、五目飯を「かやくご飯」と呼ぶようになりました。
食物に添え、料理の味を引き立たせる香辛料も「かやく」と言っていましたが、現在では「薬味(やくみ)」と呼ぶことが多くなっています。
3.鏡餅(かがみもち)
「鏡餅」とは、丸く平らに作った餅で、正月や祝い事のとき、神仏に供えるものです。「お供え」「おかがみ」とも言います。
鏡餅は、丸く平らで鏡の形に似ていることからこの名が付きました。
現代の鏡は四角いものが多いですが、古くは円形で祭具として用いられ、特別な霊力を持つものと考えられていました。現代でも神社の御神体として、円形の鏡が祭られています。
室町時代、武家では正月に鎧や兜の前に鏡餅を供えたことから、鎧や兜を意味する「具足(ぐそく)」の餅で「具足餅」と呼ばれました。具足の前に鏡餅を供えたのは男子で、女子は鏡台の前に供えていました。
新年を迎える際に鏡餅を飾る風習は、紀元前の垂仁天皇の時代、大物主神の娘である大田田根子に、大国主命が「元日、荒魂の大神に紅白の餅を祭れば幸福が訪れる」と教えたことに由来すると言われます。
ただし、垂仁天皇の時代の話は全般に真実性に欠けると見られており、鏡餅の風習についても断定されるものではありません。
なお鏡餅については「鏡餅が二段重ねの理由は何か?鏡餅や鏡開きにまつわる面白い雑学をご紹介!」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
「鏡餅」は新年の季語で、次のような俳句があります。
・正月を 出して見せうぞ 鏡餅(向井去来)
・つぎつぎに 子ら家を去り 鏡餅(加藤楸邨)
・かゞみ餅 蜜柑はうまき 時分也(森川許六)
4.体/躰/躯/身体(からだ)
「体」とは、人や動物の頭から足先までの肉体の全部、健康状態、体力のことです。
体は「殻(から)」に接尾語「だ」が付いた語です。
古くは、魂に対してそれを宿している身体、生命のこもらない肉体を「からだ」と言い、魂を宿した肉体は「身(み)」と言いました。つまり、身の外形部分が「体」でした。
平安時代には、セミが脱皮した後の抜け殻や死体などの意味で用いられ、いわゆる「亡骸(なきがら)」を指していました。
余談ですが、セミの抜け殻を集めてセミの寿命の常識を覆した高校生の話を「セミの寿命は1週間という常識を疑う。岡山県の高校生が1カ月と実証!」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
「からだ」は漢文訓読語で、平安時代の和文には見られず、代わりに「から」が用いられました。一般的な語として「からだ」が用いられるようになったのは、室町時代以降です。
1603年の『日葡辞書』では、意味として「死体」「むくろ」「しかばね」と解説していますが、「時には生きた体の意にも用いる」ともあり、この頃には魂と体を区別して考えることが、少なくなってきたと考えられます。
やがて、頭から足先までの全てを指す語として定着し、生きていることを前提とした用法が多くなり、健康状態や体力の意味でも使われるようになりました。
5.掛け替えのない(かけがえのない)
「かけがえのない」とは、無くなったら他に代わりとなるものがない、このうえなく大切なことです。「かけがえない」とも言います。
掛け替えは「かけかえ」とも言い、「いざという時に代わりとなるもの」「予備として用意しておく同種のもの」を意味します。
それが無いのであるから、「この上なく大切な」という意味で、「かけがえのない人」や「かけがえない命」などと用いられます。
掛け替えの語源は、弓の弦を指す言葉とする説もありますが、衣服や刀なども「掛ける」と言うことから、特定の物を指した言葉ではないとも考えられ、語源は未詳です。
弓をひく際に用いる皮製の手袋を「鞣(かけ)」と言い、弓道では弓以上に大切なものとされているため、「鞣替え(かけがえ)」が転じ「掛け替え」になったとも言われます。
しかし、用例は見られないため、弓の弦の説に後付けされたもののようです。