日本語の面白い語源・由来(さ-④)百日紅・賽の河原・三面記事・鷺・桜草・さもしい・山茶花

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サルスベリ

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.百日紅/猿滑/サルスベリ(さるすべり)

サルスベリ

サルスベリ」とは、中国南部原産のミソハギ科の落葉高木です。紅・淡紫・白などの六弁花をつけます。ヒャクジツコウ。

サルスベリは樹皮が滑らかで、木登りが得意なサルさえ滑り落ちて登れないことからの名前です。

「ヒメシャラ」や「リョウブ」の別名として「サルスベリ」が用いられるのも、樹皮が滑らかなところからです。

サルスベリの別名には「サルナメリ」があり、「ナメリ」は「滑る」からですが、古くは「サルスベリ」ではなく「ブナ」を指していました。

漢字の「猿滑」は語源通りです。

「百日紅」は長期に渡って花が咲き続けることに由来します。

中国名の借用で、「百日紅」は「ヒャクジツコウ」とも読みます。

「百日紅」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・散れば咲き 散れば咲きして 百日紅(加賀千代女

・百日紅 ややちりがての 小町寺(与謝蕪村

・寺の門に 猿曳憩ふ 百日紅(寺田寅彦)

2.賽の河原(さいのかわら)

賽の河原

賽の河原」とは、子どもが死んでから行くといわれる冥土の三途の川のほとりの河原のことです。無駄な努力のたとえ。西院の河原。斎院の河原。

賽の河原は、仏教の地蔵信仰と民間信仰の道祖神「塞の神(さえのかみ)」が習合したというのが通説です。

また、地蔵や小石塔が建てられ、庶民の葬送が行われた山城国佐比河原(京都の鴨川と桂川の合流地点)に由来するともいわれます。

賽の河原には、親に先立って死んだ小児が石を拾って、父母供養のために塔を作ろうとするが、石を積み上げると鬼が来て塔を壊してしまい、これを地蔵菩薩が救うという話があります。

しかし、この話は仏典に典拠がなく、民間信仰による俗信です。

この俗信から、「賽の河原」は無駄な努力のたとえに用いられるようになりました。

3.三面記事(さんめんきじ)

ウィークエンダー

かつて「テレビ三面記事 ウィークエンダー」(日本テレビ系列、土曜夜10時~10時55分)という人気番組がありました。司会が漫画家の加藤芳郎で、レポーターとして泉ピン子や桂ざこば(当時は桂朝丸)などが出演していました。

ウィークエンダー

三面記事」とは、新聞の社会面の記事のことです。事件や事故など一般社会の雑多なニュースを扱った記事。

明治初期頃の新聞は、「大新聞」と「小新聞」という区別がありました。
呼称は紙面の大きさの違いによるものですが、記事の内容や読者層も異なっていました。

大新聞は知識人や旧士族が対象で、政治議論を主に編集されました。
小新聞は大衆向けで、かわら版や洒落本の流れに属する読み物が中心でした。

明治20年代に入ると、「独立新聞」と呼ばれる大新聞と小新聞の両方の性質を持った新聞が創刊されました。

独立新聞のひとつである『万朝報(よろずちょうほう)』が、四面(4ページ)あるうちの三面(3ページ目)に著名人のスキャンダルなど社会の雑多な記事を掲載したことから、社会面の記事は「三面記事」と呼ばれるようになりました。

その後、他の新聞も同じような構成で編集するようになり、「社会面の記事=三面記事」で定着しました。

4.鷺(さぎ)

鷺

サギ」とは、ペリカン目サギ科の鳥の総称です。くちばし・首・脚が細長く、水辺に生息します。

サギの語源には、以下の通り諸説あります。

①羽が白いことから「サヤケキ(鮮明)」の意味。
②鳴き声が騒がしいことから、「サヤギ(騒)」の意味。
③「サケ(細毛)」や「サケ(白毛)」など、羽毛に由来する説。
④「キ(ギ)」は「トキ」「シギ」などと同じく「鳥」を意味する接尾語、「サ」が「白」を表し、「白い鳥」の意味。
⑤水辺の鳥なので、「イサ(磯)」に「キ(鳥を表す接尾語)」が付いたとする説

漢字の「鷺」は、「鳥」+音符「路」からなる形声文字です。
「路」は「露(透き通る白いつゆ)」に通じ、「鷺」は「透き通るように白い鳥」を表します。

「白鷺」「青鷺」は夏の季語で、「冬鷺」は冬の季語です。

・白鷺の 海へ吹かるゝ 青嵐(呑仙)

・夕風や 水青鷺の 脛をうつ(与謝蕪村)

・冬の鷺 一歩の水輪 つくりけり(好井由江

5.桜草(さくらそう)

桜草

サクラソウ」とは、低湿地に自生するサクラソウ科の多年草です。観賞用にも栽培され、多くの品種があります。英語でprimroseと言います。プリムラ。

サクラソウの語源は、花の形が桜の花に似ていることに由来します。

サクラソウの花色は、紅紫色だけでなく、白や黄色など多くの種類があります。

「桜草」は春の季語で、次のような俳句があります。

・我国は 草もさくらを 咲きにけり(小林一茶

・咲きみちて 庭盛り上る 桜草(前田青邨)

・雨音に 心ゆるべば 桜草(中村汀女

6.さもしい

さもしいパパパパさもしい

さもしい」とは、意地汚い、心が卑しい、浅ましい、姿がみすぼらしいことです。

さもしいは、漢語「沙門(さもん)」を形容詞化したとする説が有力とされています。

沙門」は「僧侶」を意味するサンスクリット語の「sramana」を音写した語で、托鉢僧のみすぼらしい姿から、「沙門」を形容詞化し「さもしい(さもんしい)」の語が生じたといわれます。

他に、「さまうし(様憂し)」の転や、「さまあし(様悪し)」といった説があります。

さもしいは、シク活用であることから、「さまあし(様悪し)」の転は十分に考えられます。

さもしいには漢字がなく、当て字の例も見られません。

7.山茶花(さざんか)

山茶花

サザンカ」とは、山地に自生するツバキ科の常緑小高木です。垣根などに観賞用としても栽培されます。

サザンカは、中国語でツバキ科の木を「山茶」と言い、その花を「山茶花」と称したことに由来します。
山茶」と呼ばれる由来は、葉がお茶のように飲料となることから、「山に生える茶の木」の意味です。

日本では中世に「山茶花」の名が現れ、当時は「サンザクヮ(サンザカ)」と文字通りの発音でしたが、倒置現象によって、江戸中期頃から「サザンクヮ(サザンカ)」となりました。

古く「山茶花」は「ツバキ」と同じ意味の漢語として扱われ、『日葡辞書』でも「ツバキと呼ばれる木の花」と解説されていましたが、江戸時代に入り、現在でいう「サザンカ」を指すようになりました。

「山茶花」は冬の季語で、次のような俳句があります。

・山茶花を 旅人に見する 伏見かな(井原西鶴

・山茶花を 雀のこぼす 日和かな(正岡子規

・山茶花や いくさに敗れたる国の(日野草城