日本語の面白い語源・由来(け-②)鶏口牛後・嗾ける・獣・謦咳に接する・剣幕・元気

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鶏口牛後

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.鶏口牛後(けいこうぎゅうご)

鶏口となるも牛後となるなかれ

鶏口牛後」とは、大きな団体や集団の下っ端として使われるより、小さな組織でも、その長となるほうがよいということです。

鶏口牛後の出典『史記』蘇秦伝です。

中国戦国時代、強国の秦に屈して臣下に成り下がるか、秦と戦うか迷っていた韓の恵宣王に対し、遊説家の蘇秦が「鶏口となるも牛後となるなかれ」と言って、戦う道を説いたという故事に由来します。

鶏口牛後の「鶏口」は鶏のくちばしの意味で、小さな組織の長のたとえ。「牛後」は牛の尻の意味で、大きな組織の末端に連なる者のたとえです。

中小企業の経営者が若者を採用する時の口説き文句かもしれません。しかし「寄らば大樹の陰」で、大企業や公務員を目指す若者が多いのも現実です。

2.嗾ける(けしかける)

けしかける

けしかける」とは、犬などに声をかけて勢いづけ、相手に立ち向かわせる。おだてたり、そそのかしたりして、自分に都合が良いように行動させることです。

けしかけるは室町時代から見られる語で、この頃は、犬などを相手に向かわせる意味のみでした。
「けし」は犬を煽り立てる時の掛け声「けしけし」で、その声をかけて相手に向かわせることを「けしかける」と言いました。

人を煽動する意味で「けしかける」と使うようになったのは、江戸時代からです。

江戸時代の国語辞書『俚言集覧』には、「シキシキ」という犬を励ます言葉があることから、「行け行け」の意味で「シキシキ」や「シケシケ」と言っていたものが、転倒して「けしけし」となり、「けしかける」の語が生じたともいわれます。

「けしけし」の掛け声も「行け行け」の意味で使われていたと思われますが、文献上は「けしかける」よりも遅くに「シキシキ」が登場するため、「けしかける(けしけし)」と「シキシキ」の関係は定かではありません。

3.獣(けもの/けだもの)

獣

けもの」とは、全身に毛が生え、四足で歩く哺乳動物のことです。

けだもの」は、全身に毛が生え、四足で歩く哺乳動物のほか、人間としての義理や人情のない人をののしり卑しんでいう語です。

けものは「毛物」の意味です。
けだものは「毛の物」の意味で、「だ」が「の」を示す助詞になっている語には「くだもの(果物)」があり、「水無月(みなづき)」や「神無月(かんなづき)」の「な(無)」にも通じます。

現代では他人を卑しめて呼ぶ語として「けだもの」が用いられる以外、「けもの」と「けだもの」は違いなく使われていますが、古くは区別していることもありました。

「獣道」は「けものみち」であって「けだものみち」とは言わないように、「けもの」は「毛物」のうち野生を指す言葉として使われ、漢字には「獣」が当てられていました。

一方、「けだもの」は「毛物」のうち家畜を指す言葉として使われ、漢字には「畜」の字が当てられていました。私より上の世代の人は、「畜生(ちくしょう)」とか「犬畜生(いぬちくしょう)」などとよく言っていました。

そのため、「けだもの」と呼ばれていた動物は少なく、牛・馬・羊・犬・豚・鶏の6種だけでした。

鶏は鳥類なので四足で歩く哺乳類には該当しませんが、家畜であり歩く動物であることから、「けだもの」に含まれていたのです。

4.謦咳に接する(けいがいにせっする)

謦咳に接する

謦咳に接する」とは、尊敬する人に直接お目にかかることや、その人の話を直接聞くことです。謦咳に触れる。

」も「」も「せき」を意味し、「謦咳」は咳払いのことです。

間近で咳払いを聞けるだけで幸せであるという意味から、尊敬する人と直接会ったり、話を聞くことを「謦咳に接する」や「謦咳に触れる」と言うようになりました。

出典は『荘子 除無鬼篇』とされますが、「謦咳でもすれば、なおさら嬉しいことだろう」という表現で、「謦咳に接する」の意味と直接結び付くものではありません。

漢語の例は上記以外になく、日本で使用例が見えるのは明治以降です。

5.剣幕/権幕/見幕(けんまく)

剣幕

剣幕」とは、いきり立った態度や顔つき、怒って興奮した様子のことです。

剣幕は、脈をみて診断する意味の「見脈(けんみゃく)」に由来します。
見脈は診断の意味から、外見から推察することや、脈の激しい状態を意味するようになりました。

そこから、怒って興奮している様子をいうようになり、意味の変化に伴って「けんまく」の音に変化しました。

剣幕の語源には、「険悪(けむあく)」の連声(前の音節の末尾の子音が、後の音節の語頭の母音と結びつき、別の音節を作ること)とする説もあります。

しかし、意味の繋がりに欠け、「見脈」が「けんまく」の意味で用いられた例もあることから、「見脈」が語源で間違いないと思われます。

漢字の「剣幕」「権幕」「見幕」は全て当て字で、他に「剣脈」の表記も見られます。

6.元気(げんき)

元気

元気」とは、活動の源となる力、体の調子がよく健康で勢いのよいことです。

元気を古くは減気と書き病気の勢いが衰えて快方に向かうことを表しました。
近世には「験気」と書き、治療などの効果が現れて気分がよくなることの意味となりました。

さらに、活動の源となる力や活力の盛んなさまを意味するようになり、漢字も「元気」になりました。

この意味と漢字の変化には、中国で万物生成の根本となる精気を表す「元気」との混同があったと考えられています。