日本語の面白い語源・由来(こ-⑧)志・甲烏賊・海鼠腸・小鰭・今年・瘤・杮寿司

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クラーク博士像

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.志(こころざし)

志

明治時代の「お雇い外国人」だったクラーク博士の「Boys, be ambitious.」(少年よ大志を抱け)という有名な言葉がありますね。

」とは、心に決めた目標・目的、信念、志操、相手を思う気持ち、人に対する厚意や、謝意・好意などの気持ちを表すために贈る金品のことです。

志は、動詞「こころざす」の連用形が名詞化した語です。

「こころざす」は、心がある方向を目指す意味の「心指す」が語源です。

漢字の「志」の士印は、進み行く足の形が変形したもので、心が目標を目指して進み行くことを表しています。

2.甲烏賊(こういか)

甲烏賊

コウイカ」とは、胴長約16センチのコウイカ科のイカです。肉が厚く、刺身・するめなどにします。ハリイカ。スミイカ。マイカ。

「紋甲イカ(もんごういか)」が馴染み深いですね。

コウイカは、外套膜内部の背側に、「舟」と呼ばれる舟形をした石灰質の甲をもつことから付いた名です。この甲は、貝殻の痕跡といわれます。

コウイカの墨は絵の具にされ、コウイカのラテン語名は「セピア」の語源になっています。

「烏賊」「烏賊釣」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・銀行員等 朝より蛍光す 烏賊のごとく(金子兜太)

・七月の 行方烏賊釣 火は沖へ(原 裕)

・烏賊釣火 束ねて大き 月懸る(渡辺恭子)

3.海鼠腸(このわた)

このわた

このわた」とは、ナマコ(海鼠)のはらわたで作った塩辛のことです。「日本三大珍味」(ウニ・カラスミ・このわた)の一つです。

」は「ナマコ」の古名で、「わた」は「はらわた」の意味です。

つまり、「こ(ナマコ)」の「わた(はらわた)」なので、「このわた」という名がつきました。

江戸時代、越前のウニ、長崎のカラスミとともに、三河のこのわたは「天下の三珍味」といわれました。

寒中に作ったものや、腸の長いものが優良品とされます。

「海鼠腸」は冬の季語で、次のような俳句があります。

・カウンターの 端で海鼠腸 すすりをり(山尾玉藻)

・海鼠腸と 読むにしばらく 間のありし(水谷芳子)

・海鼠腸に 無頼のこころ 制しけり(大串章)

4.小鰭(こはだ)

コハダ

コハダ」とは、「コノシロ(鮗)の10cm~15cm程度のもののことです。酢の物や寿司種などにします。

コハダは、江戸前寿司では代表的な光り物で、体表が柔らかく光沢があって美しい魚です。

コハダの語源は、その体表を子供のような肌にたとえた「子肌」の意味といわれます。

漢字「小鰭」の「鰭」は、「魚のヒレ」をいう古語「ハタ(鰭)」からの当て字である。

「小鰭」「鮗(このしろ)」は秋の季語です。

5.今年(ことし)

お正月

今年」とは、現在の年、今の年のことです。こんねん。

今年を「ことし」と読むのは、「こんとし」が変化したのではありません。

「ことし」の語が「今の年」を表すことから、当てられた漢字が「今年」です。

「ことし」の「」は、「ここ(此処)」や「これ(此れ)」など、「場所」「物」「事柄」などを指し示す「こ(此)」で、「この年(此年)」の意味です。

古くは、「此季」や「今歳」「是歳」に、「ことし」の読みが付されました。

「今年(ことし/こんねん)」「去年今年(こぞことし)」は新年の季語で、次のような俳句があります。

・又ことし 娑婆塞ぎぞよ 草の家(小林一茶)

・しらしらと 今年になりぬ 雪の上(伊藤松宇)

・去年今年 貫く棒の 如きもの(高浜虚子

6.瘤(こぶ)

瘤

こぶ」とは、打撲や病気によって、皮膚や臓器の一部が盛り上がったもののことです。たんこぶ。物の表面の盛り上がった部分。紐の結び目。厄介なもの。邪魔なもの。

こぶの語源には、昆布によって治すところからといった説もありますが、「こぶ(昆布)」と「こぶ(瘤)」を掛けた俗信に合わせたものです。

盛り上がった塊が「こぶ」と呼ばれていなければ、この俗信すら生まれていないので「昆布」と語源は関係ありません。

「かぶ(株)」「かぶ(頭)」「かぶら(蕪)」などの「かぶ」などは、丸い塊という意味で共通しており、「こぶ」はこれらの語と同源と思われます。

「こぶし(拳)」の下略といった説もありますが、「こぶし」の語源のひとつに「こぶ」もあり、断定は困難です。

江戸時代以降、こぶがあると邪魔となることから、「厄介なもの」の意味でも「こぶ」が用いられるようになりました。

子供がいることを「こぶつき」などと言うのも、自分の分身ではあるが、再婚などのさまたげとなり、邪魔に感じることから出た表現です。

漢字の「瘤」は、病垂れに「留」で、出口をふさがれたしこりや腫れ物を表しています。

7.杮寿司/こけら寿司/こけら鮨(こけらずし)

こけら寿司

「杮寿司(こけらずし)」は、字がよく似ていますが、奈良・和歌山の有名な「柿の葉寿司(かきのはずし)」(下の画像)とは全く関係ありません。

こけらの漢字「杮」は「柿」と似ていますが別字で、「柿」の旁(つくり)は鍋蓋に「巾」、「杮」は旁の縦棒が一本で貫かれており鍋蓋ではありません。

こけら・かき

「柿の葉寿司」は、一口大の酢飯(すめし)に鯖・鮭・海老などの切り身と合わせ、柿の葉で包んで押しをかけた寿司です。

柿の葉寿司

こけら寿司」とは、魚肉・野菜を薄く切り、板のように飯の上に並べ押して四角に切ったすしのことです。鱗鮨。

こけら寿司は、薄く切った魚肉などを飯の上に並べた姿が、こけら板(屋根を葺くのに用いるスギやヒノキなどの薄い削り板)に似ていることから付いた名です。

家を建てた際、祝いの寿司として食べたことから、「こけら落とし」にちなみ「こけら寿司」と呼ぶようになったとも言われますが、そのような風習がない地域でも「こけら寿司」と呼ばれており、「こけら寿司」の呼称の方が先にあったと思われます。

魚を使い、「鱗」の字は「こけら」とも読むことから、こけら寿司は「鱗鮨」とも表記されます。

なお「杮(こけら)」と「柿(かき)」の違いについては、「杮落とし(こけらおとし)の杮と柿の木(かきのき)の柿の違いとは?」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。