日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.鬘/カツラ(かつら)
「かつら」とは、髪の薄い人や芝居などで髪型を変えるために頭に被る髪です。
かつらの語源は、「髪蔓(かみつら)」か、「髪」を「か」と読んだ「髪蔓(かつら)」と考えられます。
「つら」は植物の「つる(蔓)」の古形で、上代のかつらは花や羽、蔓草などの髪飾りをいったことから、この「髪蔓」の説が有力とされています。
その他、かつらの語源には、「髪」と「連なる(連ねる)」の「つら」を関連付けた説もあります。
余談ですが、近世ヨーロッパの有名な作曲家の肖像画の「カツラ」の謎については、「なぜ、バッハやモーツァルトはあんなカツラをかぶっていたのか?」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
2.蝸牛/カタツムリ(かたつむり)
「カタツムリ」とは、陸生有肺類巻貝で雌雄同体です。頭部に二対の触角があり、長い方の先端に目があります。「でんでんむし」「マイマイ」とも言います。
カタツムリの「カタ」は、「笠に似た貝」「笠を着た虫」の意味で「笠」が語源です。
かつての笠は、縫い糸を螺旋状に縫ったため、「貝」の形容ともされています。
カタツムリの「ツムリ」は、「つぶら」「つぶり」「つぶろ」と同系で貝の呼称です。
これらの語は、丸くて小さいものを表す「粒」と同源で、円い渦巻き状のものに多く見られ、「まいまいつぶり」や「まいまいつぶろ」もこの語系からです。
古くは「かたつぶり」と呼ばれており、それが変化して「かたつむり」となりました。
その他、「片角振り・形角振り(かたつのふり)」が転じて「かたつむり」になったとする説もありますが、有力とはされていません。
漢字の「蝸牛」は、カタツムリの別名「かぎゅう」からの拝借です。
なお、「デンデンムシ」の語源は、子供たちが殻から出ろ出ろとはやし立てた「出ん出ん虫」(「出ん」は出ようの意)からとの説があります。
「マイマイ」の語源は、「デンデンムシ」と同様に子供たちが舞え舞えとはやし立てたことに由来するとの説があります。
余談ですが、『梁塵秘抄』に次のような歌があります。
舞へ舞へ蝸牛
舞はぬものならば馬の子や牛の子に蹴ゑさせてむ 踏み破らせてむ
実に美しく舞うたらば 華の園まで遊ばせむ
これは、「踊れ、踊れカタツムリよ。踊らないならば、馬の子や牛の子に蹴らせてしまおう。踏ませて割ってしまおう。本当にかわいく踊ったならば、花園まで連れてって遊ばせてやろう」という意味です。
この歌は、『梁塵秘抄』(*)に収録されている歌の中でも特に有名です。
(*)平安時代末期に編まれた歌謡集。今様歌謡の集成。編者は後白河法皇。治承年間(1180年前後)の作
宴会の席で、車座になってこの歌をはやすように人々が歌う真ん中で、白拍子が踊ったのでしょうか。気取りのない楽しい囃し歌です。滑稽で享楽的な華やかさのある歌です。
同時に、「舞はぬものならば」に、言うことを聴かないなら殺してしまうよと言うような、この時代の強硬な面もはっきりと打ち出されているようです。
いかにも謡うための言葉、という感じがします。『今様』が舞や踊りと密接に結びついた「歌謡」であるということが、本当に良くわかる歌だと思います。
寂蓮法師(1139年頃~1202年)の歌に、この今様をもとにしたと思われる「牛の子に踏ますな庭のかたつむり角のあるとて身をなたのみそ」というのがあります。こういうのも本歌取りというのでしょう。
「蝸牛」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・かたつぶり 角ふりわけよ 須磨明石(松尾芭蕉)
・ころころと 笹こけ落ちし 蝸牛(杉山杉風)
・夕月や 大肌ぬいで かたつむり(小林一茶)
・親と見え 子と見ゆるあり かたつぶり(炭 太祗)
3.河童(かっぱ)
「河童」とは、口先が尖り、頭上に皿とよばれるくぼみがあり、背中には甲羅がある水陸両生の想像上の動物です。「きゅうり」の異称でもあります。
河童は、河などに棲むと考えられた子どもくらいの大きさの動物のため、「河(かは)」と「童(わらは)」が合成された「かはわらは」が訛って「かはわっぱ」に変化し、短くなって「かっぱ」になったとする説が有力とされます。
河童は泳ぎが得意とされるため「水泳の上手な人」を言ったり、水中に引き入れる伝説から「客引き」や「呼び込み」のたとえとしても呼ばれます。
なお河童については、「河童とはどんな妖怪?その正体とは?柳田国男の遠野物語の河童伝説も紹介」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
「河童」は季語ではありませんが、「河童忌(かっぱき)」という夏の季語があります。これは小説家芥川龍之介(1892年~1927年)の忌日(7月24日)です。「河童忌」は、1927年に「改造」に発表した短編小説のタイトル「河童」に由来します。我鬼忌、芥川忌、龍之介忌、澄江堂忌とも言います。
4.我利我利亡者/ガリガリ亡者(がりがりもうじゃ)
「我利我利亡者」とは、自分の利益だけを考えている人を罵(ののし)っていう語です。
我利我利亡者は、明治以降に見られる語です。
「ガリガリ」は、硬い物を噛み砕いたりする時などに発する音で、むさぼるように貪欲なことを連想させ、自分の利益や欲望のために物事に打ち込む様子を表します。「ガリ勉」の「ガリ」も、この意味からです。
「ガリガリ」と言えば、「ガリガリ君」というアイスキャンディーを思い出しますね。
「亡者」は「死んだ人」の意味ですが、特に、成仏できずにさまよっている魂を言います。
そこから、「金の亡者」や「権力の亡者」など、執念にとりつかれた人を言います。
「貪欲」を意味する「ガリガリ」と、執念にとりつかれた人を意味する「亡者」が合わさり、「ガリガリ亡者」という言葉ができました。
漢字で「我利我利亡者」と表記するのは、意味をわかりやすくするために当てられた当て字です。
「ガリ勉」という言葉もありました。これは主に学校等の環境で人並み以上に熱心に、または異常なほど勉学に励む人物を指す言葉です。
一般的には、あまり肯定的な意味で使われることは少なく、勉強ばかりしている無趣味でつまらない人間、あるいはそこまで勉強に時間を割かなければ学力が追いつかない地頭や要領の良くない人物、という批判的・嘲笑的な意味合いで使われることが多い言葉です。
なお「ガリ」は、甘酢ショウガのことであり、生姜の調味酢漬 です。
5.カンカン帽(かんかんぼう)
「カンカン帽」とは、麦わら帽子の一種です。麦わらを固く編んで作った、頂が平らでつばのついた男子用の帽子です。
カンカン帽は、麦稈真田(ばっかんさなだ)という麦わらを平たくつぶして真田紐のように編んだ素材をプレスで固く成型し、ニスや糊でぬり固めてあります。
そのため、叩くと「カンカン」と音がするほど固いことから、「カンカン帽」と呼ばれるようになりました。
カンカン帽が固く作られたのは、水兵や船乗りの被る帽子が水しぶきで損傷するため、軽くて耐久性のあるものをと考案されたのが始まりと言われます。
日本では、明治末から昭和初期まで流行しました。
カンカン帽は、落語家の月亭可朝さん(1938年~2018年)のトレードマークでもありましたね。