日本語の面白い語源・由来(く-④)隈取リ・俱利迦羅紋紋・軍艦巻き・草・車・唇・口

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隈取り

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.隈取り(くまどり)

隈取り・歌舞伎

隈取り」とは、歌舞伎で役柄を強調するために施す独特の化粧法のことです。日本画(東洋画)で、遠近や高低を表すために墨や色をぼかして描くこと。暈染(うんぜん)。「暈取り」とも書くきます。

隈取りの「」は、道や川の曲がって入りくんだ所や、そのような所にできる物陰をいう語です。
そこから、「隈」は濃い色と薄い色、光と陰の境界部分、濃い色や陰の部分も表すようになりました。

さらに、色彩で濃淡や陰影をつけることを「隈取る(くまどる)」と言うようになり、名詞化して「隈取り」となりました。

歌舞伎の隈取りは、初代市川團十郎(団十郎)が人形浄瑠璃からヒントを得て、紅と墨を用いて化粧したのが始まりといわれます。

2.俱利迦羅紋紋(くりからもんもん)

くりからもんもん

くりからもんもん」とは、背中一面に彫った倶利迦羅竜王の入れ墨(また、その入れ墨をした人)のことです。入れ墨。

くりからもんもんの「くりから(倶利迦羅)」は、サンスクリット語「Kulika(Kulikaraja)」の音写で、不動明王の変化身「倶利迦羅竜王」のことです。
倶利迦羅竜王の形像は、火炎に包まれた竜が岩の上に立った宝剣に巻きつき、呑み込もうとしているさまで表されます。

くりからもんもんの「もんもん(紋紋)」は、模様の意味の「紋」を重ねた語か、火炎に包まれた竜から「燃え燃え」の意味といわれますが、前者の「模様」が語源と考えられます。

本来、くりからもんもんは倶利迦羅竜王の入れ墨を指す語ですが、背中一面に彫られることから「大きな入れ墨」についても言うようになり、そこから、単に「入れ墨」も言うようになりました。

「入れ墨」を指して「もんもん」と言うのも、「くりからもんもん」からです。

「入れ墨」については、「幸は手枷の象形文字。辛は入れ墨をする為の針の象形文字」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。

3.軍艦巻き(ぐんかんまき)

軍艦巻き

軍艦巻き」とは、握ったすし飯の側面を海苔で巻き、イクラやウニなど崩れやすいネタを乗せた寿司のことです。

軍艦巻きの名前は、横から見た姿が軍艦に似ていることから付いたものです。

軍艦巻きを考案したのは、昭和16年、東京銀座の高級寿司店『久兵衛』の主人で、常連客の「イクラの寿司が食べたい」という要望から考えたものといわれます。

現在では、イクラの軍艦巻き以外にも、カニ味噌やネギトロなど、柔らかくて崩れやすいネタを使った様々な軍艦巻きが作られるようになりました。

4.草(くさ)

草

」とは、植物で地上に現れている部分が柔軟で、木質の部分が発達しないものです。草本(そうほん)。ネット用語で、笑い。面白い。

草の語源は、「カサカサ」「グサグサ」といった音からとする説や、「毛」から分化したとする説
「クサフサ(茎多)」の約略や、毎年枯れることから「腐る」の意味など諸説ありますが、どれも説得力に欠けます。

「く」は「木」が「コ」「キ」「ク」と母音変化することから、「茎」の「く」と同じく「木」を表したものと考えられます。

「さ」は接尾辞「さ」で、木が硬くて大きく真っ直ぐなのに対し、草は柔軟で短いことから、木と区別するために加えられたものと考えられます。

ネット用語の「草」は、元々「(笑)」と書いていたものが変化を繰り返した結果です。

海外ゲームでローマ字入力しかできない時、「笑」を「warai」と表記するようになり、短縮されて「w」と書くようになりました。

その後、笑いの度合いを「w」の数で表すようになったことで、「wwwww」などは草原のように見えることから、「マジ笑える」の意味で「マジ草生える」と表現されるようになり、「草」が「笑」を意味する文字となりました。

5.車(くるま)

車・レクサス

」とは、を中心に回る仕組みの輪、車輪、車輪を回転させて進むようにした乗り物や運搬具のことです。自動車・自転車・荷車。

くるまの「くる」は、物が回転するさまを表す「くるくる」や、目が回る意味の「くるめく(眩く)」などの「くる」で擬態語です。

くるまの「」は、「わ(輪)」の転と考えられます。

単に「車」と言った場合、現代ではふつう「自動車」を指しますが、中古・中世には「牛車」、明治・大正時代には「人力車」を指すのが一般的でした。

漢字の「車」は、車輪を軸でとめた二輪車を描いた象形文字です。

6.唇(くちびる)

唇

」とは、口の入り口の上下にある、薄い皮で覆われた柔らかい部分です。飲食・発音・呼吸の際、重要な役割を果たします。口唇(こうしん)。「脣」とも書きます。

唇は、口のふちにあることから「くちへり(口縁)」の転か、「くちへら(口辺)」の意味と考えられています。

上代には清音で「クチヒル」と言っていたようで、奈良時代の仏典には「脣」に「久知比流」の訓が見られます。

「くちびる」と濁音化された例は、平安末期の漢和辞書『類聚名義抄』に見られます。

漢字の「唇」や「脣」の「辰」は、「振」や「震」にも用いられているように、ふるえることと関係しています。

「辰」の原字は、貝殻からびりびりふるえる柔らかい貝の足が出た姿を描いた象形文字で、「唇」の字は柔らかくてふるえるくちびるを表していました。

7.口(くち)

口

」とは、動物が飲食物を取り入れる器官、また、発音・発声するための器官です。中には歯や舌があります。口腔(こうこう・こうくう)。

口は飲食物を取り入れる器官であることから、「クフトコロ(食処)」の略か、「クヒミチ(食路)」の略と考えられます。

また、「ち」が付いて古くからある言葉は「霊」を表すことが多いため、「く」は「食」を意味し、「ち」は「霊」を意味している可能性もあります

口は飲食に関するたとえとして用いられるほか、体に取り入れる最初の器官であることや、発声もする器官であることから、入り口や最初、声や話・噂、数の単位など、さまざまな意味で用いられます。