日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.侍/士(さむらい)
昔、黒澤明監督・三船敏郎主演の「七人の侍」という映画がありましたね。
「侍」とは、武芸をもって貴族や武家に仕えた者、武士一般の総称です。
侍の語源は、貴人のそば近くに使えることを意味する動詞「さぶらふ(さぶらう)」の名詞形「さぶらひ」に由来します。
「さぶらふ」は、「守らふ(もらふ)」に接頭語「さ」が付いた「さもらふ」が古形となる。
平安時代、「さぶらひ」は貴人のそばに仕える男のことを言いました。
鎌倉時代以降、武士階級の勢力が強まり、武士一般を呼ぶようになり、室町時代に「さぶらひ」から「さむらひ」へ音が変化し、「さむらい」となりました。
1603年の『日葡辞書』には「尊敬すべき人」という語釈がされており、侍は武士の中でも偉大な人物を評価する語となっていました。
2.差し金(さしがね)
「差し金」とは、陰で人をそそのかし操ることです。
差し金の語源には、二つの説があります。
ひとつは、歌舞伎で、黒塗りの竿の先に針金をつけ、チョウや鳥などの小動物を操るための小道具を「差し金」(下の画像)と言ったことから。
もうひとつは、人形浄瑠璃(文楽)で、人形の手首や指を動かすのに用いる細い棒を「差し金」(下の画像)と言ったことから。
このうち、歌舞伎の小道具の説が一般的ですが、陰で舞台を操る意味から転じたことで共通するため、どちらが現在の「差し金」に由来するとは断定できません。
3.薩摩芋(さつまいも)
「さつまいも」とは、熱帯アメリカ原産のヒルガオ科の蔓性多年草、一年生作物です。塊根は食用のほか、デンプンやアルコール・焼酎などの原料となります。甘藷(かんしょ)。
さつまいもは、16世紀末にルソン(フィリピン)経由で中国福建省に伝わり、1597年に宮古島、1607年に琉球へ伝わり、1614年頃に薩摩に伝わりました。
「さつまいも」は薩摩に伝来したことから付いた名ですが、伝来ルートなどの違いにより、「唐芋(トウイモ・カライモ)」「琉球薯(リュウキュウイモ)」などと称されます。
伝来した地方では、さつまいもの栽培が行われていましたが、関東地方に広まったのは、青木昆陽が1735年に『蕃薯考(ばんしょこう)』を著し、救荒作物として普及に努めたことによります。
「薩摩芋」「甘藷(さつまいも/かんしょ)」は秋の季語で、次のような俳句があります。
・草市や 僅に細き 甘藷(野村喜舟)
・秋風や 甘藷酒通す 咽仏(野村喜舟)
・内閣改造 甘藷包みし 新聞紙(星野禎三)
4.里芋(さといも)
「里芋」とは、熱帯アジア原産のサトイモ科の多年草です。約200種の品種があります。
里芋の渡来は古く、奈良時代には栽培されていたといわれます。
元々「イモ(奈良時代は「ウモ」)」と呼ばれるものは、山で採れる「山芋」のことを指し、それと区別するために、「里で栽培される芋」の意味で「里芋」と呼ぶようになりました。
ただし、「サトイモ」は室町時代末期になってから現れる呼称で、奈良時代には「イヘツウモ(家の芋の意味)」、平安時代には「イヘツイモ」や「イヘノイモ」と呼ばれました。
里芋の別名には「家芋(いえいも)」「畑芋(はたけいも)」「田芋(たいも)」などあり、これらも「山芋」に対して「人家・村里で栽培される芋」の意味からの命名です。
「里芋」は秋の季語です。
5.秋刀魚(さんま)
「サンマ」とは、ダツ目サンマ科の魚です。体は細長く、側扁し刀状です。
サンマの語源には、体が細長いことから「狭真魚(さまな)」の音便約とする説。
古くは「三馬」や単に「馬」と言われており、「サウマ」「サムマ」「イソムマ(磯・甘味)」からとする説。
「イサウマナ」「サムマナ」「サムナ」の順に変化したとする説などがありますが、どれも確定できるものではありません。
京都ではサンマが「サヨリ」とも呼ばれていましたが、サヨリはサンマと同様に沿岸に群れを成す魚であることから、単に区別されていなかっただけとも考えられます。
ただし、他の群れをなす魚の多くが「サ」で始まることから、関連性がないとも言えません。
サンマの漢字「秋刀魚」は、体が刀状で秋の代表的な魚であることからの当て字です。
「秋刀魚」は秋の季語で、次のような俳句があります。
・星降るや 秋刀魚の脂 燃えたぎる(石橋秀野)
・夕空の 土星に秋刀魚 焼く匂ひ(川端茅舍)
・秋刀魚焼く 烟(けむり)の雨と なりにけり(久保田万太郎)
6.三文判(さんもんばん)
「三文判」とは、出来合いの安価な印判のことです。
三文判の「三文」は、江戸時代以前の通貨で、一文銭三枚のことです。
時代により価値は異なりますが、千文が一貫、四貫文が金一両で、三文は非常に安価な額となります。今ならさしずめ、「百円ショップ」の商品のような安価な感じでしょうか?
そこから価値の低い物や、安い物に対して「三文」はつけられるようになりました。
本来、はんこは注文後に作られ、出来合いのはんこは安価で粗末な物であることから「三文判」と呼ぶようになりました。
その他、「三文」が付けられた言葉には、江戸時代以前の「三文絵」「三文花」「三文雛」「三文野郎」「三文芝居」、明治以降には「三文文士」「三文雑誌」があります。
7.匙を投げる(さじをなげる)
「匙を投げる」とは、前途の見込みがないと断念する、諦める、手を引くことです。
匙を投げるの「匙」は、薬を調合する匙のことです。
患者の治療方法が見つからず、医者(漢方医)が匙を投げ出すことから、これ以上の治療はないと見切りをつけることを「匙を投げる」と言いました。
江戸後期の川柳集『誹風柳多留』には、「田舎医者 さじを投げては 馬で逃げ」の例が見られます。
そこから、医者が治療を諦める以外でも、物事を断念することを「匙を投げる」と言うようになりました。