日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.霜(しも)
「霜」とは、冷却した地面や地上の物体の表面に空気中の水蒸気が昇華し、氷の結晶として凝結したものです。
霜の語源には、しも(下)にあるところからとする説。
草木がしぼむところから、「しぼむ(萎む)」の意味。
「しみ(凍み)」に通じる語。
「し」が「白」、「も」が「寒い」もしくは「毛(もう)」の意味など諸説ありますが、正確な語源は分かっていません。
漢字の「霜」は、「雨」+音符「相」からなる会意兼形声文字です。
「相」には「別々に並ぶ」「縦に向かい合う」の意味があり、霜柱が縦に並び立つところから作られました。
「霜」は冬の季語で、次のような俳句があります。
・葛の葉の おもてなりけり 今朝の霜(松尾芭蕉)
・野の馬の 韮(にら)をはみ折る 霜の朝(与謝蕪村)
・つやつやと 柳に霜の 降る夜かな(久村暁台)
・死や霜の 六尺の土 あれば足る(加藤楸邨)
2.終盤(しゅうばん)
「終盤」とは、長期間にわたって行われる物事の終わりに近い頃、最終段階のことです。
終盤は、囲碁や将棋などで、勝負の終わりに近づいた段階や、その局面をいう語です。
「盤」は、すごろくや囲碁、将棋などをする際の台のことで、その盤で行われる勝負の終わりの段階というところから「終盤」と言うようになりました。
3.白を切る/しらを切る(しらをきる)
「しらを切る」とは、知っていながらわざと知らないふりをする、しらばくれることです。
しらを切るの「しら」は「知らぬ」の略で、「白」は当て字です。
また、「しらじらしい(白々しい)」の「しら」、「真面目」や「正気」の意味の「しら(白)」からともいわれます。
「切る」は、「啖呵を切る」「見得を切る」などと同じで、目立つような口ぶりや態度をする意味です。
4.仁義(じんぎ)
「仁義」とは、ヤクザ・博打打ち・香具師などの間で行われる初対面の挨拶や、道徳・おきてのことです。
仁義は、本来、儒教道徳で最も重んじられる根本理念のことです。
「仁」は、広く他人やものを思いやり、いつくしみの気持ちをもつこと。
「義」は、行いが道徳・倫理にかなっていることを意味します。
ヤクザなどが挨拶の意味で使う「仁義」は、儒教の「仁義」とは無関係な言葉で、「挨拶をすること」や「お辞儀」の意味の「辞宜・辞儀(じぎ)」が語源です。
しかし、中世頃から「じぎ」が「じんぎ」に転じ、江戸時代中頃から「仁義」と混同され、現在のような用いられ方になりました。
挨拶をすることは「仁義を切る」、仁義を守ることは「仁義立て」といいます。
5.秋波(しゅうは)
「秋波」とは、美人の涼しい目元、女性が男性の気を引くためにする媚びた目つきのことです。流し目。色目。
秋波は中国語で、秋の澄み切った水の波を意味する語です。
それが、女性の涼しげな目元のたとえとなり、さらに、男性の気を引くためにする色っぽい目つきの意味となりました。
この色目を使うことを「秋波を送る」と言い、色目を使うことは、気を引くために媚びることも意味します。
現代では、性別や個人・団体を問わず、相手に媚を売る意味で「秋波を送る」が使われます。
6.十五夜(じゅうごや)
「十五夜」とは、旧暦15日の満月の夜のことです。特に、旧暦8月15日の夜をいいます。
月の満ち欠けを基準とした太陰暦では、旧暦15日の夜は満月になるため特別の夜とされ、1月15日の小正月、2月15日の祈念祭など一年を通じて満月の日に祭りを行う例が見られます。
特に、旧暦8月15日の夜は「中秋の名月」と呼び、月見に最適とされ、酒宴を催し、詩歌を詠む習わしがありました。
民間では、十五夜に月見団子・里芋・豆・栗・柿などを供えたり、ススキや秋の草花を飾って月を祭られました。
十五夜の月を「芋名月」と呼ぶのは、この時期に収穫される里芋を供えるためで、月見団子はその芋の代わりといわれます。
「十五夜」は秋の季語で、次のような俳句があります。
・十五夜の 月寝ながらに 拝みゐし(磯崎緑)
・十五夜の 月はシネマの 上にあり(横光利一)
・十五夜の 月浮いてゐる 古江かな(村上鬼城)
7.真髄/神髄(しんずい)
「真髄」とは、物事の最も大切で肝心な点、本質、その道の奥義のことです。
真髄は、「精神」と「骨髄」からできた語です。
精神は思考や感情、気力をつかさどる心であり、「憲法の精神」というように物事の最も根本となるものを意味します。
骨髄は骨の中心にある組織ですが、心の中や心底を意味するほか、最も重要な点・本質を意味します。
語源から分かるとおり、元々の漢字表記は「神髄」です。
しかし、「真」には「本当」の意味があることから、「真髄」と書かれるようになり、現代では主に「真髄」が使われるようになりました。
8.殿(しんがり)
「しんがり」とは、退却する軍隊の最後尾にあって、追撃する敵を防ぐ役、列や順番などの一番あと、最後尾のことです。
しんがりは、最後尾で行動する意味の「しりがり(後駆)」が変化した語です。
しんがりの同義語には、「後備え(あとぞなえ)」や「殿軍(でんぐん)」、「しりはらい(尻払い)」が変化した「しっぱらい」があります。
最後尾を意味する「しんがり」を漢字で「殿」と書くのは、「殿」が「臀」の原字に通じる文字で、「尻」の意味を持つことからです。
9.時化(しけ)
「時化」とは、風雨で海が荒れること、海が荒れて魚が捕れないこと、興業などで客の入りが悪いこと、また、商品の売れ行きが悪いことです。不景気。
しけは、動詞「時化る(しける)」の連用形からで、時化の漢字は当て字です。
「湿気」を活用させた「湿気る(しける)」と同源で、それが天候に結びつけられたと思われます。
『日葡辞書』に「天気が曇る」とあるように、古くは空が曇る意味で用いられました。
時化は、天気が曇ることから海が荒れる意味になり、海が荒れることから不漁の意味。
さらに、不漁から客の入りや商品の売れ行きが悪いなど不景気の意味にもなり、金回りが悪くなると気分が暗くなるところから、「しけた顔(ツラ)」など人の状態も表すようになりました。
10.しらばくれる(しらばっくれる)
「しらばくれる(しらばっくれる)」とは、「知っていながら知らないふりをする(とぼける)こと」です。
「しらばくれる」の「しら」は「白々しい(しらじらしい)」などの「白(しら)」、「ばくれる」は化ける意味の「ばくる」で、「白々しく化ける」の意味からと考えられます。
「しらばっくれる」は、「しらばくれる」が促音化された言葉です。
「しらばっくれる」から「しら」を略して、「サボる」「逃げる」などを意味する「ばっくれる」の語も生じました。